富田高至 編者
恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 19 十丁表 十丁裏
和泉書院影印業刊 65(第四期)
1998年 初版
1997年 第三
左
十丁表
◯をかし男、都人なりける女のかたに、五十はかりなり
ける人を、あひ知たりけるほともなく、かれにけり、
おなし所なれは、女のめにハみゆる物から、男ハわか物
かとも思たらす、女
あま酒の 味にも人のなりゆくか
きのふにけふハ かハるものから
と詠めりけれハ、男かへし、
右
十丁裏
甘酒の 味見飲みしるふる人は
吾ゐる宿の やまの神なり
とよめりけるハ、ま男ある人となん
十丁表
◯おかし男、都人なりける女の方に、五十ばかりなり
ける人を、相知りたりけるほども無く、離(か)れにけり、
同じ所なれば、女の目には見ゆる物から、男は、我が物
かとも思たらす、女
あま酒の 味にも人のなりゆくか
昨日に今日は 変わる物から
と詠めりければ、男 返し、
十丁裏
あま酒の 味を飲み知るふる人ハ
吾居る宿の 山の神なり
と詠めりけるは、間男有る人となん
かれにけり
離(か)れにけり
わか物
我が物
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
あま酒の 味にも人のなりゆくか
きのふにけふハ かハるものから
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
天(あま)雲の よそにのみして ふることは
さすがに目には 見ゆるものから
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
あま酒の あちをのみしるふる人ハ
吾ゐる宿の やまの神なり
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
天(あま)雲の よそにのみしてふることは
わがゐる山の 風はやみなり
『伊勢物語』岩波古典文学大系9
天(あま)雲の よそにのみして ふることは
さすがに目には 見ゆるものから
『古今』恋五 紀有常女 『伊勢物語』岩波古典文学大系9 頭注
空の雲のようにあなたはよそよそしくなってしまわれますね。そういうもののお姿はよく見えますのに、よそよそしい。
『伊勢物語』
天(あま)雲の よそにのみしてふることは
わがゐる山の 風はやみなり
『古今』恋五 業平 初二句 『伊勢物語』岩波古典文学大系9 頭注
ゆきかえり 空にのみして
『業平集』も『古今』と同じ
空の雲のようによそよそしくしてばかり月日を送って入りばかりなのは、自分のかえりを止めるべき山(女)の風がはげしいから。女には男があるからとの意を寓した。