富田高至 編者
恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 14 「なか/″\と つれて御座らば武蔵坊らざ手かけにも なるへかりけり この月はかり」「夜もあけハ きつねむしなと 人やみん またき起こして 残をやりつる」「くりの粉のあたゝけもちの あたるゝ みやけにこんと たんとやらましを」 七丁裏 八丁表
和泉書院影印業刊 65(第四期)
1998年 初版
1997年 第三
右
七丁裏
をかし男、甲斐國へすゞろに行至りにけり
そこなる女、江戸の人ハめつらしくや 思ひけん
せちに思へる心なんなりける、さてかの女、
なか/″\と つれて御座らば武蔵坊らざ手かけにも
なるへかりけり この月はかり
歌さへそひひなたくさかりける、さすかにおかしとや
思けん、よひてねにけり、夜ふかく出して
夜もあけハ きつねむしなと 人やみん
左
八丁表
またき起こして 残をやりつる
とよみて、て、この男、江戸へなん まかるとて
くりの粉のあたゝけもちの あたるゝは
みやけにこんと たんとやらましを
といへりけれハ、涎(ヨダレ)こぼちて、「うれしかりけらし」とそ
…けらせし」とそ
いひおりける
七丁裏
おかし男、甲斐國へすずろに行き、至りにけり
そこなる女、江戸の人は珍しくや 思いけん
せちに思える心なん、なりける、さて かの女、
長々と 連れて御座らざ 手かけにも
なるべかりけり この月ばかり
歌さへえ添い、日向 草刈りける、流石におかしとや
思いけん、酔いて寝にけり、夜深く出して
夜も明けば 狐 狸(むじな)と 人や見ん
八丁表
またき 起こして 残を遣りつる
と詠みて、この男、江戸へなん まかるとて
栗の粉のあたたけもちの あたるるは
土産に来んと たんとやらましを
と言えりければ、涎(ヨダレ)こぼちて、「うれしかりけらし」とそ
…けらせし」とそ
言いおりける
すずろ
あてもなくぶらぶらとい
せち
甚だ強く、ひたすら、ぞっこん
手かけ
妾 一ヶ月の月囲い
狐 狸(むじな)
きつねとたぬき
またき
未だ朝が来ぬうちに
栗の粉のあたたけもち
栗の粉を蒸して作った鏡餅
こぼちて
こぼして
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
なか/″\と つれて御座らば武蔵坊らざ手かけにも
なるへかりけり この月はかり
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
中/\に 恋に死なずは桑こにぞ
なるベかりける 玉の緒ばかり
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
夜もあけハ きつねむしなと 人やみん
またき起こして 残をやりつる
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
夜も明けば きつにはめなで くたかけの
まだきに鳴きて せなをやりつる
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
くりの粉のあたゝけもちの あたるゝは
みやけにこんと たんとやらましを
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
栗原の あれはの松の人ならば
都のつとに いざといはましを