富田高至 編者
恩頼堂文
庫旧蔵本 『仁勢物語』 6 三丁裏 四丁表
和泉書院影印業刊 65(第四期)
1998年 初版
1997年 第三版
右
6 三丁裏 四丁表
三丁裏
◯をかし男有けり、女の子にてうましかりけるを、腰を
とらへていたきわたりけるを からうして うませて
いとくらきに、あくた紙子のやふれなとしきて、草
の上にをきたりける子を、「かれは男か女子」かとおとこ
にとひける、後の物をそく、夜もフケにけれハ
鬼子ともしらす、髪さへいといみしうくろく、額会(アタマ)
もいたうふりまハりけれハ、あバらなるくらがりに
女をハ奥にをし入て、男湯をわかひてあびせ
をり、はや夜も明ぬに、この子おほきになりて鬼
子、母を一口にくひてけり、「あ、いたや」といひけれと、鐘なる
四丁表
さハきに え きかさりけり、漸ゝ夜も明行に見れハ、生(ウミ)し
女も子もなし、足すりをしてなけど かひなし
をのこか何そと 人のとひしとき
鬼とこたへてきりなましものを
これハ二條のもとり橋のもとに、つかまきやにてい
たりけるを、刀の柄糸・目貫なとぬすまれて進追て
出たりけるを、堀川の程にて 太郎左衛門 すみついて
いふ大工、またくらきに出ける、いみしう追人ある
を見つけて、とめてとり返してけり、その夜
鬼子をは うみける
6 三丁裏 四丁表
三丁裏
◯おかし男有けり、女の子にて生ましかりけるを、腰を
捉えて行き渡けるを かろうじて生ませて
いと暗きに、芥紙子のやぶれ等敷きて、草
の上にを来たりける子を、「彼は男か女子」かと男
に問いける、後の物をそく、夜も更けにければ
鬼子とも知らず、髪さえいと いみじう 黒く、頭(額会 アタマ)
もいとう振り周りければ、あばらなる暗がりに
女をば奥に押し入て、男湯を沸かいて浴びせ
おり、はや夜も明けぬに、この子 大きに成りて、鬼
子、母を一口に喰いてけり、「あ、痛や」と言いけれど、鐘なる
四丁表
騒ぎに 得 聞かさりけり、漸々(ようよう)夜も明け行くに見れば、生(ウミ)し
女も子も無し、足摺をしてなけど 、甲斐なし
おのこか何ぞと 人のと 等しき
鬼と答えてきり なまし ものを
これは二條の戻り橋の元に、柄巻屋にて至
りけるを、刀の柄糸・目貫なと盗まれて進追て
出たりけるを、堀川の程にて 太郎左衛門 住みついて
言う大工、また暗きに出ける、いみじう追人ある
を見つけて、止めて取り返してけり、その夜
鬼子をは 生みける
額会(アタマ 頭) 額会の額?
元気が余って、頭をひどく回したので
芥紙子のやぶれ
産後に出る胎盤、臍帯など
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
をのこか何そと 人のとひしとき
鬼とこたへてきりなましものを
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
白玉かなにとぞと人の 問ひし時
露と答へて消えなましものを