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お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

そして みんな 大きくなった

2011-08-15 | my Anthology


今日は、おとなになっても『懐かしい絵本』の数々をご紹介。 アメリカ育ちの知人たちに「子どもの時、どんな絵本が好きだった?」と聞き回ってみました。

断然の一番人気は『The Very Hungry Caterpillar』 この本が”嫌い”と言う人には、いまだ会ったことがありません。世界50カ国語に翻訳され、既に3000万部以上も売れている超ベストセラー/ロングセラーです。今でもほぼ毎分一冊売れていると聞けば、なるほど誰でも知っているはず。世界中の愛読書ですね。セレブあおむしの誕生日(出版日;1969年3月23日)にはグーグルも敬意を表しましたし、赤ちゃん用ヨーグルトのデザインにもにもなっています。

人気の秘密は、赤ちゃんあおむしが『食べた』ところに次々と『丸い穴』があいていくデザイン。「あの穴に指を突っ込んで遊んだよ」との声、多数。作者のエリック・カールが、ある日「パンチで紙に穴をあけていて思いついた」というアイデアは、世界で始めてのコラージュ絵本(1969年出版当時)になり、数々のグラフィックデザイン賞を受賞しました。

斬新なデザインというだけではありません。あおむしが、サナギになって蝶になるまでのプロセスを、幼い子にもわかりやすく描いた『科学絵本』として、イギリスの昆虫学会(Royal Entomological Society of London)から“お墨付き”をもらっています。さらに、簡潔で読みやすいテキストなのに、食べ物の名前から一週間の曜日までが無理なく盛り込まれていて実に教育的。たくさんの児童文学賞に輝いたのもうなづけますね。(ブログ記事;『にほんご、えいご、併読のパワー』)

また、バーバラ・ブッシュ前大統領夫人が米国全土の文盲撲滅キャンペーンに利用し、息子の前ブッシュ大統領が学校訪問する時には、読み聞かせに持参した絵本としても有名です。お母さんに読んでもらった絵本は「おとなになっても大好き!」というわけでしょうか?

さて、そのブッシュ前大統領は「愛読書は?」とのインタビューに『Goodnight Moon』をあげ、「大統領は絵本しか読まないのか?」とメディアに揶揄されたことで知られていますが、これはベッドタイムの読み聞かせ定番の一冊。大統領ならずとも、アメリカ人なら誰でもどこかで一度は読んでもらった経験があると言っても過言ではない人気絵本です。友人たちも「『Goodnight Moon』はよく読んでもらったなぁ」と実にみんな懐かしそうでした。

ベッドタイムの読み聞かせといえば『Bedtime for Frances』も皆が懐かしむ一冊です。「さぁ、もう寝る時間ですよ」と言われ、ベッドに入って眠りにつくまでのフランシスの行動と心象風景は、ようやくひとりで寝るようになった年頃の子どもたちから圧倒的な共感を得ること請け合い。お孫さんへの読み聞かせをシリーズでアップしているおばあちゃまのYouTube『Grandma’s Bedtime Stories』にも含まれていますので、ご試聴されてはいかがでしょうか?

パジャマパーティのベッドタイムに「歌ってはしゃいだなあ」と懐かしむ手遊び歌が『Five Little Monkeys』です。「ベッドでふざけちゃだめよ!」とお母さんがドアを閉めた途端にがばっと起きて枕を投げっこしたり、飛び跳ねたり……。遊んでいるうちに一匹ずつベッドから転げ落ちて頭を打ってしまう……というおサルさんの歌です。幼稚園のサークルタイムなどでは、全員がお猿になって、実際にベッドで飛び跳ねては、転げ落ち(る真似をし)ます。YouTubeに楽しい映像がありますのでご覧ください。

次はおなじみ『Curious George』 これも”知らない人はない”人気絵本で人気キャラクターです。数々のシリーズ絵本が刊行されて読み継がれ、テレビや映画になり、ありとあらゆるキャラクターグッズが発売され、ジョージ専門の本屋さんまで登場……とマルチな人気者。人気の秘密は、ジョージが子どもなら誰でも「一度はしてみたい!」と思っていることをやってのけるから。悪気はないのだけれど、とにかく好奇心のおもむくままの行動で”いたずら”をしてしまうジョージ。読み手はハラハラドキドキ! でも「消防車に乗ってみたい」「壁にペンキを塗ってみたい」と思わない小さい子はいないのでは? 娘と私のお気に入りは「空港の荷物受け取りのターンテーブルに乗ってしまう」お話。映画『Toy Story2』には主人公たちがジェットコースターのような速くて複雑なバゲージラインに乗って冒険する場面がでてきますが、あれもきっと制作者がジョージから得たインスピレーションでは?と考えるのは穿ち過ぎ?

続いてドクター・スース。アメリカ人は、子どももおとなもドクター・スースが大好きです。絵本が読まれているだけでなく、学校の演劇やミュージカルの題材に取り上げられたり、映画になったり、イラストを専門に取り扱うギャラリーもあります。『One Fish Two fish Red Fish Blue Fish』はたいてい誰でも読んだことがある一冊でしょう。男の子と女の子がさまざまな(時に奇想天外な)生き物に出会って、友達になったりペットにしたりするお話です。ライムが耳に心地よく、楽しんで読める絵本ですが、単純なテキストには文字を覚えるのに適したさまざまな工夫が凝らされていて教育効果も満点です。

ドクター・スースの人気のほどを示すのは、彼の作品にパロディが非常に多いこと。『One Fish Two fish Red Fish Blue Fish』もそのひとつで、子ども向けのTVアニメやゲームはもとより(シンプソンズにもポケモンにもあります)、学術出版物でさえタイトルの元ネタに使っています。例えば、National Geographic誌の2005年5月号に掲載された『One Fish, Two Fish, Red Fish, Blue Fish, Why are Coral Reefs so Colorful?』は珊瑚礁の生物に関する学術記事ですし、また、お堅いスミソニアンから刊行された『One Fish, Two Fish, Crawfish, Bluefish』と題されたおとなのための料理本は、ただのレシピ集ではなく「持続可能な環境に配慮した魚の食べ方ガイド」で、且つ漁業問題の入門書。いかにもスースのパロディ向きですね。

パロディと言えば、そんなことをしたら次々限りなく問題や要求が出てくるよ……という、時に警句的な引用で使われる絵本もあります。『If You Give A Muse A Cookie』ですが、これも、パロディ絵本が多い、人気の元ネタ絵本です。

絵本はアメリカ人の基礎教養。お子さんに読み聞かせながら、是非ご一緒に楽しんでください。



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日本発『バイリンガル絵本』のおすすめ

2011-08-01 | my Anthology


バイリンガルも、バイカルチャラルも、言うは易し、聞こえもよいのですが、でも、実際に、母国語と違う環境に身を置く生身の子どもは、幼いときから、時には拮抗することもある二つの文化の間で、ともすればすり減りそうになる自我を保ちつつ、なお自己形成してゆくことのですから、決して楽しいばかりではありません。

バイカルチャラルがどうの……と言ったって、むずかしい話ではありません。例えばアメリカの幼稚園では、たいていクラスのスタートは「サークルタイム」といって床にみんなで車座に座ってのホームルーム活動。床に座る時は、男の子も女の子も『あぐら』です。あぐら!今は分かりませんが、娘とアメリカで暮らし始めた20ン年前には、日本では女の子は少なくとも公衆の面前で(ましてや先生の前でなど!)『あぐら』などかかないものとされていたのです。つまり、日本的にはひどく”お行儀の悪い”ことでしたから、。若い母親だった私はけっこう悩みました。日本の不作法がアメリカのお行儀のスタンダードだなんて……これが身についちゃったら困るなぁ……日本の祖父母が見たらいったい何と言うかしら……やれやれ……何と言って説明すれば娘にわかることやら……。

ことは『あぐら』に限りません。アメリカでは「会話するときには相手の目を見て話しなさい」と教わります。会話相手の目を見つめるのが礼儀で、やたらに目をそらすと時には失礼にあたります。だから叱られている時も真剣なまなざしで相手の目を見て聞いています。でも、日本では会話の時に終始相手の目を見ている人は少ないでしょう。時には、直視しないで目をそらす方が礼儀にかなっている場合もあり、叱られているときなどは俯いているくらいがちょうどよく、真剣な目をしてじっと見つめ返していたりすると、「なんだ、その目は!生意気な!」なんて、もっと叱られてしまうことも。実は、このマナーの違いを日米で使い分けるのは、おとなでも至難の業です。

そう、バイカルチャラルって日常生活の問題で、だから大変なのです。なにしろ文化の問題ですから、どちらが正しいとか間違っているとかと一元的に決めることができず、要するに『正解』がないのです。だから、なんとも困りものなのです。

要は『TPOの問題』なのですが、子どもというのは「正しいか間違っているか」という二次元の問題はわかるのですが、「場違い」という三次元のコンセプトはなかなか理解できません。だから、バイカルチャラル子育ての親は、ちょっとした注意やお小言で済むはずのことに、二倍も三倍も説明を重ねなければならず、その結果、まったく不本意にもくどくどとうるさくお説教する印象になります。アメリカに暮らし始めた最初、娘が小さい間、私は、この「いつもいつも注意しなければならない」こと、その都度「いちいち説明しなければならない」ことがイヤでイヤで、いつも憂鬱でした。親だっていちいち注意なんかしたくないし、くどくど説明なんかしたくないのです。

でも、やはり大変なのは子どもであって、親ではありません。自己形成は苦しくても子どもが自分で成し遂げなければならない孤独な作業。そんな子どもに、せめても親がしてやれることは、ふたつの国の文化にできるだけ豊かに接する機会を創り、バイリンガルであり、バイカルチャラルであることが、『半分・半分』ではなく『二倍に豊か』であることを意味するようにと祈ることくらい。あとは子ども自身が語彙を豊かにし、理解力を伸ばし、感性豊かな表現力を身につけて、バイカルチャラルのすばらしさを体現してくれる以外ありません。

そうは言っても、海外暮らしでは、子どもが小さい時にできるのは、せいぜい美味しい日本食を食べさせることや、日本の優れた絵本に触れさせることくらい。私の手料理はどうだったか知りませんが、でも、娘のために読んだ日本の絵本は、どれをとってもアメリカの絵本にまったく遜色がないどころか、実に掛け値なしに素晴らしかった!

バイリンガルの子どもの語彙を豊かにするには、日本語と英語の併読、すなわち同じ本を日本語と英語の両方で読むことが効果的です。こう書くと、日本人の私たちはたいていは英語の絵本の日本語版を読むことを考えます。でも、ちょっと発想を逆転させませんか? 先に日本語で愛読している絵本の英語版を探して併読するのです。お子さんが海外で育っている場合にはとくにこれをお勧めします。

日本の絵本を英語で読むことの利点はいくつもありますが、まずはなんといっても日本を誇りに思えること。日本にはこんなに素晴らしい絵本があるのよ、こんなにクリエイティブなアーティストがいるのよ、こんなにきれいな本を印刷できる技術があるのよ、と子どもに伝えることができます。海外で育つ子どもたちが母国を誇らしく思えることはとても大事なことです。

もう一つの利点は、その絵本が英語に翻訳・出版されていたら、子どもたちはそれを学校や友達のところに持っていって一緒に読む(share)ことができるということです。誇らしい気持ちを、そのまま実際に行動にうつして、友達に見せて共有する(ちょっと自慢もする!)ことができるのです。日本の子どもが大好きな絵本は、きっとアメリカ人の子どもも大好きにちがいありません。そうして「日本の絵本っておもしろいね!」って言われたら、やっぱり嬉しい! でも、どんなにすてきな絵本も日本語のままではなかなか友達と共有できないから、英語になっている日本語の絵本を知っておくのも大事なことなのです。

英訳されている日本の人気絵本には、たとえば、半年くらいからの赤ちゃんなら誰でもきっと大好きな、松谷みよこ作『いないいないばあ』、困った2歳児(terribile two)にぴったりな、せなけいこ作『いやだいやだ』があります。また、のんびり牧歌的な詩情あふれる『かばくん』や『ぞうくんのさんぽ』も翻訳されています。『ぐりとぐら』も忘れてはいけない一冊ですし、お昼寝のおともにぴったりな「がたんごとん、がたんごとん」や、夜のベッドタイムに合った『おつきさまこんばんは』も英語で読み聞かせられます。娘と私のお気に入りだった『どうぞのいす』や、親友の息子のお気に入りだった『あーんあん』が翻訳されているのは嬉しい限り。

個性的な日本の絵本作家はアメリカでも人気です。たとえば五味太郎さんの「みんなうんち」は、何度も書きましたが、大人にも熱烈なファンがいますし、また「きんぎょがにげた」は小さい赤ちゃん向きの知的な探し絵絵本として高く評価されています。知的な探し絵といえば、かこさとし作「とこちゃんはどこ?」もすばらしい作品です。これ、娘の愛読書のひとつでした。それから、かこさんの『だるまちゃんとてんぐちゃん」が翻訳されているのは、バイカルチャラル的快挙! 伝統と現代を両方きっちり見せながら、掛け値なしに面白い絵本です。すでに古典というべき宮沢賢治の「注文の多い料理店」も翻訳されています。どうぞあらめてお楽しみください!

さて、今日のイラストは、娘と私が初めて日本語と英語の両方で読んだ『はらぺこあおむし』です。この絵本は、ちょっと大げさに言えば、私にとって「子どもをバイリンガルに育てる」と決心するにあたっての試金石とも、記念碑ともなった絵本です。言わずもがな、日本でもポピュラーなエリック・カールの傑作。このブログでもすでに何度かご紹介してきました(にほんごえいご 併読のパワー 2)。

バイリンガル子育てもまた楽し、です。




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ことばのない絵本

2011-07-25 | my Anthology


『絵本の読み聞かせ』というと、やはり「お話がついている」ことが、なんとはなしに前提になっています。子どもの目は『絵』を眺めながら、お母さんが読んでくれる『お話』は耳から入り……そのうちだんだん目が閉じて、子守唄のようにお話を聞きながら寝入ってしまう……この快楽こそが読み聞かせの醍醐味です。

でも、折々ご紹介してきたように、いわゆる物語や説明のテキストが全然ついていない『字のない絵本』、つまり絵だけで構成された絵本にも、優れた忘れがたい作品がたくさんあります。

私たち親子にとって思い出深い『字のない絵本』といえば、まずは「It Looked Like Spilt Milk"(こぼれたミルクみたい)」です。渡米直後の娘が、3カ月だけ通った両親参加型のプリスクールで、先生が下さったのがこの絵本。表紙から裏表紙までの全ページが、青空に浮かぶ真っ白な雲の絵だけ。まるで芝生に寝転んで空を見上げているような気にさせられる絵本です。「この雲、何に見える?」「ソフトクリームだぁ!」「カップケーキじゃない?」なんて親子で話しながら「眺める」絵本ですから、どこから読んでも、どこでやめても全然かまわない構成。娘にとっての初めての英語の絵本でした……と言いたいのですが、もちろん、英語だろうが日本語だろうがアラビア語だろうが中国語だろうが、語る言葉にも関係なく楽しめる『ことばのない絵本』でした。

渡米したてで文字通り英単語の一つもわからず、ついに一言も口をきかなかった娘に、クラスの最終日、先生はゆっくりと噛んで含めるように「毎週通ってきて偉かったわね! 絵が上手なのよね~。はさみもすごく上手に使えるのよね~。また会おうね!」と話しかけながら、この絵本を手渡してくださいましたが、実は、『ことばのない絵本』は、もしかすると母親の私への配慮だったのかも……と今にして思います。というのも、両親参加のクラスで先生を手伝いながら、当時の私は、2-3歳の子どもにわかるような簡単な英語表現がまるっきり出てこなくて、いつも立ち往生。とにかく「話せなかった」のは、私も娘以上。なにしろ「ねぇ、ちょっとそれ取って。あっちに置いて」とか「あ、危ない!もっと、そおっと持とうね!」みたいな、フツーの表現がまるっきりできず、子どもとの日常会話はなんてむずかしいの!とため息ばかりついていました。だから、きっと先生は私も娘並みに全然英語がわからないと思われたのではないかしら?

さて、同じ頃に繰り返し読んでいた『字のない絵本』は日本から持参した絵本でした。日本のアーティストによる絵だけの絵本と言えば、そう、安野光雅さん。Anno's Journeyシリーズとして、アメリカでも知られている「旅の絵本」はむしろ私のお気に入りで、娘が大好きだったのはアメリカでは数の絵本 Counting Bookとして紹介されている「10人のゆかいなひっこし」。何度も何度も繰り返して読んだ(眺めた?)なつかしい絵本です。

英語のタイトルが「Anno's Counting House」と知ってちょっと意外でしたが、でも、そういわれてみれば、見開きページを繰る前に「両方のお家を合わせてちゃんと10人いるかな?」と数えるのが楽しい一仕事ですから、たしかに「『数』の絵本でしょ」と言われれば「なるほど」です。細かなディテールまで、それはそれは丹念に描きこまれた安野さんの絵本は、とにかく美しく、日本にはこんなにすてきな絵本作家がいるのよ!と娘に自慢しながら読み聞かせていました。

世界中で読まれているロングセラーのことばのない絵本といえば、たぶん「The Snowman」(邦訳:雪だるまの冒険)でしょう。絵だけの絵本ですが、テキストが文字で書かれていないだけで、明らかに物語はあり、つまりは物語を絵だけで表現した絵本です。

絵本の刊行は1978年でしたが、これに、すばらしい音楽をつけた映像作品が1982年のクリスマスイブにテレビ放映され、爆発的なヒットとなりました。以来”The Snowman”は、毎年クリスマスが近づくと必ず流される定番作品のひとつとなりました。いまでも世界中で愛されています。

物語のある、でも、言葉のない絵本を得意とするのは、トミー・デパオラ(Tomie DePaola)です。ハロウィン定番の「Strega Nona」も、先月ご紹介した「Pancake for Breakfast」もベストセラー。物語性豊かなイラストのためでしょう、字のない絵本であったことを忘れてしまいそうなくらい、読後には、なぜか鮮明に物語の展開が記憶にのこる不思議な絵本です。

一方、ストーリーがあると言えばあるし、ないと言えばない、とも言える絵本もあります。読みようによっては哲学的に深く読み込むこともできるし、単に作者の視点の据え方、視点の変え方に驚かされるのを楽しむこともできる、ちょっとシュールな絵本です。ひとつは「Zoom”」。カメラの焦点距離を変えるだけで情景が一変するように、焦点距離を変え、視点を変えると、物事の意味までが変わるのだということを、ありありと実感させてくれる絵本です。なかなか含蓄があります。そしてもう一冊は、先月ご紹介した「Flotsom」です。過去も現在も未来も一続きであり、そして、ここと彼方とは物理的な距離を超えてつながっているのだ……と理屈でなく、じかに心で気づかされる絵本です。何度読んでも眺めても、そのたびに想像力を刺激されるユニークな絵本ですから、小さい子から大人まで息長くいつまでも楽しめます。

さて、最後に、絵本というより、むしろ全巻アート作品というべき絵本のご紹介です。それこそ「言葉はいらない!」という絵本です。今月ご紹介した「One Red Dot」がまずはその代表。飛び出す絵本(pop-up book)というよりも、まさにポップアート(pop art)です。同じように、一冊丸ごと作品にしてしまった絵本で、ぜひもう一度ご紹介しておきたいのが「Beautiful Oops! 」。こちらには、実は、ちょっとだけ言葉が入っているのですが、四捨五入せずとも、ほとんど言葉のない絵本に入れてかまわないと思います。ぜひ、一度お手に取ってご覧ください。



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絵本で学ぶ アメリカの『常識』

2011-07-18 | my Anthology

手ざわりのやさしい自然の木を使った、幼児向け知恵遊びのオモチャ

小学校4年生でニューヨークから日本に戻った帰国子女の友だちが言うには、学校で一番困ったのが「ラジオ体操ができなかった」こと。2学年上のお姉ちゃんと毎朝オロオロ……。仲間同士のランチで「いまだから笑って言えるけど、ストレスで登校拒否になりそうだったのよ」と、今更ながら慨嘆することしきりでした。ラジオ体操と言えば、日本人なら誰でも、あの音楽とともに自然に体が動いてしまうほど記憶にしみ込んだ、まさに『国民的教養』ですが、それだけに、海外育ちでは絶対に身に付かない『常識』でもあります。

アメリカの幼稚園からそのまま日本の小学校に入学した娘が、最初の週に帰宅するなり言いました。「マミィ、クラスの子が誰でもできるのに、わたしだけできないことがあったの……」。「なぁに?」と聞いても説明ができないまま、私の手を引いて学校に行った娘が「これ!」と指差したのは、運動場に一定間隔で埋め込まれた自動車の古タイヤ。そう『タイヤとび』ができなかったというのです。結局、翌朝7時前に登校して練習したのを覚えています。

『常識』とは、人間が成長していく過程で自然に育まれるもので、そのコミュニティで育った人は誰でも知っていることです。ですから、そうした環境に他所からポンと”投げ込まれた”人は、さあ大変! 自分以外は誰でも知っていることなので、今さら「それな~に?」「どうして?」「どうやるの?」などと大きな声で尋ねるのも憚られ、ひそかに悩むことに。帰国子女ならずとも、オロオロ……する以外ありません。

張り切ってアメリカに留学した友人は、最初のクラスで「出席」を取る教授にどう答えたらいいのかわからず、他の学生たちの反応を必死で眺めて、つじつまをあわせたと語っていました。私は勤務先の大学で、教授/学生が日常的にファーストネームで呼び合う教室風景に驚愕しました(ブログ記事:『たかが呼び名、されど呼び名』)。学校だけではありません。始めての海外暮らしでは、ショッピングをしても(ブログ記事:『アフタークリスマスの恒例イベント』)、お昼にサンドイッチをオーダーしても(ブログ記事:『注文の多い料理店』)、ほんの”ちょっとした”ことで毎日のようにカルチャーショックを受けることになります。

大人でもこれだけのストレスを感じるわけですから、小さな子どもたちはさぞや。でも、子どもたちの順応力の高さに期待しつつ、そんな『常識』を学ぶ格好の手段のひとつが絵本です。実際、小さな子どものための絵本は、まさに常識の宝庫。短いテキストやきれいなイラストの中に、実は、その社会で生きて行くための基本的な知識・常識が満載されています。ひそかに悩んでいるお母さんも、読み聞かせながら「へえ~そうなんだ」と「大人の常識」を身につけられる、というおまけつき。カルチャーショック解消にも、絵本を使わない手はありません。

まず、どこの家庭にも必ず一冊はある『ABCの絵本』は、常識を学ぶ基本のテキストです。凝った絵本の必要はなく、『 Colors, ABC, Numbers』など、ごく一般的なもので十分。これらの子ども向けの特定の単語がアルファベットと一緒にすらすら言えると、けっこう日常会話に使えます。たとえば電話で単語の『綴り』を説明する時などに大いに役に立ちます。日本語では、「ナニヌネノのナです」なんて説明しますが、英語の場合には、"A as Apple"(アップルのA)というように説明します。こういうとき例に挙げられる単語は、たいていABCの絵本に出てくるようなもの。だから絵本に登場する単語を知っておくと便利です。日本人が発音しにくいのは、RとL、NとM、BとVなどですが、ちなみに[BはBoy]、[VはVictory]、[NはNancy]、[MはMary]、[RはRainbow]、[LはLion]あたりが一般的。こうやって説明しながら綴ると、相手に間違いなく伝わります。

さて、簡単な会話表現なのに、日本人は案外上手に使えない、必要十分なだけ言えていないのじゃないかと思われるのが"Thank you"と"Excuse me"です。アメリカでは"Thank you" を言う機会の多いことは驚くばかり。いくら言っても言い足りない感じがするくらいですが、頻繁に使われるのは”Excuse me"も同様。ほんのちょっと場所をあけてもらうときも、込み合った場所で人の体に触れてしまったときも、相手の言葉が聞き取れなかったときも"Excuse me"ですし、人前でくしゃみをしてしまったり、万一にもゲップが出てしまったら、それこそ間髪入れず"Excuse me!です。そして、大事なのは、"Excuse me"と言って、場所を空けてもらったら、必ず"Thank you"と結ぶこと。ここまでがセットです。最後の"Thank you"を言わないと、最初の"Excuse me"が「すみません、通してください」ではなく「どけ!どけ!」と言ったのと同じことになります。だから"Thank you"を言わないで行こうとすると、皮肉たっぷりに"You are welcome"なんて言われちゃうことも。くれぐれも要注意!です。小さな子どもには、こんな絵本を使った練習はいかがでしょうか。『Excuse Me!

アメリカ暮らしで困ったのは、難しい英語表現ができないことよりも、超簡単(なはずの)日常表現が簡単に口から出てこないことでした。たとえば子ども相手に「あ、そこのそれとって、あっちに置いてね」というようなことがすらすらっと言えないのです。でも、絵本を読んでいると、こういう日常会話がだんだん身についてきます。私ははじめは擬音語や擬態語がまったく言えず、往生しました。そう「キィッときしむ」とか「ぐちゃぐちゃぬかるんでいる」とか、「ぬるぬるする」とかが言えないのです。だから「これでもか!」って言うくらい擬音語、擬態語づくしの絵本に出会ったときは快哉を叫びました。『We're Going on a Bear Hunt』。リンゴの歯触りも、マシュマロの口当たりも表現できませんでしたが、これらはそもそも知らなかったと言った方が正確。こういう表現も、やはり絵本で覚えました。それから動物の鳴き声。これがまた日米で違うんです。でも、大丈夫。これは、まさに絵本の出番! ひよこは?猫は?犬は?牛は?----『Who Says Quack?』と懇切丁寧にひとつずつ教えてくれます。

『ラジオ体操』こそないけれど、アメリカにも国民的教養というべき、誰でも知っている歌や手遊びやゲームは実にたくさんあり、これらができないと、やっぱり幼稚園でオロオロ‥‥することになります。大人たちも、時にはふざけて子どものようなゲームをするので、職場でもときどき困惑することがあります。そんな中でも『Five Little Monkeys』はクラシックで、プリスクールのサークルタイムにも度々登場します。年中行事の歌で、とりわけ重要なのはクリスマス。クリスマスの歌は実にたくさんあり、それらはすべて国民的教養というべきアメリカの『常識』。パーティには欠かせませんので、おとなもシャンペンで酔っても歌えるようにしておきましょう。『Wee Sing for Christmas

アメリカ人はジョークが大好き! 子どものときからしょっちゅう冗談を言いあいます。しかし言わずもがな、ジョークも『常識』とか『教養』とかがないとなななか楽しめません。これも子ども向きの絵本参考書があります。『Knock, Knock, Who's There?』 こういユーモアのネタは、子どもと遊ぶときだけではなく、大人の会話にも案外と役に立ちます。でも、もちろん子どものだじゃれはアメリカでも実に無邪気。たとえば”See you later alligater!”とか、"Icecream makes everday Sundae (Sunday)" なんていう、他愛のない可愛いものが一般的です。だじゃれは、洋の東西を問わず、同音異義語を使った音遊び。このときに役に立つのはライム(韻)の知識です。これも日常使う程度なら絵本が一番。『Lyle Lyle Crocodile』はおススメの一冊。

絵本って、やっぱり国民的教養の書なんです。



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映画と絵本 - Motion Picture vs Picture Book

2011-07-11 | my Anthology


写真は映画「You've Got Mail(邦題:ユー・ガット・メール)」のひとコマ。子どもの本屋さんのオーナーである主人公キャサリン(メグ・ライアン)が、店内で子どもたちに読み聞かせをしているシーンです。本棚には、お馴染みのドクター・スースの絵本がずらっと並んでいます。キャサリンが読んでいるのは『Boy: Tales of Childhood』です。

映画の中での読み聞かせといえば、共和党支持派の多い地域では上映中止の劇場もでたマイケル・ムーアの映画「Fahrenheit 911」で、まさにあの9月11日の朝、ブッシュ大統領が小学校を訪問して読み聞かせをするはずだったという場面が出てきます。大統領が子どもたちに読み聞かせようと携えていた絵本は彼の愛読書『Goodnight Moon』だったとか。

中でも就寝前の読み聞かせ(bedtime story)は、アメリカ映画ではおなじみのシーン。ちょっと旧いところでは『E.T.』で、エリオットと妹にお母さんがピーターパンのお話を読み聞かせ、「妖精を信じる?信じるなら手を叩いて!妖精が消えてしまわないように!」のくだりで二人でが一生懸命手を叩く様子を、E.T.がクローゼットの中からじっと眺め入っている……という場面が出てきます。また「I Am Sam」では、知的障害をもつ父親が、娘に彼の愛読書のドクター・スースの『Green Eggs and Ham』を実に嬉しそうに何度も繰り返して読み聞かせる場面が印象的です。ごく最近の映画「Chaos Theory」では、フツーの家庭の典型的な読み聞かせ絵本として、『Five Little Monkeys』が登場しています。

また、絵本のキャラクターと映画の主人公を重ね合わせる……というのもよくある手法。最近の映画では「The Blind Side(邦題:しあわせの隠れ場所)」の中で、母親役のサンドラ・ブロックが『The Story of Ferdinand』の絵本を子どもに読み聞かせる場面があります。息子の幼い時の愛読書を読んでいるという設定なのですが、実は、巨漢で力持ちなのに滅法やさしい主人公マイクを、飛びきり大きくて強そうな牡牛なのに花が大好き‥‥という Ferdinand に重ねた比喩です。

絵本が原作になっている映画もたくさんあります。新しいところでは、『Where the Wild Things Are』。オバマ大統領の読み聞かせ絵本として、お嬢さんたちが選んだ一冊でもあります。(ブログ記事:ホワイトハウスの本棚) 昨年映画化された『Cloudy with a Chance of Meatballs』は、朝昼晩、空からおいしいお料理が降ってくる町の物語です。その前には、ロアルド・ダールのちょっと不気味な「Charlie and The Chocolate Factory(邦題:チャーリーとチョコレート工場)」がありました。私が好きなのはドクター・スースの『How the Grinch Stole Christmas!』です。ひねくれ者のグリンチが、村人を困らせようと"クリスマスを盗む”お話。こうして並べてみると、映画になっているのは、いずれもちょっと風変わりな絵本ばかり。出来上がった映画も、幻想的な作品揃いです。

絵本のタイトルがシリアスな会話の中で”比喩”として引用されたものもあります。アクション映画「Air force One(邦題:エアフォースワン)」で、ハリソン・フォード扮する大統領が、テロリストの危険性を語る場面で引用されるのが『If You Give a Mouse a Cookie』。面白いことに、この絵本は、現実の大統領であるオバマ一家のイースターの集いで、次女のマリアが抱えていた”お気に入り”でもあります。

映画ではありせんが、人気テレビ番組の『Office』にも絵本が出てきました。主人公のスティーブ・カレルが、同僚の出産祝いに「これが一番!」と薦める絵本は、なんと五味太郎さんの『みんなうんち』の英語版『Everybody Poos』。日本発の絵本が、アメリカのお茶の間に明るい笑いを誘っていました。



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