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お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

目と耳で楽しむ メディアつき絵本

2011-07-04 | my Anthology

イラスト:MARQUETTE UNIVERSITY、教育学部ニュースレター

お子さんをバイリンガルに育てたいけれど、でも、英語の絵本は読み聞かせられそうもない……、と心配なさっていませんか?

アメリカで子どもを育てることになった時の悩みも、私の「日本語アクセント」でした。私が読み聞かせたせいで、娘が「日本語訛りの英語になっちゃったら困るなぁ……」と思ったのです。でも、暮らしてみてわかったのは、アメリカには”英語が母国語ではない(English as a Second Language:ESL)”人が想像以上にたくさんいるという事実。アジアからは、もちろん日本人だけでなく、中国の人も韓国の人もインドの人もたくさん来ていますし、メキシコや南米出身の”スペイン語を母国語とする”人たち(Spanish Speaking)はもっとたくさんいます。ヨーロッパや豪州の人たちもたくさん暮らしていて、だから、”どこかの国のアクセント”がついた英語が日常的にいたるところで飛び交っていて、実は日常の暮らしではアクセントなんてそんなに神経質に気にする必要はないのです。

でも、やはり、将来ある子どもにはきちんとした英語を教えたいですよね。特に、発音やアクセントの基礎ができる年齢の子どもには、ネイティブの英語を聞く機会が必要です。当時(もう20年も前!)の私が、そう思いつつ手探りで見つけた解決策は『読み聞かせテープつき絵本』でした。

さすが、アメリカ! ESLの親も珍しくない国だからでしょう。ペーパーバックにカセットテープ(今は昔!現代ではCDまたはDVD)がついた、廉価版の『オーディオ絵本』がたくさん出版されていました。さらに感嘆したのは、実に多様な読み手がいることです。読み手には、おとなや子ども、お年寄りや若い人の声があり、有名な俳優やミュージシャンの吹き込みがあれば、作家自ら読み込んだテープもありと、実に多様なのです。しかもこれらの読み手は、ニューヨークやカリフォルニアのアクセントだったり、シカゴあたりの標準米語(あの一昔前のラジオ放送のような格調ある話し振り)があったり、時には、スペインやイギリスやフランス風のアクセントもありで、「え~、ネイティブの英語もこんなに違っているんだ!」と驚き、そのうちには「日本語のアクセントがあっても大丈夫かも……」と妙な自信までわいてきました。

その上、娘と一緒に繰り返し聴いているうちに、子どものスピードにはかなわないにせよ、親の耳にもだんだん聞き取りの力がつくのです。これは思わぬオマケ!

「絵本の読み聞かせまで機械にやらせたら、情操教育に悪いのでは?」と心配される方もあるかもしれません。ホントに親って心配ばかり、因果な商売ですよね。でもテープやCDを聴くときには、おひざに抱っこしたり、ソファやベッドに並んで座り、一緒に絵本を持って、一緒にページを繰りながら聴いてください。そうすれば、効果のほどは親の読み聞かせと変わりません。

さて今日は、わが親子がともに楽しんだオーディつき絵本のうち、特に娘のお気に入りだった絵本をご紹介します。

筆頭は、なにをおいても『Chicka Chicka Boom Boom』です。ジャズの大御所レイ・チャールズの、実に”味のある声”で吹き込まれたテープは耳に楽しく、文字通りテープがすり減るまで聞いた一冊です。内容は「ABCの絵本」なのですが、作り手も読み手もひたすら楽しんで、「ABCを”教える気”なんか全然ない……」という感じの絵本。何度聞いても楽しい秘密は、そのあたりにあるのかもしれません。

娘のベッドタイムのお気に入りは『Tikki Tikki Tembo』と『Caps for Sale』でした。前者は、中国の故事を題材にしたお話。日本の落語「寿限無」と同じコンセプトです。”いかにも昔語り”の落ち着いた静かな声で、お話の要所要所で繰り返される「長い長い中国人の男の子の名前」がだんだんに眠気を誘います。同様に、「Caps for Sale!(帽子はいらんかねぇ~)」と繰り返される帽子屋さんのお話は、帽子を盗んだいたずらお猿に説得を試みる、ひとり語りがおもしろいお話です。

日本語と同様、英語の韻は、詩的な表現から子どもの言葉遊びまでさまざまな場面に登場します。永遠のヒット絵本『Good Night Moon』はその代表的な一冊で、言葉遊びの中にさりげなくマザーグースの断章までがちりばめられて、読みこなすのに教養が求められる一冊です。娘のお気に入り『Lyle, Lyle Crocodile』は、単語 Crocodile(ワニ)とその韻を踏んだ名前ライル(Lyle)をもつワニが活躍するお話す。ちょっと余談ですが、この絵本のタイトル、実は日本人が苦手な「LとR」を言い分ける練習に最適です。お試しください。

さて、登場するキャラクターが現実離れしていて、ちょっとシュールだったり、荒唐無稽だったりする絵本……といえばドクター・スースですね。ドクター・スースの絵本は、現実的な筋書きを求めてしまいがちな親たちには戸惑ってしまう内容の絵本なのに、実は、子どもには大人気。声に出して読んでみると大変耳に心地よい絵本で、もしかすると、これも人気の秘密では?と思わされます。試しにいちど、大きな声で読んでみてください。目で見て読むだけよりも、はるかに楽しめることに気づいていただけるでしょう。小さい子向きは『One Fish Two Fish Red Fish Blue Fish』でしょうか。『Go, Dogs Go』も 『Cats in the Hat』も『Green Eggs and Ham』も小さいときから楽しめます。

古いキャラクターながら、早くからマルチメディアで活躍しているのは『こぐまちゃん(Little Bear)』。絵本シリーズになり、テレビになり、さまざまグッズになり、世界中の人気者です。子どもの掌にも隠せてしまいそうな「豆絵本」もあって、なかなか楽しいシリーズです。

ことばのない絵本を映像にしたDVDが世界中でヒット……と言えば、そう、『Snowman』です。幻想的な映像に、語り代わりの音楽をつけたショートビデオは、クリスマスにTV放映されるやたちまち人気をさらいました。絵本とは趣の異なる作品に仕上がった映像はベストセラーになり、またBGMもヒットチャートに載りました。YouTubeにもアップされています。

クリスマスと言えば、もちろんクリスマスソング! 12月になると、アメリカ中がクリスマスソングで包まれると言っても過言ではないほど、国民生活にとけ込んでいます。一緒に歌えば、クリスマスがいっそう楽しくなること請け合い。代表的な歌は覚えてソンはありません。子ども向けの『Wee Sing for Christmas』あたりは、お子さんと一緒に楽しんで練習するのに最適。案外、おとなのパーティでも役に立ちます。



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絵本も世につれ・・・

2011-06-27 | my Anthology


商品のモデルも、流行のトレンドも、何もかもが驚異的なスピードで変わっている現代にあって、絵本は驚くばかりにロングテールな商品です。世界中で愛されているキャラクターたちをちょっと見渡してみるだけでも、たとえば『うさこちゃん(Miffy)』は1955年生まれで、人間ならもうすぐ還暦。おなじみ『ピーター・ラビット(The Tale of Peter Rabbit)』はうさこちゃんよりはるかに年長で、1902年生まれの110歳。また『おさるのジョージ(Curious George)』は1941年生まれの70歳です。いずれもシリーズで刊行されていますが、どれもベストセラーで、今日でもまだなお読者を増やしているロングセラーでもあります。

絵本がロングテールなのは、赤ちゃんの暮らしや発育過程が、時代や地域を超えて共通だから。生まれてしばらくは「おっぱい飲んで、ねんねして」の毎日ですが、ほどなくにっこり笑うようになり、お座りしてハイハイしてつかまり立ちして、やがて歩き出す……。赤ちゃんの成長は、人種も住んでいる国も文化も風習も超えて同じなのだ、と改めて教えてくれたのが、最近公開されたドキュメンタリー映画『Babies』です。

7-8ヶ月の赤ちゃんはビジュアルな記憶を保持できるようになるので、「いないいないばあ」で遊ぶことができるようになります。だから呼び名は違っても、この遊びの絵本は世界中にありますね。日本では、タイトルもずばり『いないいないばあ』が既に古典的な定番として人気を保っていますし、一方アメリカでは、最近「Peek-A-Boo(いないいないばあ)」をちょっともじった『Peek-A-Who?(だぁれだ?)』が大人気です。

でも、「歌は世に連れ……」と同じく、社会の変化につれて絵本も変化しています。技術革新に伴い、私たちの暮らしから消え行くモノたちは、やがては絵本からも消えていくのかもしれません。この10年間に、劇的に変わったものといえば……? まずは電話。お母さん世代にとっても既にアンティークかもしれない”ダイヤル式の黒い家庭用電話”が登場する絵本『もしもしおでんわ』は、日本では、まだしっかり現役を保っていますが、アメリカでは、携帯電話の登場で無用の長物になりつつある”公衆電話”を主人公にした『The Lonely Phone Booth』が、おしゃれなニューヨークの街を描いた新しい絵本として登場しています。これは絵本ではありませんが、ノスタルジックな”消え行くモノ”ばかりを解説付モノクロ写真で紹介したカタログ本『Going Going Gone』の表紙も電話です。

消え行くのはモノだけではありません。仕事も同様。かつては、牛乳も新聞も、毎朝玄関まで配達されて来ました。アメリカでは、少年たちのアルバイトだったことが多いので、"milk boy"、"paper boy"と呼ばれていましたが、今ではもう見かけません。郵便も電報も昔は自転車で配達されていましたが、今は自動車になりました。でも絵本の世界では、今でも自転車に乗った『郵便屋さん(Teddy Bear Postman)』が健在で大活躍していますし、郵便屋さんどころか、『石炭屋さん』までが現役です。

時代が遷るに連れて、アメリカの家族も大きく変わっていることは前週のブログ『・・・されど家族』にも書きましが、かつての理想の"アメリカンファミリー”(郊外の大きな住宅に住み、会社員のお父さんと専業主婦のお母さんに、2-3人の子ども)なんて今は昔のこと。現代では、お父さんも家事や子育てをになうのがふつうですから、ニューヨ-クでは週末にはお父さんが娘の手を引いてコインランドリーにお洗濯に行きますし(『Knuffle Bunny』)、スーツにハイヒール履きのお母さんが、赤ちゃんを抱っこしつつお姉ちゃんの手を引いてお家に帰る姿も見慣れたものになりました(『Mommy's High-heel Shoes』)。

映画やドラマに描かれる家族も、最近では、いわゆる伝統的なアメリカンファミリーではありません。ひとにはいろいろな生き方があり、幸福にはいろいろな形があることを、そしてどんな家庭でも良い子が育つのだということを教えてくれます。人気の三部作『Toy Story(ブログ記事:『おひな様とトイ・ストーリー)』のアンディも、『UP!』でおじいさんを訪ねてきて一緒に冒険について行く男の子も母子家庭の子どもです。また映画『The Kids Are All Right』はレズビアンのカップルが築いている家庭の物語で、絵本『Mommy, Mama and Me』が描く家庭の未来像はかくも……と思わされます。

また最近のトレンドは、地球全体のことを考えて暮らすグリーンなライフスタイル。なかでもゴミ処理は重大なテーマです。自分たちが捨てたゴミに追われて地球に戻れなくなったまま宇宙をさまよっている未来の人類を描いた映画『Wall-E』では、地球はもう”青く輝く水の星”ではなく、”赤錆色のゴミ砂漠に覆われた惑星”として描かれています(ブログ記事:『地球はもう青くない』)。そんな私たちのライフスタイルに警告を発するドキュメンタリー絵本が『Here Comes The Gabage Berge!』です。ゴミを満載して他州に捨てに行った船が、どこの港にも入れてもらえずに困り果てる……という実話に基づいたお話のクリエイターは、ゴミからのリサイクル材料で作品を制作しているアーティスト集団です。

さて、最後に、ゴミ以上に、誰もがこの世からなくなってほしいと思っているもの……それは戦争です。が、21世紀を迎えても、私たちはまだこの問題を解決できないでいます。戦火に脅かされる町に暮らしている男の子からのメッセージをこめた絵本が『No!』です。このメッセージが正しく他の国の子どもたちに届けば、未来は変わるかもしれません。子どもたちの想像力には時間も空間をも超える力がありますから。『Flotsam』は時間をテーマに、『Mirror』は空間をテーマに、そんな子どもたちの想像力に大いに期待して語りかける絵本です。



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・・・されど家族

2011-06-20 | my Anthology
アメリカンファミリーの代表と言えば、なんといっても『The First Family of United State』。国民全体のお手本となるだけに、そのイメージと責任は重大です。

「あなたにとって一番大切なものは?」と聞かれると、たいていのアメリカ人はほんんど迷わず「家族(Family)!」と答えます。結婚2組に1組が離婚している現実にもかかわらず、いまだ実に生真面目に、最も大切なものは家族”であるべき”と信じて疑わないアメリカ人。そんなアメリカ人にとっての家族とは『子どもと親がいる家庭』のことらしく、 結婚した夫婦が子どもを育て始めると、そこから”raising family(家族形成)”を始めたと言われます。

”ふるきよき”アメリカンファミリーの情景を絵本に描いているのがシンシア・ライアント。とくに『Relatives Came!』は読むだけで心があたたかくなるお話です 。……遠くの親戚が、家族揃って訪ねて来てくれたの。ベッドが足りないくらい大勢で、だからみんなで床に雑魚寝。でも、だれも気にしてないわ。なにしろ家の中をちょっと歩くだけでも誰かにぶつかって、そのたびにギュッと抱きしめられて「会えて嬉しいわ!」って言われるのよ。

秋から冬にかけて、サンクスギビング(感謝祭)からクリスマスまでのホリデイシーズンはそんなファミリー(家族や親族)が集う季節です。アメリカ中が帰省ラッシュになり、ハイウェイには長距離を移動する車がテールランプを連ね、空港も駅も長蛇の列。家路を急ぐ人々を待っているのは”家族でかこむ”食卓です。

やはり”ふるきよき”時代の感謝祭の情景を描いた絵本が『Old-Fashioned Thanksgiving』です。サンクスギビングの日、おばあちゃんが急病になったという知らせが来て、お料理の途中でお母さんが出かけてしまいました。親戚やお客さんがたくさんディナーに来ることになっているのに、お母さんは帰ってきません。残された子どもたちは、力を合わせてお料理をし、お客様を迎え……。

ところが一方、ホリデイシーズンは、ふだんよりも自殺が多く、犯罪が多く、また離婚の多い季節でもあります。私の周りを見回しても、アリスはサンクスギビング直前の週末に離婚話が持ち上がりましたし、ジェリーはサンクスギビングの日に両親が別居したと話してくれました。

「どうしてホリデーに離婚するの?」と聞くと、「ストレスがたまるからよ」とジェリーはあっさり。「人が大勢集まるだけで気苦労もあるし、迎える側は家事も増えるわ。中には会いたくない人もいるし、お土産やプレゼントを考えるのも大変。もちろんお金もかかるしね」 楽天的で常に明るくふるまい、根っから社交好きに見えるアメリカ人たちも、皆それぞれ気を使って、ストレスを抱えているのです。

それでも、アメリカ人の『家族志向』はゆるぎなく、現代にも脈々と受け継がれているように見えます。でも 時代を下るに連れて、アメリカンファミリーの形は、従来のいわゆる伝統的な家族の形を超えてどんどん新しくなっています。

最近、ニ―ル・パトリック・ハリス(Neil Patrick Harris)とデイビッド・バートカ(David Burtka)が『パパとダディなった‥‥』という話題がメディアを賑わせました。ニ―ルとデイビッドはゲイのカップル。ともに映画やミュージカルで活躍している俳優で、話題の赤ちゃんは 女の子と男の子のふたご。 最先端の医療技術を駆使し、彼らそれぞれの精子で受精させたひとりの女性の卵子を、ひとつずつ同時に代理母に着床させるという計画出産でした。無事に赤ちゃんを授かったニ―ルとデイビッドの子育ては、まさに昨年このブログでご紹介した絵本『Daddy, Papa and Me』そのままの世界です。

20世紀の科学技術は、子どもをつくらない(避妊)技術を確立しただけでなく、同時に子どもをつくる技術も発展させ、いつの間にか誰も「子どもを授かる」とは言わなくなりました。そしていま、宗教によってでも哲学によってでもなく、科学技術によって家族の定義までが大きく変わろうとしています。

妊娠・出産のエンジニアリングはアメリカではかなり日常のこととなり、 夫の精子で受精させた同じ卵子提供者からの二つの受精卵を卵子提供者とは別の二人の代理母にほぼ同時に出産してもらい、同い年の男の子と女の子の『ふたご的きょうだい Twibling(ふたご-Twinときょうだい-Siblingの合成造語)』を授かった夫婦の例も報道されています。 (My Futuristic Insta-Family, The New York Times Magazine, 2011年1月3日)

また『My Sister's Keeper(邦訳「わたしのなかのあなた」』は、出産エンジニアリングについて当事者の子どもの視点から問題提起している映画です。小児白血病の長女に骨髄や血液を提供できるようにと意図的に『設計』され『計画出産』された次女が、この映画の主人公です。

一方アメリカでは、養子縁組も盛んです。よく知られているのは、映画俳優のブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーのカップル。実子を交えて、人種も出生国もさまざまな子どもたちがお母さんと一緒に日本も訪問しています。

こんなトレンドを見据えてでしょうか、絵本も”お父さんとお母さんと子ども”という伝統的な 設定から、どんどん多様化が進んでいるように見られます。

I Like It When…』はそんな絵本の一冊です。登場するのはペンギンのようなキャラクターの子どもとおとな。明らかにおとなが子どもを世話してかわいがり、子どもはおとなが好きでなついているのですが、でも、子どももおとなもユニセックスで性別がわかりません。「おばあちゃんとボク」でも「お父さんとわたし」でも「ベビーシッターとぼく」でも「お母さんとわたし」でも、かわいがってくれる人なら誰を投影してもいいのです。

また、お互いの多様性をあるがままに認めて受け入れ合うのも家族ならでは。自閉症をもつきょうだいも(『Tacos Anyone?』)、ごく幼い”女装が大好き”な息子も(『My Princess Boy』)、家族がしっかり受け止めてこそ、社会にも受け入れられていくのです。

家族は似た者同士と思いがちですが、でも一方で、「こんなに近しい間柄でも、こんなに違うんだ!」と驚き、人はそれぞれユニークなのだという事実を人生で最初に本当に理解するのも家族をとおしてかもしれません。見た目がそっくりなふたごだってそれぞれにユニークな個性があるし(『Lyng And Ting』)、ときには「妹なんかいなければいいのに」なんて思ったリもする(『Big Red Lollipop』)のがきょうだいなのです。

どんな家族からも、子どもは育って大きくなり、やがては家を出て行きます。そして親は後に残されます。親は子どもについて行くことはできません。でも、どんなに大きくなっても、親は子どもが大好きですし、たとえ子どもが親を忘れてしまっても親は子どものことを思っているものです。だけど、そんな思いは親子でもなかなか言えないもの……。そんな親の思いをなんの衒いもなく実にストレートに表現している絵本があります。以前のブログで「世界中のお母さんが泣いた絵本」としてご紹介した『Love You Forever』です。

一方、子どもたちは?というと、若い彼らはいつも自分の人生を生きるのに忙しいものです。だから親のことなんかかまっていられません。でも、ある日、ふと我に返って振り返ると……。そこには、かつてあんなに大きくて頼りがいのあった(時には反抗のしがいもあった)親はもういなくて、思いがけず小さくて年取ったペリカンがいるのを発見したりする……のでしょう。(『Zagazoo』)





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自閉症とともに

2011-06-13 | my Anthology
自閉症(Autism)を大きく取り扱った2006年5月15日号のTime誌

あまり知られていないのですが、アメリカは自閉症に関する研究、治療、教育などの先進国です。研究や治療が進んだ理由のひとつは、自閉症児の出生率の高さ(あるいは自閉症の確定診断率の高さ)。保健省(CDC: Center for Disease Controle and Prevention)の調査によれば、アメリカで生まれる子どもの平均110人に1人が自閉症と診断されており、実は、これは小児がんの出現頻度よりも高い数値なのです。自閉症は、人種・民族、居住地域などを問わずにあまねく見られるのですが、特徴としては女児よりも男児に数倍多く、女の子では240人に1人なのに対し、男の子では80人に1人という高率で、誰にとっても人ごととは思えない実態です。自閉症対策が国家的課題の一つになっていても少しも不思議ではありません。CDCのホームページには自閉症に関する情報がわかりやすく解説されています。

しかし、自閉症の原因は今日でもまだ十分には明らかになっておらず、機序の解明も治療方法もまだ発展途上です。今日では、研究や臨床で世界をリードしているとはいえ、実は、アメリカでも自閉症が認知され治療や研究の対象にされるようになったのはまだ比較的最近のことだからです。国際的にヒットした映画『Rain Man (1988) 』は自閉症の兄とその弟の物語ですが、ずっとひとりっこだと思って成人した弟が、両親の死後、はじめて療養施設で「自閉症をもつ兄」が生きていたことを知らされて会いに行くところから始まります。1950年代、60年代のアメリカでは、自閉症は時には家族の恥として隠されてさえいたのだということがわかります。

そんな偏見と戦いながら、自閉症に対する認識を高め、治療や研究のための環境づくりを進めてきたのは、自閉症児を育てた親たちです。もうひとつのヒット映画『Forrest Gump (1994) 』の主人公も自閉症です。レインマンとほぼ同年代のフォレストですから、やはり幼い頃には世間の偏見やいじめにあって苦労しています。この映画では、そんな環境下で、彼の母親が世間の冷笑に負けず、いかに果敢にわが子を育てていくかがくっきりと描かれています。お母さんの支援のもと、功成り名遂げて、心優しいアメリカンヒーローになっていくストーリーはご存知の通り。

今日のアメリカで、自閉症児に提供されるさまざまな特別教育プログラム(零歳から通える自閉症児向施設、家庭へのスペシャリストの派遣、学校教育補修のチューターなど)は、フォレストのお母さんのような親たちによって獲得されてきたものです(http://www.autism-pdd.net/resources-by-state.html)。

一方、治療や教育が進むと、次の課題 -- 自閉症を持つ成人者の、一般社会での自立をどう支援できるかが浮上します。結婚や子育ても重要課題です。

これも大ヒットした映画に『I Am Sam (2001) 』があります。自閉症の障害がある父親サムに、「娘の養育権」を認めるかどうかを巡って福祉行政者との間で争われる裁判を縦糸に、父と娘の愛情あふれる交流、同様な障害をもつ仲間たちとの繋がり、雇用主や隣人とのやり取りを横糸にして紡ぎだされる物語は、”(アメリカ社会で)障害をもって生きる”という問題を実にリアルに描き出しています。

”親になる”という課題もですが、それ以前に、対人関係を築くことに困難を抱える自閉症の人々が年頃を迎えた時の恋愛・結婚の問題も重要な課題です。『Mozart and the Whale (2005) 』では、ともに自閉症という障害をもつ若者同士がどのようにして出会い(地域の自閉症者同士の交流グループで知り合います)、どのようにお互いの障害を個別具体的なものとして理解し合い(文字通りひとりひとり障害のありようが違うのです)、そして、どのようにしてお互いの中にある対人障害を乗り越えて恋を成就させて結婚するかまでを丹念に描いた物語です。

アメリカでは、商業的に成功した映画が”自閉症の現在”についての一般社会への情報発信源になっていることがわかります。上述の映画はその代表ですが、いずれも実話が下敷きになっており、時代をくだるにつれ、自閉症の研究や臨床が進むにつれ映画もまたテーマを深化させています。自閉症を描いた”おすすめ映画”を、民間の自閉症研究団体がまとめたリストもあります。

さて、では子どもたちの絵本は?とみると、自閉症に焦点をあてた絵本も少なからず出版されています。主流は「自閉症とはなにか」を子どもにわかりやすく解説する絵本で、健常な子どもが、自閉症児を理解しともに交流できることを支援する意図で書かれています。たとえば『Autism Acceptance Book』では、自閉症の子どもに対して、どうふるまえばよいか、どうコミュニケーションを試みればよいかなどがわかりやすい言葉で解説されています。読み進むにつれて、だんだん「私も自閉症の子を自然体で『受け入れる』ことができそう」という気持ちになります。Amazon.comの読者レビューでは「わが子のためにこの本を買いました。『私の自閉症』を理解してほしいから。”どうして他のお母さんと違うのか”をわかってほしいから」という、自らが自閉症をもつお母さんの書き込みもありましたので、この絵本の内容の適切さには定評があると言ってよいのではないでしょうか。

大部分の絵本は、健常な子ども向きに、健常な子どもの視点から書かれています。『Since We're Friends』は自閉症の男の子マット(Matt)についての絵本。イラストに描かれるマットの様子を、友達の男の子が読者に紹介しながら解説するというスタイルで書かれています。マットはバスケットボールの練習がうまく”指示通りに”できないんだ。マットは”大きな音”が苦手だよ。マットは話し相手が言うことを”おうむ返し”することもある。マットは驚いたり、分かりにくい指示で混乱したり、嫌なことがあると騒いだり、訳の分からないおかしな反応をする。これは彼が自閉症だからなんだ。マットが混乱したら?……大丈夫!そんなときは、どうすればいいか教えてやればいいんだよ。だからボクが教えてあげる。だって、ボクらは友達だもん。

対人障害のある自閉症児にとり、誰かと友達になることは時にほとんど至難の技。でも、社会の中で生きていくためには友達を得ること、友達を介して理解の輪が周囲に広がることはとても大切なことです。だから、絵本もそこに焦点を当てて描かれたものがたくさんあります。『A is for Autism, F is for Friend...』『My Frend with Autism』 などはお薦めの絵本です。

自閉症児の身近にいる「もう一人の子ども」、それが彼らの「きょうだい」です。最も身近な”他者”として、自閉症のきょうだいを日常的に見つめる子どもの視点で描き出された絵本には、お説教臭くない素朴な説得力があります。例えば、自閉症の弟イアンについて姉のジュリーはこう語ります。「自閉症があると、モノの見え方も聞こえ方も普通の人とは違うの。手触りや味覚や臭いも普通の人とは違うの。イアンの脳は普通の人とは違うふうに働いているから」 でも、ジュリーに分かっているのはここまで。だから、わかっていても、時にイアンの行動が理解できずに困惑し、いら立ち、また人前では恥ずかしくも思ってしまうのです。もちろんイアンのことは大好きなんだけれど……(「Ian's Walk」)

きょうだいの、時にアンビバレンツな思いを描いた絵本はほかにも出版されています。このブログで以前紹介した『Tacos, Anyone?』もおすすめの一冊ですし、『All About My Brother』も定評の一冊です。自閉症の兄を持った弟の視点といえば、上で紹介した映画「Rain Man」もそうですが、最近話題になった映画に「Black Baloon」があります。自閉症の兄とともに育って思春期を迎えた弟の愛情と困惑、そして折々の怒りや腹立ち、兄弟の激しい諍いや和解までを率直に描いて説得力があります。他の映画同様これも数々の映画賞を受賞しています。

What It Is to Be Me!』は、自閉症の一種とされる一方で、これとは区別すべきとも言われている「アスペルガー症候群」の男の子が主人公の絵本です。”障害を持つ本人”が語る絵本の著者(Mrs. Wine)は、自身がアスペルガー障害の息子を持つお母さんです。実は、この絵本を読むと必ず思い出されるのが、黒柳徹子さんの『窓際のトットちゃん』です。絵本ではありませんし、特に障害のある子どもの話とは受けとめられていないようですが、(障害のために)集団生活とくに学校に適応するのが難しい子どもについて考える上で非常に参考になる本です。各国語に翻訳されていますが、日本では1981年の発売以来750万余部を売り上げ、なお販売数を伸ばしているのは、出版部数としては最高記録。初版から30年を経ていささかも旧くなっていない驚異的な本です。合わせて、ご一読をお勧めします。

最後に、自閉症で且つアスペルガー障害をもつ本人が自ら書き下ろした自伝『The Way I See It』を、HBOが映画化した「Temple Grandin」をご紹介します。テンプル(Temple Grandin)はコロラド州立大学で教鞭をとる動物学者ですが、屠られる食肉用の動物にもっともやさしいシステムを考案し、実用化した発明家でもあり(このシステムはすでに世界中で使われています)、2010年には雑誌タイムが選ぶ「アメリカで最も影響力のある100人」に選ばれています。テンプルは周囲の無理解や偏見と闘いながら、なお自閉症の娘の教育をあきらめなかったお母さんや叔母さんのたゆまぬ努力と支援に支えられながら高等教育をまっとうし、研究者として社会に貢献する立場になりました。またテンプルは、自らの障害について、障害者への支援について、自身の声で語れる数少ない、きわめて貴重な存在でもあり、本業の傍ら各地の自閉症関連の研究会等で勢力的に講演し、障害をもつ子どもの親や教師などに惜しみない情報提供をしています。



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なんたってクマさん!

2011-06-06 | my Anthology

2008年、米国政府は「Endangered Species(絶滅の危機に瀕している動物)」としてPolar Bear(北極グマ)を保護する法律を成立させました。3年経った今でも、アラスカ油田開発や地球温暖化傾向などが絡んで複雑な環境問題となり、各地で論議を呼んでいます。

子どもにもっとも親しまれている絵本キャラクターの動物は?といえば、なんたってクマさん!

犬や猫のようなファミリーペットでもなく、また日常しばしば見かける動物というわけでもないのに、例えば”ぬいぐるみ”といえば、なんと言ってもクマさんがダントツの人気もの。ぬいぐるみだけでなく、絵本はもとより、映画やテレビにもしばしば登場し、またゲームにもたくさん出てきて活躍しています。実際には、野生のクマはかなり獰猛で、時には人間を襲うこともある、ということを考えると、これはなかなかに興味深いことです。

絵本に出てくるクマさんをラインナップしてみましょう。

赤ちゃんから大学生まで、そしてその親たちまでと、現代アメリカ人ならおそらく誰でも知っているクマさんは?‥‥というと、きっとビル・マーティンの『Brown Bear Brown Bear, What Do You See?』の冒頭に出てくる茶色のクマさんでしょう。ほかの動物は忘れてしまっても、この絵本のタイトルを言えない人はほとんどいません。日本発のヒット絵本、松谷みよこさんの「いないいないばあ!(Peek-a-Boo!)」の表紙もクマさんですね。

赤ちゃんが最初に出会う絵本ではクマさんが大活躍です。アメリカの赤ちゃんのベストフレンドといえば『Little Bear』でしょう。ロッキングチェアに座ったお母さんグマにだっこされた”こぐまちゃん”が描かれた表紙を眺めるだけで、なんだか気持ちがほのぼのとする絵本で、人気の秘密はこのシンプルで暖かいイラストの貢献が大きいのでは。赤ちゃん向きの動物紹介絵本には、クマさんはセレブ動物の一員として必ず登場します。『My Big Animal Book』では、ちゃんと表紙にも載っています。

日本では動物園でしか見たことがなかったアライグマも、カリフォルニアでは野生で走り回り、住宅街にも頻々と出没します。いたずらで庭や畑あるいは納屋を荒らしたり、ペットの水を飲んでしまったり、雑食の大食漢でゴミ箱もあさったりするので案外嫌われ者なのですが、でも、家族仲が良く、親子で一列になって歩いているのを見ると、やっぱり「あら、かわいい!」。そんなアライグマは絵本にもしばしば”家族で登場”します。例えば、ぐずる子どもをお母さんが学校まで送ってくれるお話『The Kissing Hand』は就学前後の子どものバイブルですし、「さぁもう寝る時間ですよ」とお父さん、お母さんに言われても「まだ眠くない!」とぐすぐずして子どもたちの圧倒的な共感を誘うお話『Bed Time for Frances』の主人公フランシスもアライグマです。

ちょっとエキゾチックなクマと言えばパンダ。映画『カンフー・パンダ』はDVDになっても大人気で、今月、ついに第二弾が封切られ、週末の封切り初日には映画館に長蛇の列ができました。絵本では、子ども相手に禅を説くユニークなパンダが人気者です。以前このブログでもご紹介しました(『Zen Shorts』)。一方、地球温暖化などの影響で絶滅が心配されているシロクマは、今や環境問題のシンボル。地球、自然、環境保護……等のキーワードと一緒に必ず登場しています。環境問題を子どもに解説する絵本でも、やっぱり表紙にはシロクマが登場しています。

さて、思いっきり両手を広げてギュッと抱きしめるのを「ベアハグ(Bear Hug)」といいます。心からの親しさや同情を表す時、また小さい子への愛情を思いっきり表現するとき、両手を思いっきり広げてこの大きなハグをします。そして、子どもはこれが大好き! だから、みんなにやさしくしてあげよう!と思った女の子は、みんなにこの大きなハグをしてあげました……という絵本『Hug a Bug』の表紙で彼女がぎゅっと抱きしめているのは、いかにもやわらかそうな大きなクマのぬいぐるみです。そしてぬいぐるみのクマと言えば、忘れてならないのが『Corduroy』。誰か買ってくれないかなぁ……とデパートで待ちくたびれていたコーデュロイを買ってお家に連れて帰ってくれたのも小さな女の子でした。

クマさんが家族で登場する絵本の古典はといえば、ロシア民話の『さんびきのくま』。あまりによく知られている絵本なので、このブログではご紹介する機会を逸しましたが、日本語や英語だけでなく世界中で出版されています。世界中で人気……といえば、娘と私の愛読書だったのは「はたらくクマさん」のシリーズです。『ゆうびんやのクマさん(Teddy Bear Postman)』「せきたんやのクマさん」「パンやのクマさん」「うえきやのクマさん」は、どれもいかにも古風なイギリス風に律義に働くクマさんのお話。何度も繰り返して読んだ、懐かしい絵本のひとつです。一方、絵本を卒業する頃から読む、挿絵のたくさん入ったお話の本にも、永遠のヒット作がいくつかあります。主人公のひとりはプーさん、そしてもうひとりはパディントン。いずれも、絵本はそろそろ卒業だけど、まだ一人で独立して長いお話は読めない……という年代の子どもにぴったりのお話シリーズです。いずれも、ウィットとユーモアにとんだ冒険もあって、ほのぼのと心温まる、安心して読めるお話です。

最後に私が一番好きなクマの絵本は……。子どもたちがお父さんと空想のクマ狩りに出かけるお話『We Are Going On A Bear Hunt』です。作者のマイケル・ローゼン自身が朗読のパフォーマンスをYouTubeにアップしています。子どもならずとも、ちょっとこわごわとながら、最後まで聞き入ってしまいます。お試しください。



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