One Fish Two Fist Red Fist Blue Fish
2歳になるやならずの娘とアメリカで暮らすようになった頃、アメリカの街にはまだ本屋さんが健在でした。しかも児童書コーナーには、ブルーナーの”うさこちゃん”の絵本に出てくるようなカラフルで小さな子ども用の椅子やテーブルが置いてあり、誰でも自由に座って(売り物!の)本が読めたのです。いつまでいても叱られず、声を出して読み聞かせても大丈夫。冷暖房完備、子どもが使えるトイレもあって、そのうえコーヒーの無料サービス!までありました。
”立ち読みはいけないこと”と思っていた私は「アメリカってなんて気前のよい国なの!」と感激し、早速いくつかの本屋さんの常連に。中でも、野生のカモが飛んで来る公園の隣にあった本屋さん ”Clean Well-Lighted Place to Read”(清潔で明るい読書に最適な場所)はそのものズバリの洒落た名前。公園の行き帰りに、朝な夕な通ってお世話になりました。
大人になった娘が今でも「大好き!」と言っているドクター・スース(Dr. Seuss)との出会いもこの本屋さんでした。表紙もイラストも可愛いとかきれいとか言う形容詞には当てはまらず、むしろちょっと不気味な個性のドクター・スースの絵本。何度も見かける機会がなければなかなか手に取らなかったでしょうし、あれこれ読み比べる機会がなかったら、面白さがわからなかったに違いない絵本なので、自由な立ち読みの機会を与えてくれた本屋さんにはいまでも感謝しています。
テキストもイラストに負けず劣らずユニークです。"One Fish Two Fish Red Fish Blue Fish"はその代表格、著者の真骨頂ではないかと思います。韻は踏んでいるけれど詩と呼ぶにはいささか抵抗がある、ごくごくシンプルでわかりやすいテキストが、一見、なんの脈絡もなく、次々とランダムに展開します。
初めて読んでやった時、娘が「なんだか、でたらめだねぇ・・・」と、目をくりくりさせて嬉しそうに言いました。そう、一見まるででたらめ、荒唐無稽のきわみです。それが面白くて親子で"はまる"のにほとんど時間がかかりませんでした。
この荒唐無稽が、実は、きわめて用意周到に構成されたテキストなのだと教えてくれたのは娘の小学校の担任の先生です。
「この本の“一見でたらめ”に見える作りが、実は英語のレッスンに最適なのよ」と先生。
実は、表紙のイラストが象徴的なのですが、この本では、短いテキストの中の単語がひとつ変わると、それに伴ってイラストが変わります。イラストがテキストの変化を端的に反映するようにできているので、子どもは、「絵を読んで」いくことで、結果的に「テキストが読める」構造になっているのです。字はあとから覚えればいいし、実際、子どもたちは絵を読んでいるうちに字も覚えてしまいます。
「子どもが”自分で”読めるようになるのよ。読んでやる親はただ楽しんで読んでやるだけ。全然教えなくていいの。これって素敵じゃない?」と先生。たしかに素敵です!
文字通り、”チョー短い”と言いたいくらい短いセッションが、後先かまわずランダムに並んでいて、どこから読み始めてもいいし、好きなところだけ飛び飛びに読んでも全然かまわない作り。おもしろい絵と響きのよいライムが存分に楽しめます。荒唐無稽で盛りだくさんなテキストはバラエティに富んでいて、だから子どもは飽きないでいつまでもページを繰り、そして、すごくたくさん読んだ気になれるだけでなく、実際にたくさん読むことになります。
この本のもうひとつの楽しみは簡単に言葉を置き換えて遊べるところです。ランダムなテキストですから単語の置き換えなどは自由自在。単語を置き換えれば簡単に新しい「自分なり」のテキストになります。こうなると、子どもの成長に合わせて親も一緒になって言葉遊びを楽しめます。
ところで、この本の読み聞かせテープなのですが、これが、かなりの早口早読みなので特筆しておきたいと思います。一読(ならぬ一聴)本当に子どものための読み聞かせ?と耳を疑うばかりのスピード。ESLの親ならずとも、英語ネイティブでも舌を噛みそう。もしかすると初めは、ページをめくってついていくのも大変かもしれません。ところが、子どもはこれが大好き!たいてい大喜びで聴きます。おとなも同様で、聴き慣れれば慣れるほど、まさにこの速度こそがこの本にぴったりと思えてくるから不思議!
まさにプロによる読み聞かせテープならではのエンターテインメント!親子そろって楽しんでください。遠からず、親子そろってハイスピードで暗唱していますよ!