夜の翼

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BABYMETAL LEGEND-S-洗礼の儀- 参戦記 その4

2018-01-08 06:16:12 | ライブ
いよいよライブが始まった。
スタンドなので全然立つ必要ないのだがもちろん起立して、真横のスクリーンを見つめる。
SU-METAL流暢な英語のナレーション。
巨大キツネ祭で予告された内容


希望
絶望
救世主
新たな時代
女神降臨

期待は高まる。

そうすると後方にあるあの巨大なキツネ様の口が開き、黒いローブを纏った暗黒の司祭が登場した。

キツネさんの口開くんかい!

冗談で考えていた展開が現実となっている。
最初ダミーかと思った黒いベールをまとった司祭は、背格好からしてどうもSU-METALのようだ。
爪先を引きずるようにして円形のステージに降り立つ。手に持った杖をで地面をトントンすると6匹のキツネさんが花道に登場。円形ステージを引っ張り出した。

キツネさんたち、ステージ引っ張るんかい!
っていうか、あのステージ移動式なんかい!


花道の脇に敷かれていたレールはこのステージ移動用であった。
会場のどよめき。ステージは花道に沿ってゆっくりと進む。あまりにもゆっくりなので人力で動かしているのかと思ったら、やはり電動だった模様。
キツネさんたちが足を踏み締めるのに合わせ、手拍子が起こる。
6つのキツネの顔を持つステージを6匹のキツネさんたちが引っ張る。
忘れちゃいないですよ。LEGEND-Sと題されたこのライブはメタルレジスタンス第6章の外伝だってことを。おそらくは新曲の披露があることも。
移動ステージが正面側にたどり着いた。SU-METALはくるっと振り向いて観客の方を見渡す。
杖を振るうと、円形ステージを囲む6匹のキツネさんの目から赤いレーザー発射。そのあとにマスクの第3の目が赤く光り出した。
おっと早くも点灯だ。始まる前の注意事項紙芝居で演出の合図があったらマスク着用という指示があったとを思い出し、頭の上に乗せていたマスクを慌てて着用。
しかし、周りはそのことを忘れているのか、ほとんどが頭の上に乗せたままだ。
会場が赤い眼の光で溢れる。SU-METALが杖の先端を後方に向けると天井に一線の火花が後方に向けて走り、巨大キツネさんのあたりで火薬炸裂。
びっくりしたが、会場大盛り上がり。
と同時に聞き慣れない曲が始まる。プリミティブなドラム。
ステージ上にはさっきまでステージを引っ張っていた6匹のキツネさんたちがドラムを叩いていた。

キツネさんたち、ドラムも叩くんかーい!

このためのドラムセットであったか!
神バンドも演奏を始めている。暗くてよく見えないが、衣装が黒い?
BOHさんの頭だけが白く目立つ。

曲中デスボで何かつぶやいているが聞き取れない。
断片的にDARKかDEATHというのだけが聞き取れる。
後で分かったことだがこの曲が新曲だったようだ。
新曲はこの曲のみ。かなり不気味な感じだが、これにメロディーがのるとどうなるのか、想像がつかない。BMDに代わるオープニング曲になるのだろうか?
いつの間にかSU-METALの姿がない。曲が終わろうとしている。少し呆気に取られたメイトたちから拍手が上がる。

新曲に続けてIDZのイントロ。
ステージセンターにはローブを脱いだSU-MEALが腕をクロスしている。ステージが近くてパイロの炎が熱い。これで会場のテンションが上がらないわけがない。
上手側にはMOAMETALがいつものようにクラウチングスタートの構え。

だが、ここで現実に引き戻される。
視線をステージ下手にやると、そこには誰もいない。SU-MEALのスクリームに合わせてMOAMETALが走り出す。
交差するはずのYUIMETALの姿はなく、2人だけのステージが始まった。
ピットは早くもテンションマックス。サークルも始まっている。
でも、こんな切ないIDZはない。
IDZが1曲目というのはおそらく初めてだと思う。2人は全力で踊り、歌う。
3人いるはずのステージに2人しかいないというのはこれほど寂しいものか。
3人が指を付き合わせるセリフのシーン、YUIMETALのセリフだけがサイレント。
そのあとの間奏の戦闘シーン。MOAMETALがひとりでエア戦闘。
もうすでに見ていられない状態。切なすぎる。

2人だけのIDZを見て何も感じないメイトさんはいなかったと思う。
1日目はTHE ONE限定だけあって、メイトの皆さん合いの手もほぼ完璧。
いつにも増してメイトの声が大きい。
ギミチョコ、ドキモと比較的ポップなナンバーが続く。
ピットの動きも非常に激しい。
YUIMETALのパートはメイトがカバーするように声を張り上げる。
2人は移動ステージでのパフォーマンスが多かった。
意外と正面のステージ側にいる機会は少なく、2人の背中を見ている時間が長かった。
いつにも増してMOAMETALの動きがダイナミックに感じたのは気のせいだろうか。

ギミチョコの時に気づいた。2人の動きのずれが大きい。
BABYMETALの場合、ダンスについては完璧なシンクロというのは求められていないような気がするが、それにしてもずれが大きすぎる。
もしかして、同期がとれていない?
同期をとるためのクリック音がどちらかのイヤーモニターから流れていない可能性があると思わざるを得ないずれ。
気づかなかった人も多かったが、同じような指摘がライブの後に確認できたから、気のせいでもなかったようだ。
どうもSU-METALの動きがいつもより少し遅い。イヤーモニターの不調なのか。
もしそうだとすれば、その中で歌って踊っているSU-METALとさすがといわざるを得ない。
6匹のキツネさんに囲まれた移動ステージは、キツネさんがスモークを吐いて、眼から紅いレーザーを出しながら移動する。
ステージ自体が上下したり、曲によっては回転したり。
全方向に向けて見えるよう、2人がステージ上を移動しながらのパフォーマンスも多かった。

紅月につながるインストゥルメンタルが流れてきた。
2DAYのライブのとき、武道館、横浜アリーナ、そして東京ドーム、ああ巨大キツネ祭りもそうだ。紅月はいつも2日目に披露されてきた。
ちょっと意外だと思ったが、これで今回は2日間とも同じセットリストだろうとも思った。
ふと右側のディスプレイに映し出されたSU-METALの表情を見て驚く。
こんな表情をしたSU-METALは見たことがない。
そんなに多く見たわけではないがライブのときも、繰り返し見ている映像作品でも、さらにインターネットに溢れているファンカムの映像でも、こんな表情は見たことがない。
思わず隣にいる嫁メタルを肘でつつき、「表情がいつもと全然違う」とささやいてしまった。
いつものように歌い出すが、歌い方もこれまでと違う。聴き手を圧倒するような歌い方ではない。初期の歌い方に近いというか真っ直ぐな歌い方。
表情と歌い方に違和感を感じながら曲は進む。嫁メタルの反対側の隣の席は、今日が初ライブという話が聞こえてきた女性メイトさん。
もうすでに涙を流している。
今日の紅月はとても切ない。
間奏になったら、仮面をかぶったもう一人のSU-METALが舞台上に現れた。
SU-METALはもう一人のSU-METALと格闘を始める。
赤いスカートをはいたかつての自分。
どこかで見たことがあるようなと思ったら、そうか今日はLEGENDだった。
LEGEND Zのセルフオマージュ。
普段と違う動きをした後での歌はちょっと息が切れて苦しそうな感じを受けた。

次はGJ!のイントロ。
ちょっと緊張した。もしかするとYUIMETALの代わりにSU-METALがMOAMETALと二人で歌うかもしれないかと思っていたからだ。
しかし、現れたのはMOAMETALひとり。ひとりぼっちのGJ!
MOAMETALはいつものように笑みを浮かべながら全力で歌う。
見ているこっちはもう泣きそうだったが、MOAMETALの懸命な姿にこちらの声も大きくなる。
基本YMYな嫁メタルも「もあちゃあーーーん!!」と思わず声援を送るほどだった。

シンコペーション、メタ太郎と曲が続く。
メタ太郎ではすっかり恒例となったメイトによる大合唱の声が一段と大きい。
もう自然と大きくなってしまう。

そして紙芝居。

一筋の「閃光」が人々から希望を奪う
止まない雨が天を「黒く」染める

次の曲は東京ドームに続き3回目のNRNRのようだ。
この曲は特別なライブの時だけ歌われる。
もともと歌詞は抽象的で、いかようにも捉えられる。
「二度と会えないけど忘れないでいたい」のは恋人なのか、友人なのか、それとも家族なのか。
抽象的な歌詞は聴き手のイマジネーションに依存する。
それに訴えかけるのは歌い手としては相当難しいことだ。

この紙芝居があることで、NRNRは具体的な意味が与えられる。
この歌の作り手が想像もしなかったような意味。
広島出身の歌い手が、その生地ヒロシマでこの歌を歌う。
「悲しみの向こう側の喜び」「希望の光の訪れを願って」
鎮魂の歌

そう、そうなるはずだった。それだけのはずだった。
それだけでも十分特別なNRNRのはずだった。
でも、違う。SU-METALの歌声を聴いただけではたぶんわからないだろう。
スクリーンに映し出されたSU-METALの表情。
オープニングから感じていた違和感をさらに決定づける。
これを何と表現すればいいのだろう。
もしも、このシチュエーションがドラマになり、名優がSU-METALを演じたとしても
この表情は作れないと思う。
いくつもの感情が入り混じった非常に複雑な表情。
突然訪れた困難に対するとまどいもあっただろう。
でも、いつものSU-METALと決定的に異なる印象を与えた要素はおそらく「不安」だと思う。

SU-METALは鋼鉄の心、メタルハートの持ち主と言われてきた。
アウェイであればあるほど燃えるタイプ。
ラウドパークでのギラギラした眼差し。
ソニスフィアでの伝説のニヤリ。
「ライブは闘い」が信条。
ちょっと常識では考えられないほどのメンタリティ、それがSU-METALだった。
舞台上ではSU-METALになりきっている。
ステージ上では不安などとは無縁。
それがQUEENと呼ばれる所以。

だが、この日、このときは違った。
初めて2人でBABYMETALのライブをやらなきゃならない。
それも広島凱旋の特別なライブで。
なんとか2日間やり切れるだろうか、当然そういう気持ちもあったと思う。
メタルハートに微かに見える感情の揺らぎ。

でもね、あの表情はそれだけでは生まれないと思う。
もっと深いところからきているように思えた。
BABYMETALとしてすでに7年。出会ってからだともう少し長い。
多感な10代を共に過ごし、ともに道なき道を切り拓てきた。
その中で築かれた関係性というのは、自分のようなものが想像できるものではないんだろう。
でも、あえて想像してみる。
例えるなら、いつものように左手でマイクを持とうとしたらマイクが握れない。
自分の手を見てみると、左手の指がない。
驚いて右手でマイクを持つ。
右手でもマイクは握れる。歌は歌える。
でも。

そんな感覚なんだろうか。
ライブの時は3人いて当たり前。3人で支えあいながら乗り切ってきた。
その1人が突然ライブにいないことになった。
SU-METALはそんな状況を想像したことがあっただろうか。

自分くらいの年齢になればわかってくる。
明日は今日の続きとは限らない。
昨日まで当たり前にあったものが、目が覚めてみたらなくなっていることがあるということを。
身近にいる人がある日突然この世からいなくなってしまうことがあることを。
自分の力ではどうしようもない摂理のゆえに。
考えてみれば自分が10代のころには考えてもみなかった。
自分の身近にいる人たちは、あしたもあさっても自分のそばにいてくれることを疑いもしなかった。
SU-METALもそうなんだろう。
抽象的には分かっている。頭では理解している。
でも、実際にいつもいてくれると思っていた人がいなくなるという経験は初めてだったんじゃないだろうか。

この日はSU-METALの御両親、そしてSU-METALとともに歩んできた芸能の道を離れることになった実の姉が見にきていたという。

想像したんじゃないだろうか。
自分を応援してくれてきた大切な家族が、いつかいなくなってしまう日のことを。

「いらない何も 明日さえも 君がいない未来」
「本当はただそばにいてほしかった」

SU-METALにとって抽象的だった歌詞が突然具体性を持つ。自分のことになる。

自分の生まれ故郷で72年前に突然奪われた命。
それは過去のこと。
突然隣にいないことになった、ライブという「闘い」をいつも共に闘ってきた盟友。
それは今日と明日のこと。
そして、ある日突然いなくなってしまうかもしれない大切な家族。
それは不確かな未来のこと。

そうか、あの日あの舞台でNRNRを歌っていたのはSU-METALではなく、中元すず香だったんだ。
「SU-METALなら何でもできる気がする」といっていた彼女。
あの日だけは、3人姉妹の末っ子、「歌をとったら私には何も残らない」広島のすうちゃんだったんだ。

生まれ故郷はやはり特別だ。
歌に思いがのる。
広島という土地が彼女の思いをさらに特別なものにしている。
自分のこの思いを伝えようとしている。
SU-METALとしての圧倒的な存在感は消え、透明になる。
ただそこにあるのは、間もなく二十歳になる1人の歌い手の歌。
彼女の歌だけがそこにはあった。
ひたすらまっすぐな歌。
彼女が大切にしている人に対して本当に大切に思っているよと伝えようとする歌。
そんな歌に聞こえた。

ピアノと弦楽器を演奏するフードをかぶった人物が舞台上にあった。
しげしげと見ていたが、実際に演奏はしているようだったが楽器の音を拾うにマイクが見当たらない。
モニターから出てきている音も聞きなれたいつもの音だ。
あのピアノやストリングスからは、会場に音は出ていなかったようだ。

曲が終わった。深い余韻が残る。
忘れられないNRNRになった。
(つづく)

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