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保守.5 中国オランダ村

2006-08-07 16:59:47 | 記事保守
建設中の巨大テーマパークが“廃虚”に (世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラレポート」):NBonline(日経ビジネス オンライン)
中国版オランダ村 「億万長者が夢の跡」
* 2006年8月4日 金曜日
* 北村 豊

 楊斌(ようひん)という人物を覚えておられるだろうか。

 楊斌は米国の経済誌「フォーブス」の2001年中国長者番付で第2位(資産9億ドル)にランクされた億万長者であったが、その名を一躍有名にしたのは、2002年9月に北朝鮮政府から新義州特別行政区の長官に任命されたことであった。

 新義州は中国との国境に位置し、中国遼寧省の丹東市と中朝友誼橋でつながる要衝である。北朝鮮は新義州を特別行政区として自由貿易区の設立を計画、その初代長官に任命されたのが、オランダ国籍を持ち、2002年2月に金正日の義理の息子となった中国人の楊斌であった。

 ところが、この任命から1カ月後の2002年10月、楊斌は中国当局により詐欺、贈賄、農地の違法占用などの容疑で逮捕された。
中国NO.2の億万長者から一転、懲役18年の罪に

 その背景には、北朝鮮による長官任命が新義州「自由貿易区」設立に反対していた中国政府の逆鱗に触れたのだとも言われているが、実態はよく分からない。 2003年7月、遼寧省瀋陽市中級人民裁判所は楊斌に対して、懲役18年と罰金230万元(約3400万円)の判決を下し、9月に結審した。その後、彼は瀋陽市の郊外にある瀋陽市第1刑務所に収監されて、既に丸3年の歳月を囚人として過ごしている。(最近得た情報によれば、楊斌は今年5月に同じ遼寧省内の錦州刑務所へ移送されている由)

 6月末から7月初旬にかけて、筆者は中国の東北三省(遼寧省、吉林省、黒龍江省)へ業務出張したが、瀋陽市で楊斌が同市北西部に建設していた中国版オランダ村の現状を視察してきた。

 中国版オランダ村とは、楊斌がオランダのアムステルダムにある同名のテーマパークを模倣して1998年に建設を開始した「テーマパーク、住宅、温室による園芸農業」を一体化した複合事業である。
スケールの大きな中国版オランダ村

 最終的な事業の全体像は220万平方メートル、東京ドームの70個分もの広大な敷地に、長崎のハウステンボスのようなテーマパーク、4万平方メートルの温室、33棟の高級マンション、33棟の一般マンション、180棟の高級一戸建て住宅を建設するもので、住宅部分の総面積は57万平方メートルにも及ぶ壮大なスケールである。

 楊斌の逮捕前に、テーマパークと温室のほかに住宅の第1期分(合計面積32万平方メートル)が完成していたようだ。

 さて、オランダ村について語るには、楊斌の波乱に満ちた人生を説明する必要がある。

立志伝中の人物が・・・
 

 1963年に江蘇省南京市で生まれた楊斌は5歳で孤児となり、祖母に育てられた。貧困の日々を送ったが、学費不要で補助金がもらえることから、 81年に遼寧省錦西市の「海軍第2砲兵学院」へ入学。成績優秀により卒業後も学院に残留し教員となった。86年、同学院派遣の留学生としてオランダのライデン大学へ留学。89年の天安門事件を契機に虚偽の政治難民申請を行い、まんまとオランダ国籍を取得。90年、オランダに欧亜国際貿易公司を設立したが、東欧解体をチャンスと見てポーランドへ進出、中国産軽工業品の輸入販売により2年間で2000万ドルの巨利を得た。

 その後、オランダで園芸農業を実習し、94年に温室メーカーと冷蔵企業を買収して欧亜花卉公司を設立。同年、中国への進出を果たして外資企業「欧亜集団」を設立、中国初の園芸スーパーマーケットの開設、温室・冷蔵設備製造及び温室・冷蔵基地の建設を展開した。

 中国各地に設立した事業を98年に売却した楊は、瀋陽市にオランダ村を建設して一大農業基地とすることを計画し、2001年7月には「欧亜農業控股有限公司」が香港株式市場に上場を果たした。欧亜農業株はオランダ資本の中国農業関連株として評判を呼び、4億6000株の株式公開で7億香港ドル(約 100億円)の資本を集めることに成功した。
巨大な建設資金賄えず犯罪に走る?

 ここまでなら立志伝中の人物ということで「天晴れ」と言えるところだが、そうはいかないのが人生だ。オランダ村建設費用は巨大であり、自己資金と銀行借入だけでは賄いきれず、当初の土地使用の名目である農業基地建設とは異なるマンション建設による資金調達に走ることとなり、犯罪行為を積み重ねた。

 また、楊斌の逮捕後、香港株式市場への上場に際し企業データを捏造していたことが判明、「欧亜農業」は上場廃止となり株主に大損害を与えた。

 主導者である楊斌が逮捕、収監されたことによりオランダ村は資金の窮乏を来し、その建設は中断を余儀なくされた。楊斌の逮捕から3年半を経たオランダ村の現状はどうなっているのか、筆者にとってこのテーマは非常に興味をそそられるものであった。

宏大な敷地には巨大な建物の残骸

 中国版オランダ村は瀋陽市の中心部から北西に車で30~40分程の場所にあった。正門とおぼしき門には「中国荷蘭(オランダ)村」と書かれた大きな文字、その後方にはオランダ風の建築群が並び、周辺にある中国の原風景との対比は違和感そのもの。

 かつてはテーマパークに人が群れ、村内を縦横に走る運河には水が流れ、船による村内遊覧も楽しめたらしい。また、180棟の高級一戸建て住宅には各戸に船着場が設けられ、住民は運河を船で移動して自宅に出入りすることもできたようだ。ところが、現在ではテーマパークそのものは休止となり、一部の施設で飲食店が細々と営業を行うのみだし、運河には水も無く、広大な敷地には巨大な建物の残骸のみ。


 高級マンション群では、1棟当たり住宅60戸の建物33棟が整然と並んでいた。これだけで合計戸数は1980戸となるが、マンション地区入り口に立っていたガードマンに聞いたところでは、現在の居住者は300戸程で、それ以外はすべて空家であると。
現在もマンションは販売中

 現在もマンションの販売は行われており、販売価格は1平方メートル当たり1800元(約2万7000円)で、瀋陽市内の平均価格である 3000~3500元(約4万5000~5万2500円)に比べて大幅に安いとのこと。ただし、ここに住むには自家用車が必須で、徒歩ではオランダ村の門まで行き着くだけで疲れること間違いなし、よほど遠出をしないと買い物する場所もない。よほどの物好きでないと住人になろうとは思うまい。


 オランダ村の裏手にはおびただしい数の温室が見渡す限り建設されていた。温室は、主体をなす金属フレームのガラス温室とレンガ造りの温室の2種類あるようであった。楊斌がオランダ村を建設した初期の目的は温室による園芸農業であったはずで、かつて業務で温室も手がけたことのある筆者から見ても莫大な投資であったことは間違いない。

このまま残骸をさらし続けるのか

 これだけの数のガラス温室が集中している場所は中国のみならず日本にも無かろう。これらの温室もかつては園芸植物の栽培が行われたのだと思うが、今や空虚な残骸となり、内部には園芸器具が散在しているのみであった。

 オランダ村の視察を終えての帰り道、ふと気がついた。マンションの販売が現在も行われているということだったが、オランダ村は誰の所有で、誰が管理しているのだろうか。本来の主であった楊斌は刑務所におり、さらに14年の刑期を残している。一方、楊斌の事業主体であった「欧亜農業」は香港株式市場で上場廃止となり、株券は紙屑同然になったはず。楊斌は農業用地として使用権を獲得した土地を住宅用地に違法転用したわけで、本来ならば建設した住宅を壊して農業用地に戻すべきものではないのか。

 オランダ村の所有権や管理者については友人に調査を依頼したが、いまだに返事がないということはよく分からないものと思われる。違法転用による住宅建設もこれだけ堂々と大規模な建設が行われると、行政側の瀋陽市も手の付けようがないというのが実情であろうし、楊斌の逮捕前に住宅を購入した人たちも存在しているわけで、動きがとれないのが実態なのかもしれない。

 楊斌は14年後の2020年(逮捕から起算して18年)に出所することになるのだろうが、中国版オランダ村はその頃まで今のままの中途半端な形で残骸をさらし、「億万長者が夢の跡」として瀋陽市の歴史的記念物という形で存続するのだろうか。

 楊斌の「オランダ村」は中国の億万長者を巡る数多の不正事件の1つに過ぎない。楊斌は貧困から成り上がった成功者にありがちな功名心にかられ、不善を承知で不善を為し、無計画で場当たり的な形で事業を展開して半ば成功したが、新義州特別行政区長官という名誉を求めたことで虎の尾を踏み、すべての罪科を暴かれて挫折したものである。

 一時は立身出世の英雄として庶民の尊敬を集めた楊斌であったが、罪人となった今では、彼が作ったオランダ村は壊れた夢の儚い象徴でしかないように思える。

(北村豊=住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト)


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