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大学院であまり役に立ちそうもない勉強をしたり、陶芸、歌舞伎・能、カメラ、ときどき八ヶ岳で畑仕事、60代最後半です。

「尻馬に乗る」「斜に構える」「衆目が一致する」

2006-05-24 02:39:49 | 独りごと



数年前、元慶応義塾大学教授 井口樹生(いぐちたつお)氏の
こんなタイトル(「日本人なら知っておきたい日本語」)の本
が売れたことがある。それ相応の年代の人なら中学生くらいの
時に教えられた言葉が沢山載っているのだが、あらためて読み
直してみると、なるほど、と思うことが多い。教授は残念ながら
2000年に64歳で急逝された。

今日は井口教授の解説とともに、三点、感想を述べてみたい。

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<尻馬に乗る>

古来、“騎兵”を存分に使えるのは名将だ、といわれるが、日本で
騎兵の速度と攻撃力をはじめて活かしきったのは源義経だったという。
一ノ谷、屋島の戦いの騎兵戦で、平家をさんざんにうち破り、以後、
日本の戦闘は騎兵中心になっていく。

馬に乗った騎兵は、攻撃には強いが、敵陣深く攻め込むため、手強い
反撃を受けることもある。そういうとき、自分の馬から落ちた武者は、
味方の馬の尻に乗せてもらって、二人乗りで逃げ帰った
のが
「尻馬に乗る」の始まりだという。

義経の頃の武士は「尻馬に乗る」のをもっとも恥としたそうだが、今でも
人の「尻馬に乗る」のは格好のよいものではない。これが井口教授の解説
だが、現代でも、尻馬に乗りながら、人の馬の背で空威張りしながら、
ワアワア勝手なことを喚いている者もいる。

「尻馬に乗せてもらったら感謝せよ」

戦い済んで勝ち戦にでもなれば、助けてもらったにもかかわらず、自分の
手柄にしてしまうような不埒な輩がいる。

「尻馬で画策するな」

別の角度からみると、表面では礼儀正しくしていて、人のことを褒め
ながら、裏で画策しているような慇懃無礼な人物も、ある意味では人の
尻馬に乗っている、のかもしれない。そういう人物に限って、自分の腹
の底は見抜かれていないと思っているから可笑しい。人の尻馬に乗ると
きは、馬だって辛いのだから、せめて感謝の気持ちくらいは持ってもら
いたいものだ。

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<斜に構える>

社会には人となかなか同調しようとしない皮肉屋がいる。こういう人の
態度は、俗に"斜"に構えたといわれて嫌われる。
~中略~、

「正眼の構え」

今では、「斜に構える」といえば、物事を正面から見ないで、皮肉っぽく
あしらうことだが、昔は、剣術で、刀を正眼に構えることだった。
すると体は自然に斜めになるが、攻撃法としては正攻法だったから
一見、斜めに見えても、物事を真正面から見据えていたことになる。

「現代では斜に構えるは矢張り斜め」

現代では、「斜」に構えるという言葉は、意味合いとして「斜」のイメージ
は、世の中のことを「ハスに構えている」と解釈している人が多いので、
現代では「正眼の構え」の表現の方が感じがよいと見られている。確か
に、斜に構えると相手の動きがよく見えて即応しやすいのだが、それだけ
に物事を「斜め」から見ていることは確かなようだ。剣術の世界ではない
のだから、物事を皮肉に見ないようにしたいものだ。

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<衆目が一致する>

「斜」が駄目なら「衆目が一致する」はどうであろうか。井口教授の解説
はこうだ。一つのものごとを決めるのに議論が百出して、なかなか結論が
出ないことが多い。しかし、企業経営者の中には逆に、全員一致の案件だ
けは絶対に採用しないという信念を持っている人が少なくないそうだ、
という。

「衆目」の一致した結論には、かならず大きな欠点が隠されているという
のが、その理由らしい。

「衆目とは、網の目のこと」

昔は、網状になったものの間隙、網の目を「衆目」といった。全員が議論
を出しつくしたつもりで結論を出しても、"目"がみな同じでは、一律の考
え方しか生まれないのは当然だ。

われわれの会議でも、一見、「衆目が一致」したかのような雰囲気で終わ
ったはずなのに、次の会議であまり異論がないままに、全く正反対の結論
に逆転してしまう議論が度々あることを思い起こせば、「衆目」は結局、
実は「みんなが見ていない」網の目であることが多いということか。
軽々に「衆目が一致」したようなときには、十分に気をつける必要がある
ということだ。

そういえば、私が、粘土に網目模様を入れるときは、焼き物の表面がスベ
スベしないように、わざわざ間隙を入れていることを思い出した。

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