岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

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現代の短歌:篠弘編著(東京堂出版)

2013年09月28日 23時59分59秒 | 書評(文学)
「現代の短歌」篠弘編著 東京堂出版

 本書の特色はいくつかあるが、大きな特徴として、収録歌人、歌数の多さがある。サブタイトルにもなっているが、100人の3840首がおさめられている。この種のアンソロジーとしては群を抜いて多い。

 また、高野公彦の「現代の短歌」が、昭和の歌人を対象としているのに対し、本書は昭和20年以降を対象としている。おそらく昭和20年以降を「現代短歌」と認識しているのだろう。

 また、特徴の一つに、「篠が歌集を指定し、作者がその歌集の『顔』の見える作品を集録する」という編集方針がハッキリしている。従って収録歌の内容が、ほかのアンソロジーとは違う。

 最後に、篠の解説がついている。これが三篇ある。(それぞれの解説に挙げられた短歌を紹介する。)

「時代による恋歌の変化」

 ・たちまちに君の姿を霧とざし或る楽章をわれは思いき(近藤芳美)

 ・愛すとき夏美がスケッチしてきたる小麦の緑みな声を喚ぐ(寺山修司)

 ・あの夏の数かぎりなきそしてまたたった一つの表情をせよ(小野茂樹)

「老境を詠んだ秀歌」

 ・あかがねの色になりたるはげあたまかくの如くに生きのこりけり(斎藤茂吉)

 ・若き日の疲れ知らざるこころ癖なほも残りて老を侘しむ(窪田空穂)

 ・杖をつく人いくたりか道に遭ふわれに似てこころよき対象ならず(佐藤佐太郎)
 
「現代を特徴づける主題」

 ・リベラルな弁護士なりしが老いてはてて嫁の小言に反論をせぬ(久々湊盈子)

 ・俊敏に時流を見分けゆくことをある時点より厭ひはじめき(島田修三)

 ・来るといふ予感にこころひき緊る憲法改正、足のつるとき(岩田正)

 この3篇の解説は、一種の「エッセイ」であり、歌論でもある。短歌の初学者に好適な一冊と言えよう。

 以下、収録歌人を列挙する。

 窪田空穂、斎藤茂吉、前田夕暮、土岐善麿、釈迢空、土屋文明、前川佐美雄、木俣修、坪野哲久、葛原妙子、窪田章一郎、佐藤佐太郎、斎藤史、宮柊二、高安国世、近藤芳美、大野誠生、山崎方代、加藤克己、岡部桂一郎、清水房雄、森岡貞香、田谷鋭、宮英子、武川忠一、築地正子、安永蕗子、竹山広、塚本邦雄、中城ふみ子、河野愛子、上田三四二、岩田正、大西民子、玉城徹、岡野弘彦、山中智恵子、前登志夫、富小路禎子、尾崎佐永子、岡井隆、馬場あき子、橋本喜典、雨宮雅子、高嶋健一、田井安曇、水野昌雄、石田比呂志、木嶋靖来、篠弘、稲葉京子、石川不二子、寺山修司、奥村晃作、小野茂樹、小中英之、浜田康敬、佐佐木幸綱、春日井健、逸見じゅん、岸上大作、玉井清弘、藤井常世、高野公彦、佐藤通雅、福島泰樹、伊藤一彦、三枝昂之、小高賢、大島史洋、沖ななも、河野裕子、時田則夫、永田和宏、香川ヒサ、小池光、道浦母都子、花山多佳子、阿久津英、今野寿美、松平盟子、内藤明、栗木京子、渡辺松郎、小島ゆかり、坂井修一、水原紫苑、米川千嘉子、加藤治郎、大辻隆弘、大塚寅彦、穂村弘、荻原裕幸、俵万智、辰巳泰子、吉川宏志、梅内美華子。




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