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書評:「エズラ・パウンドの碧い指環」天童大人著 北十字舎刊

2014年04月23日 23時59分59秒 | 書評(文学)
本書には19編の詩と、巻末の「跋にかえて」が収録されている。

 作品全編を通して感じられるのは、汎神論的世界観だ。「言霊」という言葉がある。読んで字の如く、言葉に霊が宿るということだが、天童の作品は、まさしくその言霊を信じる詩人の作品だ。

 言葉に無理がない。無駄な言葉もない。それでいて表現する世界は広く深い。時間と空間を超越した感がある。モダニズム、サンボリズム(象徴主義)という文芸用語が脳裏をよぎる。

 だが作品は輸入されたものではなく、天童自身の言葉で構成されている。東日本大震災を主題とした『ガレキの言葉で語れ』とは、好対照な詩集だ。

 19編の作品群は、3つのグループに分かれる。


1、南地中海、北アフリカの匂いのする作品群。

 作者自身が若い時に詩人としての感性をみがく修行をしたのが、スペインの山奥(ピレネー山脈の中)だったから、その時期に培われた感受性だろう。

 詩のタイトルで言うと、「オルドスの犬」「ベルベル人」「示現」「太陽の啓示」がこれに当たる。作者自身は、若い時に吉田一穂(よしだいっすい・後期象徴派の詩人)と親しい交友があったので、吉田と共通する表現が見られる。西脇順三郎が「ギリシャ抒情詩」を表わしたように、天童は、南地中海世界でそれを表現している。南ヨーロッパの聖なる言葉を聞いているようだ。汎神論的であり、アニミズムでもある。


2、言葉の朗唱に関する作品群。

 天童は、日本唯一の朗唱家でもある。「聲を撃つ」という。ノーマイクで自作の作品を音読する。このときに「言霊」が宿ったように感じる。これは天童独特のものだが、「空間」「肉声」「北の聲」「朗唱 1 」「朗唱 2 」「聲神医」「猿楽」がこれに当たる。肉声の極めて精神的なものを作品化している。

3、天童の美的感覚を表現した作品群。

 これはモダニズム的なものも、リアリズム的なものも、散文詩的なものも混在している。「十手考」「無垢の人・土井虎賀壽」「靴」「紫色の夢」「<歩廊>への試み」「<天才>を確認する旅」「我、天才ヲ発見セリ」「エズラ・パウンドの指環」「エズラ・パウンドの墓」がこれに当たる。だが雑多なものの集合ではない。作品の意味するものが恐ろしく深い。いわば1の要素と2の要素の源泉を表わしているようだ。

 散文的なものは散文的に、そうでないものは理屈でなく感じ取るしかないだろう。一つの「美の世界」を表現した一冊である。



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