草むしりしながら

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草むしり作「ヨモちゃんと僕」後2

2019-09-25 05:54:38 | 草むしり作「ヨモちゃんと僕」
草むしり作「ヨモちゃんと僕」後2

(夏)ネコは何かを我慢している⓶

  そんな日ある朝、お父さんが家中のカレンダーを破き始めました。実は七月はとっくに終わっていたのですが、カレンダーが七月のままだったのです。二人ともハウスの仕事が忙しくて、とてもカレンダーまでは気が回らなかったのです。

「今日でハウスも終わりだ」 
  八月のカレンダーを見ているお父さんはなんだかとても嬉しそうです。その日は二人とも夜明け前に出かけていき、帰って来たのはすっかり暗くなってからでした。

「遅くなってごめんね。今日が最後だから、後片付けしていたのよ」
 お母さんは慌ててぼく達のお皿に、カリカリを入れてくれました。
「これ、フサオ。もう少しゆっくり食べなさい。」
 お母さんがぼくに言いました。
「フサオたら、またこんなにこぼして。慌てて食べるからよ」
 ぼくは普通に食べているのですが、お母さんには慌てて食べているように見えるようです。ぼくはお皿に入ったカリカリを食べるのが下手で、半分はお皿の外にこぼしてしまいます。

「ほらそんなにこぼすと『お行儀が悪い』って弓子に怒られるわよ」
「ユミコ」
「そんなこと言ったってなぁ、しょうがないよ。小さい時からの癖だからな。親がかっぱらってきた食い物を、地面の上で大急ぎで食っていたンじゃないのか。皿ン中の物を上品に食うような躾は受けていないよ」
「それもそうだけど、お皿の中の半分はこぼしているわよ」
お母さんはこぼれたカリカリを拾ってぼくのお皿に入れてくれました。

「大変だ、フサオ。弓子に怒られるぞ。あいつは自分に甘く、人には厳しいからな。『こんなにこぼして、もっとお行儀よく食べなさい』ってな」
「うん、ユミコ……。誰のこと」
「大丈夫、気にするな。お前はお皿のカリカリはこぼすけれど、仏壇の湯飲みの中のお茶はこぼさずに上手に飲めるじゃないか」
「そんな、悪いことが上手に出来たからって、誉めてどうするのよ」
「いやいや、お茶なんか飲む猫めったにいないぞ。その上一滴もこぼさずに飲むンだから、たいしたものだ。いいかフサオ、弓子の言うことなんか気にしないでいいからな。それよりも問題は時生だよ。あいつは本当にやんちゃ坊主だからな」
「やんちゃで困るって。弓子がこぼしていたわ」
「だから心配なンだよ。あいつフサオの髭を切ったりしないかって。」

 心配だなんて言っている割には、お父さんはちっとも心配そうな顔はしていません。むしろ嬉しそうにも見えます。
「そんなことするわけ無いでしょう。フサオ、フサオって今から楽しみにしているそうよ」
「トキオかぁ」
「それなら安心だな…。あれっフサオお前もう食べないのかい。まだカリカリが残っているのに……。あいつ今の話、本気にしたのかな」

 ユミコは口うるさくてぼくを叱りつける。トキオはぼくの髭を切ってしまう。ぼくはどっちも嫌だなぁと思いました。そんなぼくの気持ちが天に通じたのか、翌日は朝から雨が降りました。


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