草むしりの「ジャングル=ブック」2
「山神様」
如何でしたか、「ジャングル=ブック」。
シア・カーンって、意外とおまぬけな奴だと思いませんか。雄二はシア・カーンよりも猟師のブルデオが嫌いなようです。「この、ブルデオめぇ」などと言いながら、挿絵の中のブルデオをバンバン叩いていました。
「おいおい、雄二……」
まったく、ユニークな奴だ。よくそんな事考えつくものだ。でも正直に言うと、悪いのはブルデオだと僕も思った。
「まああ」お祖母ちゃんは困った顔をして雄二を見ている。
これ以上叩くと本が壊れてしまう。止めなよ、雄二。この「少年少女世界の名作文学」ていう本はお祖母ちゃんが子どもの時に読んでいた、大切な本なんだから。もうかなり古くなって、あちこちにシミがついたりしているけど、子どもだったお祖母ちゃんが、何度も読み返したみたいだよ。
お祖母ちゃんが子どもの時に、お祖母ちゃんのお父さん。つまり僕たちの曾お爺さんが、毎月一冊ずつ買ってたれたものだって。いつかお祖母ちゃん言っていたじゃないか。曾お爺さんはこの本にために、二階の子ども部屋を板張りにして二段ベッドを買い入れ、押入れをつぶして作り付けの本棚にしてしまったってね。
本棚の中には今でもこの本の全シリーズが、ずらりと並んでいる。
「本が壊れちゃたら、読んでもらえなくなるよ」
雄二はやっとブルデオを叩くのを止めた。
翌日の朝早く、僕は小太郎に起こされた。気持ちよく寝ていたら、急に湿った冷たいものが顔に触って、驚いて目を覚ました。小太郎は僕が目を覚ましたのを確かめると、今度は雄二の所にいった。雄二の顔をペロペロ舐めると、耳元でゴロゴロ喉を鳴らし始めた。ふん、僕とは起こし方まで違うじゃないか。
「えっ、行ってみようか」
雄二は飛び起きて、そのまま部屋の外に出て行ってしまった。あいつら会話している。布団の中で僕は雄二と小太郎を見送った。
「僕は誘ってくれないかよ」
仕方が無いからまた寝ようかと目をつぶったら、小太郎が引き返してきた。大急ぎで僕の所に来て、蒲団からはみ出した僕の足にガブリと噛みついた。
「何するんだよ。血が出るじゃないか」
すると小太郎は僕を見て「ニャー」と、ひと声鳴いた。
「何かあったのだろか……」
僕は蒲団から飛び出して、小太郎の後を追いかけた。
昨日の夕暮れから降り始めた雨が、明け方まで降っていたようだ。ミルクをながしたような濃い霧が立ち込め、水嵩の増した谷川がゴウゴウと音を立てて流れている。空はまだどんよりと曇っていた。
目を凝らすと、裏山の入り口にある竹林の中に人がいる、お祖父ちゃんのようだ。竹林の周りには猪や鹿をよける網が張り巡らされている。お祖父ちゃんはいったいどうしたのだろうか。
「なんだ、お前たち。起きたのか」
「どうしたの、お祖父ちゃん。今朝は筍掘らないの」
「中に入っておいで」
僕たちは網に引っかからないように注意して、竹林の中に入って行った。
猪の仕業だろうか。地面がボコボコに掘り返され、無残に食い散らかされた筍があちこちに散らばっていた。家のすぐ裏まで猪が出るなんて。雨上がりの湿気た地面から、今まで嗅いだことの無い動物の匂いがした。
「やられたよ」
お祖父ちゃんが穴の開いた網を指さして言った。猪が網を食い破って中に入って来たそうだ。猪がその気になれば、こんな網、簡単に食い破ることができるんだ。僕はこの春先、お祖父ちゃんと一緒に竹林の周りに網を張ったことを思い出した。
穴の開いた網を見ながら僕は「ジャングル=ブック」と同じだと僕は思った。
「知らない間にジャングルの神様を怒らせた」
お坊さんが言った言葉を思い出した。ぼくたちも知らない間に山の神様を怒らせたのだろうか。
何かいるのだろうか。総毛立った小太郎が、深く立ち込めた霧の向こうに向かって低く唸り出した。雄二が僕の手をそっと握って来た。僕は雄二の手を強く握り返し、霧の中を覗き込んだ。真っ白で見えない。
「来年はもっと丈夫な網張るからな。二人とも手伝ってくれるか」
お祖父ちゃんの言葉に僕たちは頷いた。
雲の隙間からお日さまの光が差し込んできた。すぐに霧も晴れるだろう。僕は固く握りしめた雄二の手を放した。逆立った小太郎の毛も、元に戻ってきた。
「さあ、朝ごはんにしよう」
僕たちは網に引っかからないように用心しながら、竹林の外に出た。
明日からいとこたちが泊まりにきます。祖母ちゃんも本を読んでくれそうにありません。ちょっとつまらないけど、皆で鯉のぼりの下で柏餅を食べる約束したので、それも楽しみです。
祖母ちゃんも大忙しなので、五月六日まで草むしりブログはお休みします。
次回五月七日より「ジャングル=ブック」の連載を再開します。モーグリの今度の敵は最強です。さてモーグリはどうやって戦うのでしょうか。ご期待下さい。
それではみなさん「獲物がどっさり」
「山神様」
如何でしたか、「ジャングル=ブック」。
シア・カーンって、意外とおまぬけな奴だと思いませんか。雄二はシア・カーンよりも猟師のブルデオが嫌いなようです。「この、ブルデオめぇ」などと言いながら、挿絵の中のブルデオをバンバン叩いていました。
「おいおい、雄二……」
まったく、ユニークな奴だ。よくそんな事考えつくものだ。でも正直に言うと、悪いのはブルデオだと僕も思った。
「まああ」お祖母ちゃんは困った顔をして雄二を見ている。
これ以上叩くと本が壊れてしまう。止めなよ、雄二。この「少年少女世界の名作文学」ていう本はお祖母ちゃんが子どもの時に読んでいた、大切な本なんだから。もうかなり古くなって、あちこちにシミがついたりしているけど、子どもだったお祖母ちゃんが、何度も読み返したみたいだよ。
お祖母ちゃんが子どもの時に、お祖母ちゃんのお父さん。つまり僕たちの曾お爺さんが、毎月一冊ずつ買ってたれたものだって。いつかお祖母ちゃん言っていたじゃないか。曾お爺さんはこの本にために、二階の子ども部屋を板張りにして二段ベッドを買い入れ、押入れをつぶして作り付けの本棚にしてしまったってね。
本棚の中には今でもこの本の全シリーズが、ずらりと並んでいる。
「本が壊れちゃたら、読んでもらえなくなるよ」
雄二はやっとブルデオを叩くのを止めた。
翌日の朝早く、僕は小太郎に起こされた。気持ちよく寝ていたら、急に湿った冷たいものが顔に触って、驚いて目を覚ました。小太郎は僕が目を覚ましたのを確かめると、今度は雄二の所にいった。雄二の顔をペロペロ舐めると、耳元でゴロゴロ喉を鳴らし始めた。ふん、僕とは起こし方まで違うじゃないか。
「えっ、行ってみようか」
雄二は飛び起きて、そのまま部屋の外に出て行ってしまった。あいつら会話している。布団の中で僕は雄二と小太郎を見送った。
「僕は誘ってくれないかよ」
仕方が無いからまた寝ようかと目をつぶったら、小太郎が引き返してきた。大急ぎで僕の所に来て、蒲団からはみ出した僕の足にガブリと噛みついた。
「何するんだよ。血が出るじゃないか」
すると小太郎は僕を見て「ニャー」と、ひと声鳴いた。
「何かあったのだろか……」
僕は蒲団から飛び出して、小太郎の後を追いかけた。
昨日の夕暮れから降り始めた雨が、明け方まで降っていたようだ。ミルクをながしたような濃い霧が立ち込め、水嵩の増した谷川がゴウゴウと音を立てて流れている。空はまだどんよりと曇っていた。
目を凝らすと、裏山の入り口にある竹林の中に人がいる、お祖父ちゃんのようだ。竹林の周りには猪や鹿をよける網が張り巡らされている。お祖父ちゃんはいったいどうしたのだろうか。
「なんだ、お前たち。起きたのか」
「どうしたの、お祖父ちゃん。今朝は筍掘らないの」
「中に入っておいで」
僕たちは網に引っかからないように注意して、竹林の中に入って行った。
猪の仕業だろうか。地面がボコボコに掘り返され、無残に食い散らかされた筍があちこちに散らばっていた。家のすぐ裏まで猪が出るなんて。雨上がりの湿気た地面から、今まで嗅いだことの無い動物の匂いがした。
「やられたよ」
お祖父ちゃんが穴の開いた網を指さして言った。猪が網を食い破って中に入って来たそうだ。猪がその気になれば、こんな網、簡単に食い破ることができるんだ。僕はこの春先、お祖父ちゃんと一緒に竹林の周りに網を張ったことを思い出した。
穴の開いた網を見ながら僕は「ジャングル=ブック」と同じだと僕は思った。
「知らない間にジャングルの神様を怒らせた」
お坊さんが言った言葉を思い出した。ぼくたちも知らない間に山の神様を怒らせたのだろうか。
何かいるのだろうか。総毛立った小太郎が、深く立ち込めた霧の向こうに向かって低く唸り出した。雄二が僕の手をそっと握って来た。僕は雄二の手を強く握り返し、霧の中を覗き込んだ。真っ白で見えない。
「来年はもっと丈夫な網張るからな。二人とも手伝ってくれるか」
お祖父ちゃんの言葉に僕たちは頷いた。
雲の隙間からお日さまの光が差し込んできた。すぐに霧も晴れるだろう。僕は固く握りしめた雄二の手を放した。逆立った小太郎の毛も、元に戻ってきた。
「さあ、朝ごはんにしよう」
僕たちは網に引っかからないように用心しながら、竹林の外に出た。
明日からいとこたちが泊まりにきます。祖母ちゃんも本を読んでくれそうにありません。ちょっとつまらないけど、皆で鯉のぼりの下で柏餅を食べる約束したので、それも楽しみです。
祖母ちゃんも大忙しなので、五月六日まで草むしりブログはお休みします。
次回五月七日より「ジャングル=ブック」の連載を再開します。モーグリの今度の敵は最強です。さてモーグリはどうやって戦うのでしょうか。ご期待下さい。
それではみなさん「獲物がどっさり」