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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

長期包括運営委託について

2007年10月06日 | 廃棄物政策
(1)長期包括運営委託のメリットとは
 「(桜井市)焼却炉棟運営管理計画評価検討報告書」(以下報告書)はすでに稼動から5年経った桜井市の焼却炉(Hitz日立造船の流動床型ガス化溶融炉)を運転のみの委託から「施設の補修を含めて運営・管理に関するすべての要素(電気・水道代を含む)を委託する」長期包括運営委託方式に切替えることを提言した(平成19年7月)。報告書には長期運営委託をした場合の桜井市側(委託者側)、日立造船(受託者側)双方のメリットを以下のようにあげている。
 委託者側については①財政負担の縮小、②施設の性能確保、受託者側については①性能発注により業務遂行における自由度が高まる、②長期間にわたり安定的な業務の遂行が期待できる、③維持管理(メンテナンス)のノウハウが構築しやすい(p8)。
 報告書は委託者側のメリットを現実化するため、「業務サービス水準は委託者が監視することで確保される」としているが、東京、大阪、名古屋など大都市自治体を除き、自治体側に技術の細部にわたり点検・分析能力を持つ職員が果たしてどれだけ存在するだろうか。

(2)運転管理先(受託者)の選定条件 
 さらに報告書では委託先の選定基準として7項目をあげている。主なものは①施設の安定・安定稼動に責任をもって確実に達成できること、②本施設の様々なノウハウを熟知していること、などであるが、問題は「団塊世代の大量離職」が現実化しつつある中で、現場にどれだけの技術的継承が行なわれているのか、また現地採用が条件の作業員の定着率はどれほどのものなのか、徹底検証が必要である。これはひとり日立造船だけでなく、環境プラントメーカーに共通するきわめて今日的な課題といえよう。
 たとえば都市部のある清掃工場では毎月のように作業員募集が行なわれているという実態がある。またメーカー側で十分な教育要員を確保できず、灰溶融炉の爆発事故を起こした事例もある。 
 もうひとつ注目すべきは⑤の「過去にガス化溶融施設の運転管理において問題となるようなことを起こしていないこと」という項目である。だが日立造船では2004年7月9日、プラズマ式灰溶融炉の爆発事故を静岡市の清掃工場で起こしていた。これは炉のわき腹に縦16センチ、横25センの穴があき、マグマのように真っ赤なスラグが噴出した事故である。もし傍らに人がいたら死傷事故は免れなかった。
 後日、財団法人・日本環境衛生センターが事故原因の究明に当ったが、その報告書で「メーカーの設計ミス」が指摘され、日立造船側はのちに静岡市に対し6,900万円の損害賠償金を支払っている。灰溶融炉にしてもガス化溶融炉にしてもその最大のウィークポイントは耐火レンガにある。機種が異なるから関係ないという理屈は通らない。
 
(3)長期包括運営委託に伴うリスクについて
①受託者(メーカー側)の思惑 
 2002年(平成14年)12月に稼動開始した桜井市グリーンパーク(75t×2)
の総事業費は44億8,000万円。建設単価にしてトンあたり約3,000万円(リサイクルプラザを除く)。当時としてはかなり割安である。その点については報告書にも次のような記述がある。「桜井市の施設と他自治体の類似施設を比較すると建設費は割安となっているが、維持管理費は燃料費を除き割高になっている」(p13)。
 一般にプラントメーカーは「イニシアル(建設費)で利益が出なくてもライフサイクル(維持管理費)で元をとる」ものであり、運営まで委託した場合、その傾向は一層強まるだろう。

②不確実な将来予測
 もともと社会的インフラは「人口が右肩あがりで増える」ことを前提に整備・運営されてきた。 廃棄物処理施設も同様である。しかしこんなにも早くごみが減る時代が来るとは誰も想像しなかった。そんな時に「ごみは常に増え続ける」想定のまま長期包括運営委託をしたとすれば確実に委託側の自治体は損をすることになる。逆にごみがもっと増えればメーカー側の損になるが、そんな状況は考えにくい。

(4)では何をなすべきか
 長期包括運営委託方式は2003年ごろから新規受注が劇的に落ち込んだプラントメーカー側の生き残り戦略である。したがってメリットはメーカー側にとって大きく、自治体側に不利な契約といえよう。
 もう一度そのあたりを検証してからでも遅くない。
 自治体にとって維持管理コストを節約する方法はいくつもある。そのひとつが「経験豊か高度な専門技術者」を擁するスーパーバイザーによる技術支援制度の導入である。これは監督員として発注者の立場で安全対策やコスト削減などの透明性を担保する手法 さらに報告書を見る限り、委託者側が被るであろうリスクの分析がまだ足りない。ありとあらゆるリスクを一覧表化してみる必要があろう。
 仮に長期包括運営委託が議会承認されることになっても1年ごとに問題点を洗い出し、双方でリスク分析を通じた意見交換をするなど、検討の余地はまだ残されている。 もう一度いう。契約の実施を急ぐべきではない。

表:長期包括委託方式の事例一覧はこちらをクリック


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