
昨夜は楽しみにしていた杉田劇場でのジーン・ディノヴィ・トリオ・ウィズ・テッド・ブラウンに向かうべく車中にいた。開演まで余裕の時間だった。一体どんな演奏を聴かせてくれるのか、そんな期待に胸膨らませながら、まったく関係ない音楽をiPodで聴き、ケータイを見る仕草はごくごく普通のおっさんである。
某所からの移動のほぼ中間に差し掛かったことろ、Timbuk2のメッセンジャーバックをいつものような仕草で触ったとき、あるべきポケットに部屋の鍵がないことに気付く。この時点で、ボクは今ここで渾身のコンサートレポートを書くという意気込みが無理だということを悟る。途中の停車駅でおり、すぐに判断したのが不動産屋だった。ところが仲介した物件の鍵は持ってないという。隣りに住む大家さんに頼んで郵便受けに鍵を入れてもらおうと電話するも、これが何度かけても出ないのである。まさか旅行とか。かといって21時近くになってテルするのもどうかと思うし、それでも出なかったらもう術がないないのだ。数千円かけて鍵屋を呼ぶか。
ならば、今からロッカーに投げ込まれてる鍵を取りに引き返すか。そうすれば多分コンサート前半の終わり頃に着くだろう。それよりも、大家さん頼みに頼りたい。そこをギリギリまで粘るも結局は電話が通じなかった。そうこうしてると杉田にどんどん近づいていく。そのロッカーへ引き返すことはもはや出来ない。
そこで出た結論は、ロッカーがあるところの締める時間を先に確認し、その時間に合う分のコンサートを聴くことにしたのだった。どう考えても、19時開演として19時45分には出ないと間に合わない。凄いことだ。杉田劇場からダッシュで京急の杉田駅へ。そこから上大岡で快特に乗り換え品川、そしてJRで有楽町、さらにメトロに乗って・・・。最悪、駅からタクシーだろう。
ということが現実に実行された訳であるが、6曲しか聴けなかった昨夜のステージは感動以外の何物でもなかった。先に、杉田激情と触れてるが、ここは本当に音がいい。もちろん、PAなんて使わない。たしか、3年前かディノヴィのコンサートがここであって写真を撮ることになっていたのだけど、カメラのシャッターが切れず泣く泣く諦めたことがあった。その一瞬のシャッター音が駄目にするほどアコースティックなのである。
演奏は年齢を感じさせず、暖かさに包まれビロードのようなタッチから生まれる繊細でウォームなメロディ。ジャズの伝統があるとすればその最もピュアな感覚を自然に生み出すディノヴィの素晴らしさ。ベースのニール・スワンソンがこれまた抜群の相性とスイング感を醸し出す。もう一人の主役、テナーのブラウン。幸いに2曲聴くことが出来た。伝説なのであった。音の細さ? に驚くもそれは衰えではなく変節しない彼の表現が息づいているのだ。そのアドリブも変わらない。ジャズの黄金時代へトリップした瞬間だった。そこには、古さとか新しさがどうのといった愚問は一切関係ない祝福の空間に酔いしれるのであった。*