今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

三ッ岩岳・大津

2006年02月08日 | 山登りの記録 2004
平成16年4月21日(火)

 先月子供たちと裏妙義に行ってから、仕事が忙しかったりでなかなか山に行けなかった。今年は季節がどんどん早く進んで、このところ夏のような日々が続いている。でも、まだ冬の間雪が降るような地域には早すぎる。5月中旬以降までは雪の少ない山に行くしかない。
 やはり、西上州かな。この時期この方面では山頂部をツツジの花が埋め尽くす山があるらしい。もちろん、土日は「お花ハンター」のハイカーに占拠されてしまうから、平日に行けばいいわけだ。とは言っても、インターネットで情報収集したところでは、平日も結構な人出のようらしかった。

 大津というおかしな名前の山がある。山渓で昔出したハイグレードハイキングというガイドブックに載っていた山だ。「おおつ」というのは何を意味するのだろうか?大津という漢字は当て字なのだろうか。南牧には山らしくない名前の山が他にも沢山ある。
 この山域は南牧村の南側にあたり、上野村との村界をなす1,200㍍前後の山並み(鏑川水系と神流川水系の界)の手前にあって、新設された大仁田ダムを囲むような位置に烏帽子岳・三ツ岩岳・大津などの小岩峰(薮の岩山)がたくさんある処だ。ひとつ谷を隔てた隣にも碧岩・大岩・ククリ岩・二子岩などの岩峰がある…気軽に楽しめる変化のある山が目白押しの場所だ。通い続けている南牧にはこんな岩山だらけで飽きない。

 平日の朝はラッシュで思いの外時間がかかり、登山口の大仁田ダムに着いたのは9時半近かった。
 さて、大津の登山口がどうも分からない?大仁田ダムは何処にでもよくある形のダムだが、里宮橋の駐車場には数台の車が停まり、準備をする中高年夫婦が見えた。一度ダムの先まで林道を行くと、烏帽子岳登山口と駐車場があった、ここにも準備中の中高年夫婦。里宮橋と烏帽子登山口の間を上っていく舗装道路の側道には「大仁田ダム→」の看板があった。
 結局、ダムが出来る前の古いガイドブックなので大津の登山口は不明。そこいらにも大津なる山への登り口を示す看板もない。竜王の里宮という小さな祠の脇に色刷りの絵地図看板があるが、そこにも大津の記載はない。指導標も烏帽子岳と三ツ岩岳しか名前が見えない。でも、このダムが堰き止めている沢を遡って行くのが大津へのコースだから、三ツ岩岳のコースの途中からダムに上がる道が有るに違いない…そう思い、三ツ岩のコースにはいる。しかし、このコースは暗い杉の沢沿いを上り、すぐにダムからは大きく外れてダムの上部に出る道はなさそうだった。

 仕方ない、まあ三ツ岩岳も登ったことないからいいか…くらいの気持ちで杉の薄暗い沢沿いの道を登り続けた。
 登りはかなりのきつさだ、この辺の山はどこもそうだが、いきなり急な登りが続く。尾根に出ると、木の間越しに三つの岩頭を並べた大津が見えた。一つだけ他の二つのピークと離れた岩峰は頂上部がピンク色に染まっている、アカヤシオに覆いつくされているようだ。
 
 さて、行く手の三ツ岩岳は樹林の向こうでよく見えない。西に碧岩やククリ岩・二子岩が見えている。尾根に出ても結構登る、最後は北側に回り込んで崖状の足場の悪い斜面を登って頂稜に出た。アカヤシオとヒカゲツツジがきれいだが、昨日の強風でかなり花が落ちたようだ。やはり、季節が先行しているようで、例年よりかなり開花が早いように感じる。
 頂上の方で人の声がする。三ツ岩岳の頂上は南北に細長く北の外れが一段と高くなっていて三角点峰だ。そこは東側にびっしりとアカヤシオのピンクで彩られている。アカヤシオ自体こんなにたくさんあるのを見たことはないが、ツツジにしては繊細な色合いで上品な感じがする。葉が出ないうちに、ちょうど桜のソメイヨシノみたいに花だけが木を覆うので一見ツツジのようでない。
 山の表面をぼやっと淡いピンクで彩るので、その光景は夢のようだ。なるほどきれいなものだな。でも、よく見ると今日の、この夏のような強い日差しに少し萎びているみたい。茶色く陽に灼けて花びらが枯れているものも多い。

 頂上には、老夫婦と2人連れのご年配がいた。早速景色を眺めながら、朝自分で握ったおむすびを頬張った。良く晴れて、あつい日差しが溢れているが、空気が乾燥しているので展望は抜群だ。この山頂はぐるっと遮るものがないので全方位の眺めが利く。この辺の山は里に近く、標高も低いので里の裏山といった雰囲気。
 事実、すぐ下に大仁田のや南牧の幾つもの集落がそれぞれの山懐に抱かれて見えている。その見え方は、高い山の上から下界を見下ろすというものではなく、本当に裏山のてっぺんから眺めているという感覚だ。トタン葺きの(かつてはワラ屋根や、この地方独特の檜皮葺きの信州風の民家)青や赤の屋根が手に取るように見え、周囲を小さく取り囲んでいる山畑にいる人の姿さえ判別できる程。
 南牧のお馴染みになった山々、経塚山から続く山並みに毛無岩やそこから派生する支稜の立岩や大屋山、東に鹿岳と四ツ叉山、間に低く黒滝山、その山並みの向こうの妙義のギザギザも、暑い割に澄んだ快晴でよく見える。南の郡界稜線の手前にそそり立つ烏帽子岳、天狗岩とシラケ山が高い。長野の県境を限る1,200㍍前後の余り特徴のない山並み(これらの山は、兜岩山辺りから南側埼玉県境の三国山まで少しづつ高度を上げていくが、どれがどれだか分からない山並み)。東方面は開けて低い山々の向こうに関東平野の北端、群馬の平野部が広がっている。

 爽やかな晴天だが、何度も言うように半袖でも暑いくらいだ。おむすびを二つ頬張り、コーヒーを飲んで携帯で現在地を知らせる。妻は今、部屋のお掃除中だそうだ、こんな気持ちのいい山頂を独り占め(先着組はもう下りていなくなった)して遊んでいるのが申し訳ない…。
 一休みの後、まだ時間は11時半にもなっていない。1時間ちょっとで登頂なので、遅い出発時間のわりにはまだこの山だけで帰るには早すぎる。
 今日のホントの目的地は大津だから、そこにやっぱり登りたい。なにしろ、直ぐ目の前に大津の三つの岩峰が頂上部をピンクに染めて、ここまでおいでと言っているようだった。

 三ツ岩岳は早々に辞して、大津に向かうことにする。
 登りとは違うコース、竜王の奥宮コースを下る。ここはしばらくアカヤシオのトンネルを上下し、岩混じりの急な下りから、後は転げ落ちるような急坂を下った。途中大きな岩壁の下に竜王の奥宮なる小祠があった。杉の暗い急坂を下りきったら、行きに通った分岐に出た。登山口まで30分くらいで下りてしまった。

 さて、ダムまで下りたがやはり大津の登山口は不明だ。ダムの下、里宮橋付近は公園のように整備され駐車場やトイレがある。ダムの上まで行けば登山口は見つかるはずだろうと思った。堰き止めた沢の上流が登山路のハズなのだから。ここから見上げる三ツ岩岳は黄色っぽい岩が山のあちこちに角のように生えた山だが、ほんの直ぐそこに見えて威圧感もない。
 ダムの上に大津が見えている、頂上部をピンクのアカヤシオに彩られ、ものすごい急角度で岩峰をせりあげている。これを見ると、登りたい!どうみてもこっちの方が山の風格も一枚上だと思った。歩いてダムの上に上がろうとしたが、高さを考えると車で行けそうなので車で上まで行くことにした。

 ダムの上まで出るとそこにも駐車場があり、ダムの上を渡って左岸に事務所の建物が見えた。右岸にも舗装路が先まで続いているが?やはり大津を示す看板の類は一切無かった。結局ここから見上げる大津の岩峰は左岸にそびえたっているので、ダムを渡ってそちらに進むことにした。ダム湖は碧色のよどんだ水を貯めているが、満水にはほど遠い。朝方放水していたので、努めて貯水しているわけではないようだ。ダムの事務所から上流に進むと、しばらくで舗装路は終り、ダム湖の終点付近に釣りをしている2人が見え、道は未舗装となってもなお先に進んでいる。峡谷の間を抜ける、新緑が逆光に映え、ことのほか美しい、よく緑のシャワーとかいうけど正にそのとおりだ。

 車で入れる道は大津直下の沢にかかる橋の直ぐ先で終わった。沢のところが駐車スペースになっていて年配のご婦人が2人ピクニック?お食事中です。
 ここからは見上げる大津はますます切り立った岩山になっている。道は沢沿いの山道になるが、よく踏まれて歩きやすい。山仕事の人や釣り人も多く入るのだろうから、登山者が多い訳ではないのだろう。
 その渓流は、美しい渓流というのはこんな感じだよ、という見本の様な美しさだった。規模は小さいが、小滝が適度に配置され、流れる水は明るい光に踊っている。新緑と渓流というベストマッチがそこだけを別世界にしていた。山なんか登らないで、ここでゆっくり時を過ごすだけでも良さそうだ…その方がリフレッシュになるかな?

 右岸をしばらくで左岸に移り歩きやすい道が続く、ガイドブックに依れば馬頭観音の石碑があるということだけど、そんなものはまだ見えない。その昔、馬に荷を着けてこんな山道を馬方が通ったのだろうか、当時の名残で山中に馬頭観音があるのだという、途中で屠った馬もあるだろう。そう言えば、天丸山には馬道というのもあったな、水平道を上州から武州に荷馬が往来したのだが、現在のあの静寂境とは隔世の感がある。
 
 大津は大分後ろになっていく、歩きやすい道はなおも続くが、少し不安になる。と、いきなりそこに「大津→」の赤ペンキが石に薄れて書かれているではないか。迷わず、この薄暗い藪っぽい沢の踏み跡に入る。
 後で家に帰ってチェックしていたホームページの文章を読んだら、ここは無視してその先に登り易いしっかりした道があったとのこと。ところが、別の人のホームページ(こっちの方が新しい情報)にはそれらしい道はなく、結局ズット先まで行って獣道?に入ってどうにか稜線までたどり着いたとあった。これを総合するに、元あった鮮明な踏み跡?はダム工事で登山不能になっていた数年の間に自然に還っていったものか…いずれにしても、現在大津への鮮明な登山道は存在しない?ようだった。三ツ岩岳の登山道には大分人の手が入っているのに比べ、大津はまだ秘峰に近いままだといえる。

 薄暗い杉林沿いの、古いガイドブックによるところの枝窪とかいう涸れ沢を辿るが、踏み跡は交錯し次第に不鮮明になる。杉の植林はかなり年数の経った太い木が急な斜面を上まで延びている。踏み跡に見えるのは獣道のようだ。登るでもなく、水平に交錯している。仕方なく、とにかくそれらしい歩きやすい(実に登りづらい、急な上に足元がずるずる滑り落ちる)処を探しながら上に向かう。傾斜が急なのと、やっぱり二山目だからか息が切れてピッチが上がらない。それでも、どうにか尾根と思われる明るい雑木の林まで登り着いた。
 そこに古びた赤テープがあった。赤テープはよく見れば点々とあるにはあるが、登りの時はどうも見つけにくいものだ。そこから上もかなりの傾斜で杉の植林帯と雑木の間を尾根が上まで延びていた。要するに、さっき登り着いた所は尾根の突端に過ぎなかったようだ。
 踏み跡は岩場が出てくるとほぼ消えていた。赤テープもほとんど見あたらないが、兎に角上を目指す。ものすごい急傾斜が続き、へとへとだ。ここで思ったのは、今日のターゲットはこの大津だったが、間違えて三ツ岩岳を先に登ってしまって正解だった、もしこちらを先に登っていたら大津だけで終わったろう。

 やっとの思いでたどり着いた稜線には、真ん中から2つに裂けた目当てになる白っぽい大きな岩があった。赤テープもたくさんある、ここが下降点である目印らしい。先ほどたどり着いた尾根の末端も、帰りに下降点が不明にならないようコンビニの袋を木に縛り付けて置いた。さて、一息入れて直ぐに先に向かう。大分先が長いかと思われたが、大した登りもなく1,053㍍峰に着いた。

 ガイドブックや色々なホームページ記載の1,053㍍峰には誤解があるように思った。地形図をよく見れば地図上の1,053㍍峰は、「大津」と名付けられた岩峰(三ツ岩から見た顕著な3つの岩峰の総称)のうち、本峰と呼ばれている一番東寄りの岩峰の隣の岩峰(仮に中央峰とでも呼ぼう)のことではなく、三ツ岩から見てやや西寄りに離れた前の2峰よりやや低いが、一番そそり立って立派に見える岩峰が直接派生する藪の丸い高まりだろう。そこは展望もなく何の変哲もない藪の小山だが、あきらかに3つの岩峰群より高いと思われ、これが地図上の1,053㍍峰に違い有るまい、とすれば大津は1,053㍍以下の標高ではないだろうか?分かり易くいうと、1,053㍍標高点を持つ薮の丸い高まりが真ん中にあって、東に2つ、西に1つ顕著な岩峰があると言うわけ。当然岩峰群は薮山よりも低い標高だろう。

 ここから直ぐ左下藪越しに、ヤシオツツジが一番きれいな岩峰が見えた。取りあえず右手に回って少し下り、中央峰の上に立つ。ここは西に少し岩稜を伝わって最高点の岩の上に出る、展望が素晴らしい、もう直ぐそこにナイフリッジを挟んで大津本峰に手が届くばかりの距離だ。大津本峰は大きな岩の固まりで西側が大きくえぐれて顕著なオーバーハングが出来ている。ここから見た限りでは、三ツ岩岳より花が少なそうだ。やっぱり隣の芝生ということか?どうもアカヤシオは山の東側頂上付近が好きなようで、ここから眺める大津本峰は南西側だから反対側がきれいなのかな?ここに来るまでも稜線には昔の鋼索ケーブルや仮設小屋の残骸などがあったが、このナイフリッヂはちょうどそのケーブルに使ったと思われる太い鋼鉄のワイヤーが渡してあって、頂上の岩の上にまで延びている。
 ナイフリッヂはどうということもなく、最後の登りまで来て岩壁に突き当たった。この切り立った岩壁は登れそうもない。右手はすっぱり切れて登ってきた下の沢が見下ろせた。しかし左に回り込むと古いトラロープが下がっていてここからは容易に登れた。とはいうものの、トラロープが結んであった木の株はとっくに腐っていてふらふらしたものだったが、それは帰りに気づいたことで、下りでなければ見られない。やはり人の余り入らないこういう山で残置ロープやそれらの類は余り信用できない。

 大津の頂上は多少藪っぽいものの、展望は最高だった。ここから真下に大仁田ダムが見下ろせた、停めてきた車も見える。大津の看板、南牧の山にはどこにでもあるこの同じ規格の山名看板は村で作ったものだろうか?
 思ったほど時間もかからず(距離も高度差も所詮は大したことのない低山だもの)しかし、この山頂は静かなだけでなくとても居心地のいい雰囲気があった。展望は三ツ岩岳ほど広闊ではない、というのも三ツ岩岳が東に大きく横たわっていて、その向こうを隠していたからだ。
 南牧の北方面の山々は手に取るようだし、碧岩を初めとする観能岩峰群もすぐそこだ。でも、ここからの白眉はダムの向こうに聳えて天を突いている烏帽子岳だった。今度機会があったらここだな、是非登りたいものだ。大津本峰は三角点もなく、例のプレートの他は何もない。アカヤシオは点々とあるが、数の上で三ツ岩岳に負けている。この花は本当に夢見るような色合いで美しい、妖しい色気まで漂わせる、そう感じるのは枝の先に一つだけ比較的大きめな花を付けるその特徴の所為かな。
 
 ダムを真下に見下ろす崖っぷちに腰掛けて、お菓子を食べながら一人きりの時間を楽しんでいた、少なくともダムやスーパー林道ができる前は秘峰であったのだろう。
 向かいの三ツ岩岳は茫洋とした山容であまり目を引かない、少なくとも午前中反対側から見た大津の岩峰群のような登高欲は沸かない。
 下りは慎重に、しかし3つの岩峰全部に立ちたいから、そこからはバリエーションルート?だろうか、1,053㍍峰から派生する例の花で埋まって見えた西峰(勝手に名前を付けた)に向かう。急な斜面をひと下りで岩峰の基部に着く、ここからの登りは登りやすい岩場を探しながらの、文字通りの登攀。岩の感じといい、山の形といい、天丸山の南壁の登りによく似ていた。頂上は、アカヤシオの群落の上にぽっかりと岩頭が出たとても素敵な処だった。登って満足、遠くから見たこの岩峰の頂上に立てたことがこの日の一番だった。また、他の2峰の眺めもここからが一番いい。

 帰りはあっけないくらい早かった。難儀したあの急斜面は滑りに滑って、後は杉林の枝窪を転げ落ちるように、下の沢沿いの道まで30分もかからなかった。のんびりダムまで戻る道を振り返ると、逆光でシルエットになった大津が聳えていた。
 いつものコースで、磯部の「恵みの湯」に寄ってから帰った。

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