Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

ドラえもんと土管

2007-06-04 08:29:12 | 歴史から学ぶ
 ドラえもんに「最終回」はあるのか?なんていう話題が最近聞こえるが、意外なところでドラえもんが触れられていて、ちょっと考えて見た。『多摩のあゆみ』126号の編集後記に「幼い頃に読んだ、藤子不二雄の漫画『ドラえもん』。のび太やジャイアン、スネオたちが遊ぶ空き地、その絵の中にはしばしば「土管」が積まれていました。本号特集を編集中、それが何故かが腑に落ちた。あれは下水道に使われる土管で、「空き地と土管」は東京郊外に都市化・下水道整備が進む過程で見られた風景なのだ。」と書かれている。本号では「多摩の下水道」を特集している。ドラえもんの連載が始まったのが昭和43年といい、当時の下水道の普及率は、東京都区部で50パーセント程度だったという。ドラえもんの舞台である練馬区周辺ではそうした整備の最中だったわけだ。

 この編集後記を読みながら、子どものころテレビで見ていたドラえもんのそんな風景がよみがえったが、実はこのキーワード「ドラえもん 土管」で検索するとこの関係を捉えた記事がやまほど溢れている。ドラえもん=土管というほどにそのイメージは子どもたちの脳裏に焼きついたのかもしれない。子どものころには視聴したドラえもんも、見なくなって何十年。現代のドラえもんの舞台がどう変化しているかは知らないが、漫画の舞台背景というものも歴史を描いていてユニークな話だ。

 そんな検索したページをみてみると、土管とヒューム管はイコールなものと捉えられているものがほとんどだ。編集後記を書かれた人も同様にヒューム管を土管と言っていたのかもしれないが、土管とはヒューム管とは異なるというのがわたしの認識だった。たとえばINAXのページには

(以下引用)
 日本で最初に使われた土管は、6世紀に朝鮮半島を経由して瓦とともに伝来したもので、宮殿や寺院に使われました。瓦と土管の関係は、丸瓦がちょうどこの土管を半割りしたものになります。しかし、土管は広く普及することはなく、上水道用には木樋(もくひ)や石樋(せきひ)が多く使われていました。その後16世紀には、ソケット付土管が奈良地方を中心に登場します。これは明治時代にイギリスから輸入された近代型土管に最も近いものです。
 明治維新を迎え、大都市の下水道工事や鉄道敷設で大量の土管が必要となり、当時イギリスからの輸入に頼っていたものを国産で対応することになりました。常滑でれんが、テラコッタ、タイルなど数々の近代窯業を手がけてきた鯉江方寿は、素焼管で実績のあった土管造りの技術を生かし、大量受注に成功しました。この時の土管は素焼ではなく、真焼(まやけ)と呼ばれる通常より高温で焼き締めた材質で、強度があり、水漏れしないのが長所でした。その後も常滑は上下水道、農業用水路、鉄道用土管(鉄道開通で断たれた水路の連結用)にと、昭和10年代には土管の生産で空前の活況を呈しました。土管はその後、釉薬をかけたものも作られ、明治34年頃にはマンガン釉、大正11年頃からは塩釉(食塩釉)のものが登場しました。特に塩釉の土管は、1250℃という高温で焼造されるため強度や水漏れに強く、最高品質とされました。
 明治初期の量産型の土管の成形法には、鯉江方寿が明治5年から始めた木型成形があり、小物用のタタラ作り(粘土を板状にして成形)と口径5寸以上の大型用のヨリコ作り(紐作り)があり、いずれも最後は木型に押し付けて、所定の形、寸法に整えられ、さらにソケットを接合して仕上げました。その後、明治34年以降、スクリュー式やピストン式、ロール式の土管製造機が考案され、実用化されました。戦後の昭和36年には、真空土練機とスクリュー式土管機を合体させた竪型真空土管機が実用新案を取得しました。原料を脱気しながら成形するためより緻密な素地を作ることができ、品質が向上しました。


と紹介されている。『ウィキペディア(Wikipedia)』の「土管」の項でも土管にはヒューム管(コンクリート製)を含むようなことが書かれているが、本来は字の通り土を焼いたものを土管と言っていたはずだ。水田地帯の古い暗渠管や用水路の暗渠部に、ときおりそうした土管を見ることがある。今では土管を新たに使うことはないが、時代からいくと、ドラえもんに登場していた土管とは、ヒューム管のことなのだろう。「空き地と土管」というイメージが作られているようだが、土管ではなかったのだ。

 さて、空き地に土管というイメージの空き地は、空き地ではなく工事の資材置き場だった。田舎ならともかく、昭和40年代の東京では、そんな空間が子どもの遊びの場として認知されていたのかどうか、あまりにも子どもたちに受け入れられたドラえもんであるが、舞台背景はさまざまな疑問を投げかけてくれる。
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