誇り高きハイジャックの女王、ライラ・ハリッドにむかって
少年がアラビア語で歌いかけていた。
母親に一輪の花を持って帰ろうとした若者の歌だった。
私はあそこで場違いな思いをして。
恥ずかしくていたたまれなかった。
重信メイもいた。母親が警察に囚れ、
もはや牢獄から抜け出す術もないのに、気丈だった。
私は恥ずかしくていたたまれなかった。
彼等が厳しい状況に耐えているからではなくて。
強く人生の感動を受け止めていたから。
歌を聞いたハリッドの瞳に輝くあれは、涙の予兆だったか。
負けることや、踏みつけにされることは、悲惨だ。
しかし、屈しないこと、挑戦することこそ大切なのだ。
ああ、私が語るとなんてそらぞらしくて、うそくさくて、ありきたりなんだ。
私はあそこで、人間のうちの輝かしいものを見た。
かつて燃え上がった理想の火の、まだ明るさを失わない残照を。
なのに、その思い出すら、きたならしくしか表現できない。