嶽南亭主人 ディベート心得帳

ディベートとブラスバンドを双璧に、とにかく道楽のことばっかり・・・

DB甲子園回顧(5):判定「強固なスタンスを掲げる良い立論」

2007-03-29 21:10:57 | ディベート
昨年来のこのシリーズ、何とか終わらせようと思う。今回を含めて、あと2回の予定。

すでに今年の論題が発表された今となっては、証文の出し遅れの謗りは免れないが、せめて、第12回大会に参加する皆さんへのエールとなるよう、以下、申し述べたい。

***

この試合で非常によかったことは、肯定側、否定側とも、立論において「スタンス」が明瞭に打ち出されていたことです。

ここで言う「スタンス」とは、「主張における一貫した思想、世界観・価値観」のことであり、特にメリット・デメリットの比較衡量において判断基準や原理・原則として機能するものです。強い議論は、ほぼ例外なく、このスタンスが、立論の通奏低音として力強く響いています。この決勝戦でも、それが当てはまります。

○肯定側・会津高校のスタンスは・・・

「身近な行政サービスは、身近な主体が処理する方がうまくいく。失敗するリスクがあってもなお、後で是正するチャンスと権限とともに、地方に任せるが良い」というもの。

●対する否定側・創価高校のスタンスは・・・

「道州制による地方分権は、必然的に格差拡大を招き、弱者切捨てにつながるので、これを行ってはならない」というものでした。

どちらも、筋が通っており、道州制論題におけるスタンスとして、実に的確な分析だといえます。実際、道州制導入をめぐる政策論議の中でも、この双方が意見として主張されており、その意味で、この決勝戦は、実際の政策論議としても通用する議論であったと言えると思います。


今回、双方のスタンスが、相当の説得力を伴って聞こえたのは、相応の理由があります。それは、「道州制」という制度の設計において考慮すべき「政府のあるべき姿・役割」にまで、主張が及んでいる点です。


試みに、まず肯定側のスタンスを、さらに深めて検討してみましょう。

◇根岸毅、慶應義塾大学教授(2004年)・・・※安直な流用がなされないよう、資料名は伏せさせてもらいます。不悪。

”民主主義は、「政治的選択の場を、すべての人にとって『自分』の進歩の実現を保証するように作るにはどうしたらよいか」に対する答として考え出された仕組みである、と理解することができる。政治の場面での「自分」の進歩の実現にとって必要不可欠な手段は、自分および他のすべての人が、選択肢の入手の過程に規制がない状態において政府活動の選択肢の入手を行ない、その選択肢の選択の「自由なやり直しの機会」をもつことである。民主主義は、政府活動の選択に関して、やり直しを必要とする事態が起きる前に、あらかじめやり直しの機会を確保しておこうという、国家の設計思想である。それは、その目的がもつ、論理的に考えればだれにも受け容れられるはずの価値を受け継いでいる。”

・・・これがパーラメンタリー・ディベートなら「もし間違える自由を含んでいないなら、そのような自由は持つに値しない(マハトマ・ガンジー)」とでも引用するところですが。

次に、同様に、否定側について。

◆佐高信、評論家(2006年)・・・※同上です。為念。

”経済というのは自由競争を是としている以上、否応なく格差が生じる。政治はその格差をショック・アブソーバーのように是正しなければならないと思う。ところが小泉は、それをしなかった。だから、政治不在の5年間だったと私は言っている。政治というのは格差を、弱者の痛みを解消していくものだ、というのが私の考え方だ”

いかがでしょうか? 肯定・否定、双方のスタンスともに、実に骨太の主張だったということをお感じ頂ければ幸いです。

***

さて、第12回大会の高校論題は、「18歳選挙権・被選挙権」の是非です。

この論題、「スタンス」をくっきり表現できるかどうかが、勝負の分かれ目になると思っています。

スタンスを冒頭で明示的に述べるか、あるいは重要性・深刻性等、他の議論の中で暗示するかは、ディベーターの自由です。

しかし、立論を聞き終わった時、ジャッジの脳裏に「政治制度は、かくあるべし」というイメージが残されていないのであるならば、それは弱い立論です。

・「政治とは、どのような営みなのか」
・「良い政治/悪い政治とは何か。それはなぜ、良い/悪いと判断できるのか」
・「我々の社会は、なぜ政治という営みを必要としているのか」 あるいは 「もし政治が機能していなければ、どうして我々の社会はうまく回らないのか」 等

どうかみなさん、できれば顧問の先生や歴史・現代社会の先生も交えて、仲間と一緒に、「あるべき政治のかたち」について語り合い、自分たちなりに納得のいく「スタンス」を編み出してみてください。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿