澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

「日本はなぜ戦争をやめられなかったのか」(纐纈 厚 著)

2015年09月27日 15時17分24秒 | 

 「日本はなぜ戦争をやめられなかったのか 中心軸なき国家の矛盾」(纐纈厚著 社会評論社 2013年)を読む。
 その内容は、次のとおり。

序章 中心軸なき国家のゆくえ(外圧に翻弄された開国;中心軸なき国家;ナショナリズム不在の近代日本;なぜ、同じ過ちを繰り返すのか)
第1章 合意なき開戦決定―迷走する指導者たち(開戦決定過程にみる迷走ぶり;東條開戦内閣の成立と対英米開戦)
第2章 破綻した戦争指導―混乱と動揺のなかで(戦争終結への動き―迷走する戦争指導;動揺と迷走の果てに)
第3章 不毛の戦争終結過程―責任者は誰か(他者依存の典型事例として―対ソ和平工作への過剰な期待;戦争終結に舵を切る)
第4章 中心軸なき国家の矛盾―近代化・ナショナリズム・政軍関係(「近代化」という落とし穴;政治を分裂させた軍事の位置;歴史認識の希薄さの原因―過去の克服はなぜ遅れているのか;歴史に向き合うことの勇気)

 

 この本を読むきっかけとなったのは、7月末、「和天皇、1971年中国国連代表権問題で蒋介石支持を佐藤栄作首相に指示」というニュースを知ってから。米国の外交文書公開で明らかになった史実なのだが、日本のマスメディアの反応は極めて鈍く、その場限りの線香花火で終わってしまった。しかしながら、これは、昭和天皇が平和を願いながら、「軍部」に押し切られたため、あんな戦争をしてしまったという、従来の俗説を根底から覆す可能性があるニュースだった。1971年、「平和憲法」下においても、天皇がこのように政治に口出ししていたという事実から察すれば、戦前の大日本帝国における天皇とは、まさに「現人神」そのものではなかったか。天皇には戦争責任が全くなかった、などと思い込むこと自体が、「日本人民」の「特異性」言い換えれば「マヌケさ」の証なのではないかとさえ思えてくる。

 著者の纐纈厚氏は、素人の私から見ると、左翼系の歴史学者。経歴からしても、一昔前のマルクス主義史観を引きずっている人物だと思われる。大昔、その種の歴史本はたくさん読まされたので、さして期待も持たずに読み始めた。
 本書の執筆動機は、東日本大震災・原発事故だという。あのとき、「中心軸なき国家」の姿が露呈したという。
 日本近代を通底するものは、「追従」と「無責任」であると著者は指摘する。「追従」とは、近代化(=西洋化)の手本であった欧米への追従、「無責任」とは丸山眞男が言う、天皇制国家における無限無責任体制を意味する。
 このあたりの議論は、政治学の概念、用語をちりばめているため、他の歴史学者とはちょっと毛色が変わっている。政治学から入って、近現代史に興味を持った私にとっては、意外にも読みやすい内容だった。だが、あるべき国民、あるべきナショナリズムを理想型として掲げ、それらと比較して現実がどう不足しているかというような論法は、教条左翼の名残をとどめていると言わなければならない。

 著者はあの戦争を「天皇による、天皇のための、天皇の戦争」(p.190)であったと結論付ける。ナチスドイツが敗北(1945年5月)しても、沖縄戦が壮絶な結果で終わっても(1945.6~)、広島・長崎に原爆(1945.8
)が落とされても、最後の最後まで「国体」、すなわち皇祖皇統、三種の神器の保持にこだわった昭和天皇が、国民のために聖断」を下したなどとは、金輪際ありえないということだ。この点においては、全く同感だ。
 1975年、米国訪問後の記者会見で「戦争責任」について問われた昭和天皇は、「そういった文学方面のことは、私はよく研究していないのでおこたえできない」と不真面目に応え、さらに原爆投下については「あれは戦争であったことだからやむをえなかった」と開き直った。すでに述べた「蒋介石支持」発言と照らし合わせると、昭和天皇の精神構造(というか頭の中)が透けて見えてくるではないか。

 「中心軸なき国家」おける「無責任体制」の頂点にいたのは、他ならぬ昭和天皇自身だ。戦後になってからの政治的発言が次々と明らかになっている以上、従来の「追従」的天皇観の見直しが求められるべきだろう。 

 私自身、「朝日」「岩波書店」に象徴される進歩的文化人風のご高説は大嫌いなのだが、彼らが言うように「安保法制」(私はそれに賛成だが)が場合によっては、予想外の暴走を始める危惧は否めない。それはまさに著者の言う「中心軸なき国家の矛盾」そのものでもあるからだ。


 


  
 

 

 

 

 



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