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【七二】ペテローレ御大

 知恵の輪はずしをしていないときには、気つけ薬として方々の家庭に処方されている、無口でとても小さな男である。こぼれ落ちそうな眼で異変を察知するだけではない。ただ彼が家にいるだけでどんな家族であれ身を引き締められるのだ。
 二月三日付のヨショト家で、ヨショト夫人がヨショト教授のルドヴィクス症候群【八二】に対する抑圧から卒倒してしまったときには、棚から軽やかに飛び降り、夫人の頬に平手打ちを往復させて意識を取り戻させた。
 同じく二月三日付のミラー家では、夫が卵を助手席にのせて今もまだ列に並んでいるため、二人の子供を連れて百科店【八三】の売場を往復しているだけの毎日を送っているミラー夫人が、ケーキ用の卵白を泡立て器でかき混ぜているうちにその楕円軌道から抜け出せなくなってしまったので、棚から軽やかに飛び降り、夫人の頬に平手打ちを往復させて意識を取り戻させた。
 まるでペテローレ御大が何人もいるかのようであるが、ヘンリー八世式【九八】の使用リスト、いわゆるポップコーン【九九】には記載されていないため、複数の場所で同時に存在することのできるごく稀な人物なのかもしれないという魚【七八】は活きがいい。

リンク元【六一】
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