実は、米軍兵士のジープで拉致されたのは、日本の女性ではなく、清治の同級生で朝鮮人の白川ジュンの従姉の金井ヤスであったのだ。
ヤスは当時、蒲田の居酒屋で働いて、その日は桜坂上の商店街の一角にある銭湯へ行くところであった。
清治が住む長屋の寮には風呂がなかったので彼もその銭湯へ行っていた。
米兵二人に拉致され強姦されたことを伝え聞いたある老人は、「朝鮮の女のために死んだ水島勝治巡査は、まさに犬死にだな」と冷笑したそうだ。
<実に皮肉な結果>と老人の一人は受け止めたのだろう。
そして、清治の祖父は「お前、いいか中学生になったら、絶対に英語など勉強するな。鬼畜米兵だからな!」と怒りを露わにするのだ。
さらに、悲劇であったのは、強姦されたヤスが妊娠したのである。
それなのに、女心は理解し難いもので、堕胎を拒みヤスは憎いはずの米兵の子を産んだのだ。
ヤスは田園調布本町の片隅の朝鮮部落を出て、蒲田のアパートに移り住む。
そして、居酒屋で出会った客の一人の35歳の大島孝雄と同棲する。
その大島は元は関東軍の兵士の一人で、シベリアの抑留から解放され昭和25年、日本に帰還していた。
生き地獄を体験した大島は、強姦された挙句の果てに妊娠という生き地獄のヤスさえ、受け入れたのである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます