裏山のこぶしの花が咲いた。
梅も満開に近づき、みつばちは活発に巣箱を出入りしている。7年前、土間の前に植えた山桜はもう高校生くらいのお兄ちゃんになって、ニキビ面のようなつぼみを日増しにふくらませている。来週の日曜日(4月22日)は近所の人らと、この桜の下で花見をする予定だ。
さくらの「さ」は田の神を示す接頭語だとか。田の神が降りる「くら」の木だからさくらなんだ。
その桜の開花寸前、蕾(つぼみ)がはち切れそうになり、木全体が薄紅色の妖気を漂わせる瞬間は、何とも言えない艶がある。
さくらが咲くと、やがて、さみだれの注ぐ山田にさおとめが裳裾(もすそ)濡らして玉苗植うる(by佐々木信綱)季節だ。田植えの準備を始めなければならない。
田植えの準備のまず第一番目は、保管(または購入)しておいた種籾を消毒し、塩水選し、水に浸けて催芽すること。
消毒はいもち病やバカ苗病などを防ぐためにおこなう。通常はかなり危ない薬剤を使って消毒している。薬剤使用の際の注意書きには「消毒後の種籾は食糧、飼料に使用しないこと」「廃液が河川、池などに流入しないよう注意する。また、消毒後の種籾を養魚池に浸漬しないこと」などと書かれてあるほどだ。だが近ごろは危険な薬剤消毒をやめる動きが広がってきており、JAなどでも安全な温湯(おんとう)消毒に切りかえるところがボチボチ出始めているようだ。
わが家は去年は酢水で消毒した。温湯ではもち米の発芽率が悪くなると聞いたからだ。だが、いろいろ調べてみると、湯温を低めにし時間を短くすればそれほど問題はないようなので、温湯消毒に切りかえた。
温湯消毒は、うるち米の場合、60度のお湯に10分(もち米の場合58度に5分)程度浸けて病原菌を殺菌・滅菌する。まあ低温殺菌牛乳みたいなものやね。でもこの「60度10分」というのが意外と難しく、舎長と二人ワーワー言いながら(というか、「いま何度や」「56度!」「早くお湯入れえ」「入れとるっ!」などと罵声を交わしながら)やり終えた。写真を撮っている余裕はなかった。
来年の備忘のために書きとめておくが、60度のお湯に種籾を浸けると湯温が56度まで下がり、これを60度に戻すためにはかなりの量の高温のお湯をつぎ足さなくてはならない。しかし小さな容器で高温のお湯をつぎ足すとお湯を注いだ周辺の種籾が煮えてしまう。したがって来年からはかなり大きめの容器を準備し、最初のお湯の量を容器の半分以下くらいのところから始めた方がよいと思う。来年は、仲良く穏やかにやりたいものだ。
温湯消毒の後、冷水で冷やし、間を置かずすぐに塩水選をおこなった。うるち米の種籾の場合、比重1.13(もち米は比重1.10)の塩水に浸し、浮いてきた軽い種籾を除去。中身の詰まった健康な種籾だけを残す。比重1.13の塩水にするには10リットルの水に2.6キロもの塩を入れなければならない。舎長が大好きな「粟国の塩」をあえて使う必要もないので(とてもソロバンにあわないしね)市販の化学塩「エンリッチ」を使う。
塩分濃度は、比重計がないので生卵を使ってアバウトに調整する。ただの水のとき、卵はバケツの底に横たわって沈む、比重1.08(軽いもち米を塩水選するときの比重)で立って沈む、比重1.10で立って浮く、比重1.13で横向きに500円玉くらいのお尻を水の上に出して浮く、というのをめやすにして塩分濃度を調整する。
これは比重1.13の状態。
この日はイセヒカリ、香米(以上うるち米)、大師黒、紅染めもち、緑米、マンゲツモチ(以上もち米)を次々と塩水選。
これは緑米。
これは大師黒。
浮いてきた籾は容赦なくすくい取って捨てる。
こうして塩水で選別した種籾を、積算100度になるまで水に浸すと、種籾は芽(正しくは根)を出す直前の状態になる。積算100度というのは水温が10度なら10日間、5度なら20日間、水に浸すこと。
芽(正しくは根)を出す直前に、種籾は「鳩胸」になる。胚芽のあたりが鳩の胸のようにふっくらふくらんでいる状態で、根が出てしまってはいけない。アバウトに積算100度になったころを見計らい、まだ催芽(正しくは催根)が不十分と判断したら、風呂の残り湯(湯温30度程度)などに一晩浸けて鳩胸に近づける。
去年はうまくいった。でも今年は温湯処理という新しい試みをしたので、どうなるか心配だ。
米づくりは1年に1回しかできない。しかも主食づくりなので、その1回を失敗することができないというプレッシャーがある。さらに加えて「苗半作」と言われるくらい大事な苗作りだ。百姓にとっては農協、農機具メーカー、農薬メーカー、肥料メーカーが一体となって推奨してきた慣行農法を「逸脱」するのはかなりの勇気がいる。雑誌(例えば『現代農業』)やネットなどではオルタナティブな米(野菜、果物)づくりが紹介されているが、それでもなお圧倒的多数は農協などが推奨する慣行農法のくびきに縛られているのが実情だ。
冒頭紹介した種籾消毒のように変りつつあるものもある。ただそれも温湯消毒機のような新たな農業機械のセールスとセットだ。近年、農機具メーカーが田植えの疎植を推奨するセミナーを盛んにおこなっているが、これは疎植対応型田植機を売るための販売戦略だろう。密植しかできない田植機をさんざん売ってきたあげく、田植機を買い替えさせるために「疎植」に飛びついたというわけだ。
農民が、農機具メーカー、農薬メーカー、肥料メーカーの餌食にならないよう、本来なら農協が「楯」になって農民を守らなければならないのに、一緒になって農民を食い散らかし、郷土を荒廃させている。本当の意味での農業協同組合が出てこなければいけないのではないだろうか。農家数10戸に満たないこの安鳥谷からそんな「協同」ができないかなあ。農業問題を語ると熱くなるなあ。
梅も満開に近づき、みつばちは活発に巣箱を出入りしている。7年前、土間の前に植えた山桜はもう高校生くらいのお兄ちゃんになって、ニキビ面のようなつぼみを日増しにふくらませている。来週の日曜日(4月22日)は近所の人らと、この桜の下で花見をする予定だ。
さくらの「さ」は田の神を示す接頭語だとか。田の神が降りる「くら」の木だからさくらなんだ。
その桜の開花寸前、蕾(つぼみ)がはち切れそうになり、木全体が薄紅色の妖気を漂わせる瞬間は、何とも言えない艶がある。
さくらが咲くと、やがて、さみだれの注ぐ山田にさおとめが裳裾(もすそ)濡らして玉苗植うる(by佐々木信綱)季節だ。田植えの準備を始めなければならない。
田植えの準備のまず第一番目は、保管(または購入)しておいた種籾を消毒し、塩水選し、水に浸けて催芽すること。
消毒はいもち病やバカ苗病などを防ぐためにおこなう。通常はかなり危ない薬剤を使って消毒している。薬剤使用の際の注意書きには「消毒後の種籾は食糧、飼料に使用しないこと」「廃液が河川、池などに流入しないよう注意する。また、消毒後の種籾を養魚池に浸漬しないこと」などと書かれてあるほどだ。だが近ごろは危険な薬剤消毒をやめる動きが広がってきており、JAなどでも安全な温湯(おんとう)消毒に切りかえるところがボチボチ出始めているようだ。
わが家は去年は酢水で消毒した。温湯ではもち米の発芽率が悪くなると聞いたからだ。だが、いろいろ調べてみると、湯温を低めにし時間を短くすればそれほど問題はないようなので、温湯消毒に切りかえた。
温湯消毒は、うるち米の場合、60度のお湯に10分(もち米の場合58度に5分)程度浸けて病原菌を殺菌・滅菌する。まあ低温殺菌牛乳みたいなものやね。でもこの「60度10分」というのが意外と難しく、舎長と二人ワーワー言いながら(というか、「いま何度や」「56度!」「早くお湯入れえ」「入れとるっ!」などと罵声を交わしながら)やり終えた。写真を撮っている余裕はなかった。
来年の備忘のために書きとめておくが、60度のお湯に種籾を浸けると湯温が56度まで下がり、これを60度に戻すためにはかなりの量の高温のお湯をつぎ足さなくてはならない。しかし小さな容器で高温のお湯をつぎ足すとお湯を注いだ周辺の種籾が煮えてしまう。したがって来年からはかなり大きめの容器を準備し、最初のお湯の量を容器の半分以下くらいのところから始めた方がよいと思う。来年は、仲良く穏やかにやりたいものだ。
温湯消毒の後、冷水で冷やし、間を置かずすぐに塩水選をおこなった。うるち米の種籾の場合、比重1.13(もち米は比重1.10)の塩水に浸し、浮いてきた軽い種籾を除去。中身の詰まった健康な種籾だけを残す。比重1.13の塩水にするには10リットルの水に2.6キロもの塩を入れなければならない。舎長が大好きな「粟国の塩」をあえて使う必要もないので(とてもソロバンにあわないしね)市販の化学塩「エンリッチ」を使う。
塩分濃度は、比重計がないので生卵を使ってアバウトに調整する。ただの水のとき、卵はバケツの底に横たわって沈む、比重1.08(軽いもち米を塩水選するときの比重)で立って沈む、比重1.10で立って浮く、比重1.13で横向きに500円玉くらいのお尻を水の上に出して浮く、というのをめやすにして塩分濃度を調整する。
これは比重1.13の状態。
この日はイセヒカリ、香米(以上うるち米)、大師黒、紅染めもち、緑米、マンゲツモチ(以上もち米)を次々と塩水選。
これは緑米。
これは大師黒。
浮いてきた籾は容赦なくすくい取って捨てる。
こうして塩水で選別した種籾を、積算100度になるまで水に浸すと、種籾は芽(正しくは根)を出す直前の状態になる。積算100度というのは水温が10度なら10日間、5度なら20日間、水に浸すこと。
芽(正しくは根)を出す直前に、種籾は「鳩胸」になる。胚芽のあたりが鳩の胸のようにふっくらふくらんでいる状態で、根が出てしまってはいけない。アバウトに積算100度になったころを見計らい、まだ催芽(正しくは催根)が不十分と判断したら、風呂の残り湯(湯温30度程度)などに一晩浸けて鳩胸に近づける。
去年はうまくいった。でも今年は温湯処理という新しい試みをしたので、どうなるか心配だ。
米づくりは1年に1回しかできない。しかも主食づくりなので、その1回を失敗することができないというプレッシャーがある。さらに加えて「苗半作」と言われるくらい大事な苗作りだ。百姓にとっては農協、農機具メーカー、農薬メーカー、肥料メーカーが一体となって推奨してきた慣行農法を「逸脱」するのはかなりの勇気がいる。雑誌(例えば『現代農業』)やネットなどではオルタナティブな米(野菜、果物)づくりが紹介されているが、それでもなお圧倒的多数は農協などが推奨する慣行農法のくびきに縛られているのが実情だ。
冒頭紹介した種籾消毒のように変りつつあるものもある。ただそれも温湯消毒機のような新たな農業機械のセールスとセットだ。近年、農機具メーカーが田植えの疎植を推奨するセミナーを盛んにおこなっているが、これは疎植対応型田植機を売るための販売戦略だろう。密植しかできない田植機をさんざん売ってきたあげく、田植機を買い替えさせるために「疎植」に飛びついたというわけだ。
農民が、農機具メーカー、農薬メーカー、肥料メーカーの餌食にならないよう、本来なら農協が「楯」になって農民を守らなければならないのに、一緒になって農民を食い散らかし、郷土を荒廃させている。本当の意味での農業協同組合が出てこなければいけないのではないだろうか。農家数10戸に満たないこの安鳥谷からそんな「協同」ができないかなあ。農業問題を語ると熱くなるなあ。
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