土間の外を誰かが行ったり来たりしている。
通り過ぎるときチラリとこちらを見たりして…とら屋の前を行き過ぎるときの寅さんのように。
ピーコガード(鶏が入ってこないための格子状の衝立)を開けて外に出てみると、ミリチャが「クーックック」と低く鳴きながらうずくまるような仕草をする。
卵産みたいのかい?
舎長が抱えて小屋へ連れて行く。
さあ、お入り。
小屋に入れて戸を閉めると、ミリチャは産み箱の横に立ち、一度だけ前に回ってからまた箱の横に戻り、よっこらしょと飛び上がって産み箱の中に入る。
20分ほどすると産み箱から出て、やはりクーックックと低く鳴いて小屋の中を歩き回り、外に出してほしいとアピールを始める。厨房からも聞こえるその声で、舎長が出て行って鶏小屋の戸を開けてやる。
そして、産み箱の中を覗くと、ほれ。
入舎5年のベテランだが、まだ二日に一度は卵を産む。偉いねえ。
しばらくすると今度はツブコがウロウロし始めた。
おやおや、あんたも産みたいのかい?
ツブコは自分から小屋の前まで歩いて行き、
戸を開けてやると、
サッと入り、
やはり産み箱の横に立って、一呼吸おいてから、跳び上がる。
30分ほどしてポコンと産んで、「コケ-コッコッコ!」と大きな声で産んだことを知らせてくれる。
ツブコは入舎7年2か月の最長老。それでも三日に一度くらいのペースで産む。すごいねえ。
この日の卵は合計5個。手前の三つがピコたちが産んだ卵。奥の二つがミリとツブ。ピコたちは去年12月に初卵を産んでから今日までの8か月あまり、毎日産んでいる。おかげで、お客さんが次々やってきたこの夏も卵に困ることはなかった。
おやおや、あんたたち、今度は何? 夕方、鶏たちが土間の前に集まっているので外に出ると…
そうかいそうかい、遊び疲れたんだね。小屋に入りたいんだね。さあ、おいで。
朝8時に外に出てから夕方5時まで、さすがに「堪能したわあ」。
皆満足して小屋に帰っていった。
わが舎の鶏たち、舎長と会話できるようなんです。