カキぴー

春が来た

騙されてみる

2010年12月14日 | 日記・エッセイ・コラム
「騙す」、「騙される」、この行為は人類が誕生してからこれまで絶えることなく繰り返され、悲喜こもごも沢山のドラマを生んできたはず。 騙すという行為は一般的にかなり手の込んだ頭脳作業で、頭のいい奴が加害者と思われがちだが、必ずしもそうとは限らず、その逆もありうるから世の中は面白い。 こと男と女に関して言えば、これまで女が騙されるのは悲劇で、男が騙されるのは喜劇と思い込んでいたが、最近ではこれも逆転してきたことに時代の流れを感ずる。

嘘にいい嘘と悪い嘘があるように、なんとも微笑ましい庶民の哀歓を描いた騙し合いが、オー・ヘンリーの短編 「桃源郷の短期滞在客」。 100年も前に書かれたこの本の舞台となった桃源郷とは、ニューヨーク・ブロードウエーにあった格式あるホテル。 そこは奥行きが深く木々が生い茂っていて涼しい、砂漠のような真夏のマンハッタンではまさにオアシス、部屋はひんやりとした肌触りの黒いオーク材で仕上げられている。       

7月になるとめっきり客足の減ったある日の夕暮れ時、都会のホテルで静かにバカンスを楽しむのに相応しい、妙齢の女性がフロントに現れる。 差し出した名刺によれば 「マダム・エロイーズ・ダーシー・モーボン」。 その数日後青年実業家が宿泊し、二人は言葉を交わすようになる。 自分たちが属してる社会のゴージャスな環境や生活、高い社会的地位や名声について語る。 バカンスの終盤にきて彼女は身分を明かす、実は1週間のセレブな休日を楽しむため1年間貯金をしてホテルにステイしているデパートガールであることを。 すると青年も告白する、自分は雑貨屋の集金係で、優雅な休日を過ごしたいとお金を貯めてきたことを。 正体を明かした彼は、最後に彼女をコニーアイランドに誘う。 因みにそこは当時庶民が手軽に遊べるスポット・・・。

先日仙台で出版社の社長と昼食を約束し、デパートの玄関奥で待ち合わせした。 先に着いた僕が椅子に座って携帯電話を見てると、品のよさそうなお婆ちゃんが隣に座り、自分の携帯に写った花を僕に見せ盛んに説明する。 最初は聞くふりをしてたが煩わしくなり無視してると、自分は病院に来ての帰りで財布を忘れてきたが、どうしても地下の売り場でパンを買って帰りたいのだという。 病院の診察券を見せたり、バスの定期券を見せたりする。

何となく騙されてみたいような気が起き、幾ら欲しいのか訊ねると1000円でいいと言うので渡すと、振込みで返すから口座番号を教えてくれと言う。 キャッシュカードを示すと手帳にメモし、礼を言って立ち去った。 途中から成り行きを見ていた社長がニヤニヤしながら 「ああして一日何人ぐらい騙せるんですかねえー」と感心している。 最初から思い返してみると確かにストーリーが出来すぎている、でも面白かった。   2日ほどして外出先から帰宅すると女房が、仙台の女性から電話があり、借りたお金を振り込んだとの伝言と、礼を言われたとの報告。 「幾ら貸したんですか?」 と聞かれ、「金額は聞くな」と答えた。 


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