「読み進み、あるところではっと気がついて前のページを読み直し、通り過ぎた時に気ずかなかったさりげない一文に深い意味を発見するということは、本などでしばしばある。 デヴィッド・リーンという監督は、映像でそれをやってのける作家である。 だからモザイクのように繋げられていく場面は、どれ一つとして見逃せない・・・」。 これは10年ぐらい前に「高樹のぶ子さんと見るライアンの娘」 として朝日新聞に載った文章の一部。 この映画は彼女がもっとも惹かれる特別なベスト作品で、著書「熱い手紙」の中にもこの映画が出てくる。 文章は続く、「神はしばしばスケープゴートを造って、出会ってはならない相手とめぐり合わせる。 これには誰もあらがえない・・・」。
北大西洋の東部に位置する「アイルランド島」、南側6分の5がアイルランド共和国で、残りは北アイルランドでイギリス領。 両方を合わせると北海道よりやや広く、東のアイリッシュ海を挟んだ目と鼻の先がイギリス本土のグレートブリテン島。 1968年の秋、イギリスの生んだ不世出の巨匠デヴィッド・リーン監督が、アイルランド南西の端ディングル岬の先端に立ち、長く連なる断崖絶壁に打ち狂う巨大な白波と、荒涼たる大自然の風景にしばし見入ったあと、ここが絶好のロケ地と確信する。 それから6ヵ月後にはこの荒々しい不毛の海岸に、石・スレート・タール・草ぶき屋根の町並み、学校の校舎、イギリス軍兵舎、古いパブ、教会などが完成し、イギリス映画「ライアンの娘」の撮影が始まった。
映画の舞台は、反英独立運動が秘かに行われている1910年代アイルランドの寒村。 冒頭のシーンで、断崖から海に向かって日傘が落ちていく。 傘の持ち主は古い因習を嫌う若く美しい娘ロージー(サラ・マイルズ)のもので、この傘は小船で海に出ていた知恵遅れで口も体も不自由な村の男マイケル(ジョン・ミルズ)に拾われる。 墜ちていった女を神は無知ゆえに善なる男を借りて救う、というストーリーを暗示させる場面。 彼女は年の差が離れた教師チャールズ(ロバート・ミッチャム)と結婚式を挙げる。 しかし彼に満足できないロージーは、こともあろうに赴任してきた英国将校ランドルフ(クリストファー・ジョーンズ)と恋に落ちる。 反英感情渦巻く村でである。
ある嵐の夜、武器を陸揚げしていた独立運動の男達が英軍に逮捕される事件が起き、ロージーは密告者の烙印を押されリンチを受け、髪を切られる。 そんな彼女を救うのは、彼女が裏切り続けてきた夫のチャールズと、コリンズ神父(トレバー・ハワード)。 結末は、ランドルフが呵責の念で自ら死を選び、ロージーとチャールズは元の鞘に収まった振りをして、堂々と村を出て行く決心をする。 海岸のバス乗り場まで送ってきたのは牧師のコリンズと、ロージーに想いを寄せながら彼女に嫌われていたマイケル。 最後にロージーは彼にキスをする。 バスの走り出す間際に牧師はチャールズに聞く、「ロージーと分かれるつもりか?」、彼は黙ったまま、牧師は言う、「私は離婚することを疑問に思う。 それが私のはなむけだ・・・」
脚本はデヴィッド・リーン監督の常連で、「アラビアのロレンス」や「ドクトル・ジバゴ」の映画脚本で知られるイギリスの劇作家・脚本家ロバート・ボルトのオリジナルで、完成に1年を要した。 撮影はイギリスで最も著名な撮影監督の一人フレディ・ヤング、彼はリーン監督のアラビアのロレンス、ドクトル・ジバゴ、ライアンの娘でアカデミー撮影賞を受賞している。 雨雲の動き、月夜の美しさ、白い砂浜に残る男女の足跡など、どの場面もまるでスクリーンに絵画を見るよう。 映画の全編に流れる「ロージーのテーマ」は、これまたリーン監督の常連で多くの映画音楽を作曲したモーリス・ジャールで、アカデミー音楽賞にノミネートされた。 また神業ともいえる汚れ役を演じたジョン・ミルズはアカデミー助演男優賞を受賞。 しばらくぶりにDVDの鮮明な画像でこの名作を観ながら、グレアム・グリーンの言葉を思い出した。 「宗教心の無いところに、不倫小説は生まれない」
北大西洋の東部に位置する「アイルランド島」、南側6分の5がアイルランド共和国で、残りは北アイルランドでイギリス領。 両方を合わせると北海道よりやや広く、東のアイリッシュ海を挟んだ目と鼻の先がイギリス本土のグレートブリテン島。 1968年の秋、イギリスの生んだ不世出の巨匠デヴィッド・リーン監督が、アイルランド南西の端ディングル岬の先端に立ち、長く連なる断崖絶壁に打ち狂う巨大な白波と、荒涼たる大自然の風景にしばし見入ったあと、ここが絶好のロケ地と確信する。 それから6ヵ月後にはこの荒々しい不毛の海岸に、石・スレート・タール・草ぶき屋根の町並み、学校の校舎、イギリス軍兵舎、古いパブ、教会などが完成し、イギリス映画「ライアンの娘」の撮影が始まった。
映画の舞台は、反英独立運動が秘かに行われている1910年代アイルランドの寒村。 冒頭のシーンで、断崖から海に向かって日傘が落ちていく。 傘の持ち主は古い因習を嫌う若く美しい娘ロージー(サラ・マイルズ)のもので、この傘は小船で海に出ていた知恵遅れで口も体も不自由な村の男マイケル(ジョン・ミルズ)に拾われる。 墜ちていった女を神は無知ゆえに善なる男を借りて救う、というストーリーを暗示させる場面。 彼女は年の差が離れた教師チャールズ(ロバート・ミッチャム)と結婚式を挙げる。 しかし彼に満足できないロージーは、こともあろうに赴任してきた英国将校ランドルフ(クリストファー・ジョーンズ)と恋に落ちる。 反英感情渦巻く村でである。
ある嵐の夜、武器を陸揚げしていた独立運動の男達が英軍に逮捕される事件が起き、ロージーは密告者の烙印を押されリンチを受け、髪を切られる。 そんな彼女を救うのは、彼女が裏切り続けてきた夫のチャールズと、コリンズ神父(トレバー・ハワード)。 結末は、ランドルフが呵責の念で自ら死を選び、ロージーとチャールズは元の鞘に収まった振りをして、堂々と村を出て行く決心をする。 海岸のバス乗り場まで送ってきたのは牧師のコリンズと、ロージーに想いを寄せながら彼女に嫌われていたマイケル。 最後にロージーは彼にキスをする。 バスの走り出す間際に牧師はチャールズに聞く、「ロージーと分かれるつもりか?」、彼は黙ったまま、牧師は言う、「私は離婚することを疑問に思う。 それが私のはなむけだ・・・」
脚本はデヴィッド・リーン監督の常連で、「アラビアのロレンス」や「ドクトル・ジバゴ」の映画脚本で知られるイギリスの劇作家・脚本家ロバート・ボルトのオリジナルで、完成に1年を要した。 撮影はイギリスで最も著名な撮影監督の一人フレディ・ヤング、彼はリーン監督のアラビアのロレンス、ドクトル・ジバゴ、ライアンの娘でアカデミー撮影賞を受賞している。 雨雲の動き、月夜の美しさ、白い砂浜に残る男女の足跡など、どの場面もまるでスクリーンに絵画を見るよう。 映画の全編に流れる「ロージーのテーマ」は、これまたリーン監督の常連で多くの映画音楽を作曲したモーリス・ジャールで、アカデミー音楽賞にノミネートされた。 また神業ともいえる汚れ役を演じたジョン・ミルズはアカデミー助演男優賞を受賞。 しばらくぶりにDVDの鮮明な画像でこの名作を観ながら、グレアム・グリーンの言葉を思い出した。 「宗教心の無いところに、不倫小説は生まれない」