カキぴー

春が来た

華麗なる男性遍歴、女性飛行士ベリル・マーカムの生涯

2013年04月05日 | 小説
先のブログで、イギリスからアメリカへ向かって飛び 夜と向かい風に逆らいながら、大西洋単独横断飛行」に初めて成功した女性パイロット、ベリル・マーカムの著書 「夜とともに西へ」を紹介した。 しかしその後彼女の伝記、「愛を奪った女、ベリル・マーカム」を読むと、横断飛行の快挙は生涯のほんのひとコマにすぎず、自由奔放で波乱に満ちたセクシーな生き方は、まさに成人向け大河ドラマにふさわしい。 まずその生い立ちだが、イングランド・グロスターシアの、かなりの名門一族として生まれ、二歳とき四歳の兄とともに、イギリス領東アフリカの最初の移民募集に応募した両親に連れられてケニアに移住している。

四歳のとき母親が不倫の相手と兄だけを連れてイギリスへ出奔し、子供を構う暇のない父親と家庭教師、次に父親の情婦を兼ねた家政婦に育てられる。 学校教育もほとんど受けず、原住民の、それも男の子達とサバンナを駆け回り、乗馬・格闘・狩り、そして少女期からのセックスなど「アフリカの子」として成長する。 1921年ベリル19歳のとき、農場・厩舎を経営して成功していた父親が第一次世界大戦の煽りで破産し、彼女ひとりを残して南アフリカへ移住。 彼女は厩舎で働きながら、十代でアフリカ最初の公認女性調教師の資格を取得し、一時期ケニア競馬の主要レースを総なめにするという輝かしい成功を収める。

気候に恵まれた内陸高原地帯に作られた白人入植地には競走馬の厩舎が建ち、イギリス本土や欧米各国から集まる馬主や狩猟家たちの別荘やホテルが建設されると、王族・貴族・実業家・作家・音楽家・映画スターなどが続々と押し寄せることになる。 当然ベリルは職業柄こうした人種との交流も深まったが、際立った美貌とスタイルに加えてへりくだったところが微塵もないところが魅力とされ、イギリスのプリンス兄弟(王位を捨てアメリカ女性ウオーリス・シンプソン婦人と結婚したエドワード八世王とその弟グロスター公)との二股かけた情事の頂点を極める中にあっても、王子と夫以外の男たちと寝るのをやめなかった。

入植地に飛行場が出来るとベリルは事業用パイロットのライセンスを取得し、その行動範囲と人脈はますます広がるが、男に不自由しないはずの彼女が、8年間追い続けてやっとモノにした男がいる。 自ら飛行機で獲物を探して案内するホワイトハンターのデニス・フィンチ・ハットンで、アメリカ映画 「愛と哀しみの果て」でロバート・レッドフォードが扮した男だ。 情事とスキャンダルの相手は無数だが、彼女が本当に愛したのはデニスだけだったと後に告白している。 デニスを奪われたのは、映画の原作 「アフリカの日々」の著者アイザック・ディネーセンで、映画ではメリル・ストリープが演じていた。  

惚れた男とやっと同棲するところまで漕ぎつけたベリルだが、それも束の間、デニスは飛行機事故で死んでしまう。 1942年に出版された「夜とともに西へ」は、ベリルと面識のあったへミングウエイをして「素晴らしい傑作だ!フライト・ログぐらいしか書けないと思っていた自分が恥ずかしいよ」 と絶賛している。 しかし飛行経験のある者が読むと、素人が書いていると感じる箇所も多く、ゴーストライターだった三度目の夫が書いたという定説はたぶん本当かもしれない。 しかしそんなことはどうでもいい、馬と飛行機と男を愛し、八十四歳まで生きたスーパーウーマンの履歴に、いささかの汚点も残すものではない。