冨田敬士の翻訳ノート

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日本語文章の書き方の基本

2009-12-02 08:29:55 | 情報
 情報伝達のための文章は、簡潔明瞭で読みやすく、誤解の余地のないような書き方がよいことは、広く知られている。英語で言えばclear, concise, and understandableである。ところが翻訳のレッスンをしていると、二つにも三つにも解釈できるような、意味の不明瞭な文章を書く人が少なくない。英語の文法に引っ張られてそうなってしまうのだが、実は、一定の簡単なルールに従うだけで、文章は見違えるほど読みやすくなる。以下、自らの経験と知見をベースに書き方の基本をまとめてみた。

1. 主語(またはテーマ)は、文頭、あるいは文の初めのほうに置く
 西洋語や中国語と違って、日本語は、述語という基本的な要素が文の最後に来るので、最後まで読まないと話の内容が分からないという側面がある。これを改善するには、主語(またはテーマ)を文のなるべく前のほうに置くのがよい。そうすれば話の方向がわかりやすくなり、読者は意味の展開が追いやすくなる。

2. 一つの文に情報を詰め込まない
 主語(またはテーマ)と述語の間に情報をいっぱい盛り込んだ文章をよく見かけるが、翻訳では英文解釈式に後ろから訳し上げると、そういう文章になりやすい。読者は情報の整理で頭が混乱する。「~は」で始めるのはよいが、箇条書きのように情報を次々と並べ、最後に述語で締めくくるのは、悪文の見本である。主語と述語の間の情報は、少ないほどわかりやすい。

3. 共通の主語(またはテーマ)に対しては、態を変えない
 「態」とは能動態と受動態(受け身)のことである。「~は」で主語(またはテーマ)を置いたあと、述語動詞が二つ以上続くときは、「態」を統一しないと意味が混乱する。これに対して、「態」が揃っていると、かなり長い文章でも意味の混乱はあまり生じない。

4. 他動詞と自動詞を区別して使う
 日本語には自動詞としてしか使用しない言葉がいくつかある。例えば「流通する」であるが、「~を流通する」とは言えない。The company will distribute the goods in this countryという英文で「商品を流通する」と訳すと、日本語のセンスを疑われる。

5. 修飾語はなるべく接近した位置に置く
 日本語文章の意味を不明瞭にする大きな原因の一つは、修飾語と被修飾語が離れすぎることである。修飾語は被修飾語の直前に置くか、なるべく近い位置に置くと、誤解の余地がそれだけ少なくなる。

6. 読点は意味の切れ目に打つ
 読点(、)は日本語文章を分かりやすくするための切り札といってもよい。読点は意味の固まりを視覚的に示す記号であり、息継ぎの記号ではない。したがって、意味の切れるところに打つのが原則。たとえば、このエッセーの最初の文の「二つにも三つにも解釈できるような、意味の不明瞭な文章」を、もし「二つにも三つにも解釈できるような意味の不明瞭な文章」と書いたら、わかりにくい。

7. 文の長さは短めにする
 Plain Englishでは、一つの文の長さはせいぜい25ワードぐらいまでと言われているが、日本語の文も長くないほうがわかりやすい。情報伝達のための文章は小説のような会話形式の文章とちがって、ある程度の長さは仕方がないが、2行を超えるようなときは、注意したい。また、単調な印象を与えないようにするためには、文の長さに変化をつけるとよい。

8. 文末の結びの助詞に変化をつける
 日本語の文末は単調になりやすい。「である」、「です」、「ます」で終わって同じ音が揃い、不格好になりやすい。これは作家やジャーナリストの悩みの種らしい。その点、昔の文語体は「たり」、「けり」、「き」、「や」、「かな」、「ぬ」など多様な結びが可能であった。実務の文章などでは一定の制約はあるかもしれないが、文末は一本調子にならないように配慮したい。

9. 文章語を使う
実務やエッセーの文章は文章語(書き言葉)で書くのが基本。手紙やメールであっても、仕事にかかわるものは文章語で書く。文章語とは、話し言葉以外の表現形式で、いわば大人の文体である。しかし、むずかしい語や言い回しが文章語ではない。むしろ、専門語以外は使い古された、親しみのある、わかりやすい表現がよい。

10. こなれた文章を書く
情報が他人に明確に伝わることはむしろ当然のこと。できることなら「こなれた文章」が書けるようになりたい。では文章がうまくなるにはどうすればよいか。Joyceの翻訳でも知られる作家の丸谷才一氏は次のように述べている。「文章上達の秘訣はただ一つしかない。そのただ一つが要諦であって、他はことごとく枝葉末節にすぎない。.........作文の極意はただ名文に接し名文に親しむこと、それに尽きる」(「文章読本」中公文庫より)。
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