冨田敬士の翻訳ノート

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"WORKING WITH CONTRACTS"

2010-06-28 20:50:55 | 書評
"WORKING WITH CONTRACTS"
What Law School Doesn’t Teach You
(Charles M. Fox, Practising Law Institute)

 法律文書の英訳をやっていると、ネイティブの法律家が仕事のなかでどんなレベルの英語を使っているか、契約書の作成の際にどんな点に配慮しているかなどを知りたくなることがある。その辺の感覚がある程度つかめると翻訳の目標がみえてくるので、英訳の作業もしやすくなる。ここで紹介する本はこうした要求にある程度答えてくれるのではないかと思う。
 この本の著者は米国で20年以上も企業買収や不良債権の取引に経験を積んだ弁護士。主に法律実務についたばかりの人や、ロースクールの学生を対象に、契約締結の交渉の仕方や契約書の作成の仕方について相当詳しく解説している。ベストセラーとなった第一版の改訂版(第二版)と紹介されているように、内容が豊富なことやplain Englishスタイルの読みやすい文体で書いてあることを考えると、第一版が多くの人に読まれたであろうことは容易に想像できる。
 内容は契約を締結する際の法律問題から用語の解説や解釈まで広範囲に及んでいる。実務に役立つことを主眼としたもので、アカデミックな解説書ではない。それだけに、契約実務の現場でどんな英語が使用されているのかを知るための一つの指針になるのではないか。英文の法律文書で目にすることの多いmaterial、reasonable、substantialといった用語を実務で何故よく使用するのか、使用せざるを得ないのか、この本の解説を読むとなるほどと思う。ライセンスや合弁事業といった国際契約に触れていないのは残念だが、著者の仕事の領分を考えると、それはしかたがないだろう。
 314ページのペーパーバック版で、ネットでは比較的手頃な価格で入手できる。
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日本語の縦書き横書き

2010-06-07 20:47:35 | エッセイ
六法も横書きの時代

 先日、新宿の書店で横書きの六法全書を見かけた。まだ一点だけとはいえ、六法の横書き版は画期的な編集である。この版を見るかぎり、六法も横書きのほうがずっと見やすい。ただ、せっかくの横書き版なのに、条文番号や数字は縦書き版と同じように漢字のまま残されている。例えば第七百九十三条第二項第二十三号のような具合で、これではいかにも読みにくい。なぜ第793条第2項第23号と表記しなかったのか理解に苦しむ。次回の改定版ではぜひ改善してほしい。
 法律分野でも書籍や雑誌などかなり横書きが多くなってきているが、他の分野では横書きがすでに普通になっている。好ましい傾向だと思う。横書きのメリットはいろいろある。例えば算用数字が使えて、西洋語が原文のまま併記できるので、学習や仕事の面で何かと都合がいい。パソコン画面での操作にも適している。また、文法や語法的な分析もしやすいので、外国人の日本語学習にもメリットが大きい。横のものを縦にするだけといった不当な翻訳批判も減りそうである。残念ながら新聞と文学書がまだ縦書きのままだが、形式は慣れの問題で、横書き版に組み換えても慣れるのにさほど時間はかからないはずだ。横書きにしたからといって値打ちが下がるわけではない。
 世界の主な言語の中で縦書きを採用しているのは、筆者の知るかぎり日本語と台湾の中国語ぐらいで、縦書き文化の本家中国ではずっと昔から横書きに統一している。縦書きは商店の看板か書道の世界ぐらいしか見あたらない。横書きが世界の標準になっている。

年号表記も西暦への一元化がよい

 話のついでに言うと、元号の表記も西洋暦に一本化するのが望ましい。現在の元号表記は西暦と日本元号のダブルスタンダード。日本の元号が混じった文を外国語へ翻訳する際には年号の転換が煩雑である。が、年号表記はプロフェッショナルだけの問題にとどまらない。申請書類や届出書類を作成する際に日付を西暦で書くのか日本の元号で記載するのか、いちいち尋ねなければならない。それより大きな問題は、私事でも社会事件でも何でもよいが、西暦で覚えている出来事と日本の元号で覚えている出来事が有機的に結びつかないことだ。こうした状況は、極論すれば日本人の歴史感覚に影響を与えかねない。
 日本の元号は皇位継承に基づいて645年の「大化」に始まったというから、ずいぶんと歴史が古い。古い文化を大切にしたいという感情は理解できないわけではないが、今のように外国との交流が頻繁な時代には古いが故にむしろマイナスに作用するもこともある。外国にも王制や君主制の国は少なくないが、筆者の知るかぎり、元号はすべて西暦を採用している。文字の横書きと同じように、元号も西洋暦が世界標準になっている。
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