冨田敬士の翻訳ノート

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法律文に見る“as”の機能と意味

2020-05-20 16:37:34 | 情報
 英文の法律文書には“as”混じりの文を見かけることが多い。asは「~のように(な)」とも訳されるとおり,基本的な意味は「等しい」ということ。こうした英文を訳すときは内容をよく分析し,文中で何と何が等しいかを正確に把握しておきたい。
 法律文書のなかでも判例などは一般的な英語で書かれるため,asの用法も新聞や雑誌の書き方と大差はない。一方,法令や契約書の条文は誤解を避けるために専門的な独特のスタイルで書かれており,asの用法にも一定の傾向が見られるようだ。ここではこうした条文中のasを取り上げてみた。
 前置詞や関係詞としてのasは意味的にも文法的にもはっきりしており,わざわざ取り上げるまでもないが,問題は接続詞として使用されたときである。asが条文中で使用されるときは「限定」や「強調」を意味することが多い。as of,as from,as against,as between, as used herein, as defined in the articleなどなどはまさにその例である。条文では物事を厳密に限定する必要があることから,そのツールとしてasを利用することが多いようだ。
 もっとも,「~のように」という「様態」の意味で使用されることもある。使用頻度は低いものの,as ifなどその好例である。文章によっては「様態」か「限定」かを判断するのが難しいことも少なくない。The stock option may thereafter be exercised to the extent provided in the applicable stock option agreement, or as otherwise determined by the Committeeという文で,or as otherwise determined by the Committeeは「様態」なのか「限定」なのかはっきりしない。ただ,意味的な説明はつくので翻訳上の問題はまずない。「当委員会が別途決定するところに従って。」という訳し方でよいのではないだろうか。
 では,実際の使用例を見ることにする。
 以下の英文は米国企業間の回転型与信契約 (Revolving Credit Agreement)の一部で,借主のRepresentations and Warranties(表明と保証)を述べたもの。
Borrower is a corporation duly organized, validly existing and in good standing under the laws of the State of Delaware, and has all requisite corporate power and authority to own, lease and operate its properties and to conduct its business as such is presently conducted and as proposed to be conducted.

 まず,as such is presently conducted and as proposed to be conductedのところでasが二カ所使われている。ここは明らかにandを挟んで左右等位の関係にある。as such is presently conductedではsuchが主語で,直前のits businessを受けているようだ。as proposed to be conductedでは主語が省略されてはいるが,完全な文にすればas such is presently proposed to be conductedと理解できる。ここでas構文とイコールの関係にあるのが何かということになるが,主語のsuchを省略していないところをみると,起草者の意図は動詞句を限定することにあったと考えるのが自然ではないだろうか。以下は試訳。
 「借主は、デラウェア州法に基づいて正式に設立された法人であり、有効に現存し、当事者適格を備えている。また,法人として財産を所有、リース、運営し,自らの事業を現在遂行中の方法により,かつ現在の計画に従って遂行するのに必要な全ての権限を有している」

(上記の続き)
Borrower is duly qualified to do business as a foreign corporation in good standing in any state or jurisdiction in the United States in which it is required to be qualified to do intrastate business as the Company's business is currently conducted, except for jurisdictions in which failure to so qualify could not reasonably be expected to have a material adverse effect on the business and operations of the Company taken as a whole.
 「米国内のどの州又は法域であっても,借主は,州内事業の遂行資格が要求されるところでは,当事者適格を備えた他州法人として事業を遂行する正式な資格を有している。ただし,当該資格がなくても本会社の事業及び運営に全体として重大な悪影響はないと通常考えられる法域については,この限りでない」

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