冨田敬士の翻訳ノート

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委任状(Power of Attorney)

2014-05-09 22:15:01 | 情報
taxable to the agentの意味

 米国で使われている委任状(power of attorney)のうち,代理権を包括的に委任するのがgeneral power of attorney(包括委任状)で,代理人がやってはいけない行為の一つとして次のような規定が盛り込まれることが多い。この文の意味と訳し方を検討してみたい。

The Agent may not exercise any powers that would cause assets of mine to be considered taxable to the Agent or to the Agent's estate for purposes of any income, estate, or inheritance tax.

 この文でmineは「本人」(principal),つまり代理権を委任する人。委任状は「本人」が作成して代理人に提示する契約書の一種。書式はほぼ決まっているようだ。英文は簡潔で短めの文が多いが,上記の規定はわかったようでわからないところがある。多少は専門的な知識が必要かもしれない。使役表現や受動態を無視して骨子部分を単純な文に書き直してみた。
Assets of mine are taxable to the Agent or to the Agent's estate.
 これなら意味がはっきりする。taxable toは課税先を示しているので「私の財産の課税対象は代理人又はその財産」ということになる。似たような表現はネット上でいくらでも拾うことができる。
Corporate dividends are taxable to the shareholder...........
(株主配当の課税対象者は当該株主....)
Amounts received by an agent on behalf of a principal, and turned over to the principal, are not taxable to the agent under section 61(a) of the Code.
(本人に代わって代理人が受け取り,本人に引き渡された金銭については,内国歳入法第61条(a)により,課税対象が代理人に及ぶことはない)

 以上のことから,最初の英文は,英文解釈的に直訳すれば次のようになるだろう。
「代理人は,私の財産の課税対象が所得税,遺産税又は相続税目的で代理人又はその財産に及ぶとみなされるような権限を,行使することはできない」
 この文は一体何を言おうとしているのだろうか。課税対象が代理人に及ぶというのはどういう意味なのか。この規定の趣旨は,前後の文脈から判断すれば明らかに課税対象が代理人に及ぶのを防止することにある。
どこの国でも,納税義務者は財産の所有権者だ。代理人に悪意はなくとも,代理受領した金銭を代理人が自分の資金と一緒にする可能性も考えられる。そうすれば,代理受領した財産についても代理人が課税対象者,つまり所有権者と見なされる。本人としてはそういう結果は避けなければならない。
 代理人が本人の財産を誰かに贈与したり相続させたりすることもあるだろう。日本では贈与税や相続税は贈与あるいは相続を受けた人に納税義務が発生するが,米国では逆に贈与人あるいは被相続人が課税対象になるという。
 米国の代理法や税法の解説文は専門性が高く,英語も複雑で,素人には手に負えないところがある。こちらが知りたいと思うような基本的な部分を説明したサイトはほとんど見当たらなかったが,そんな中で下記のURLの解説は参考になるところがあった。
http://www.floridabar.org/divcom/jn/jnjournal01.nsf/Author/42DA7C7785C8090285256BDC0046FE16

なお,最初の英文は次のように訳すと多少は理解しやすいかと思う。
「いかなる権限であれ,それを行使すれば,私の財産の課税対象が代理人又はその財産に及ぶとみなされるような場合,代理人は当該権限を行使してはならない。ただし,この場合の課税対象は,所得税,遺産税又は相続税を目的としたものに限定する」


コメント
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