文化が違うと未知の概念に遭遇し,意味を理解するのに苦労することが多い。英米法のtitle(権原)もまさにその一つではないかと思う。titleは英文の法律文書や契約書の中によく出てくる用語で,簡単な使用例は次のとおり。
all rights, title and interests in and to the Software
titleの訳を用語辞典で見ると「権原」であったり「所有権」であったり,必ずしも一定しない。「所有権」ならownershipでよいと思うのだが,なぜtitleなのか。日本や英米の用語辞典は解説が簡単すぎたり難しすぎたりで,素人には手に負えないところがある。
日本の民法にも「権原」という用語が使われてはいるが,こちらは「一定の法律行為または事実行為をすることを正当化する法律上の原因」と解釈されている。これに対し英米法のtitleは不動産法の古い用語で,その背景には歴史的,実証的な意味がありそうだ。英米のサイトや参考書を調べてみるとほぼ次のようなことがわかる。
その昔,英国ではありとあらゆるものが国王(monarch)のものと考えられていた。そして,家臣には役務(service)の見返りとして封土(fee)が与えられた。そのことがあらゆる権利の発生する大本であり,titleと呼ばれるものらしい。日本の封建社会の「知行」と似たところがある。通常,titleは称号や資格を意味する言葉だが,ここでは国王の「お墨付き」といったところか。本来,titleの対象は不動産だが,現在では登録の必要な財産も対象となっている。一部の国や州では自動車の購入の際にcertificate of title(所有権譲渡証書)の登録が求められるという。「タイトル」は我々にとって不可解な言葉ではあっても,英語圏の人たちの間では日常的に使われているようだ。
英米法の土地には大陸法のような絶対的所有権(absolute ownership)といったものは存在しない。かつて国王が家臣に与えたのは領地の「保有権」(hold)であって,「絶対的所有権」ではなかった。英国では今でも土地は国家(State)のものという考え方をしている。相続人がいないか,一定の保有条件が満たされるとその土地は国家に復帰する(reversion)。不動産権(real estate)には保有期間に応じて2つの種類がある。その一つは保有期間に定めのないfreehold(自由保有権)であり,もう一つは保有期間が確定しているか確定可能なleasehold(賃借権)である。
このうち,freeholdはさらに4つに区分されており,その一つが未来永劫に保有,相続,処分の可能なfee simple(単純封土権,土地所有権)である。これが大陸法の「所有権」に一番近い。売買取引の対象となるのも原則としてfee simpleの付いた不動産だ。今日,titleと言えば通常fee simpleを指しているので,実務上は日本法の所有権と同じように考えてよいだろう。
ではownershipとは何か。普段は「所有権」と訳されるためtitleと混同しやすいが,titleと同列に扱うことはできない。接尾語の-shipが名詞に付くと「地位」や「状態」のことで,法的権利としての厳密な定義は見当たらない。例えば,前記の自由保有権や賃借権のことをfreehold ownership,leasehold ownershipと言ったり,譲渡証書を使って譲渡される所有権のことをtitled ownershipと言ったりで,titleとownershipが互換的に使えるわけではない。.
参考までに,米国のあるサイトではtitleを次のように定義している。
a comprehensive term referring to the legal basis of the ownership of property encompassing real and personal property and intangible and tangible interests therein
(一般に財産の所有権を正当化する法的根拠のことで,その範囲は不動産及び動産,そしてそれぞれに存する有形無形の権利に及ぶ)
英米の用語辞典には普通こうした大まかな解説が多い。
titleは理解しにくい言葉ではあるが,はるか昔,国王の「お墨付き」がそもそもの始まりであったことを考えると,何となくこの語のイメージが湧いてくる。「権原」という訳語は適切なのか。いっそカタカナ表記の方が原語のイメージは伝えやすいと思うのだが。
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titleの訳を用語辞典で見ると「権原」であったり「所有権」であったり,必ずしも一定しない。「所有権」ならownershipでよいと思うのだが,なぜtitleなのか。日本や英米の用語辞典は解説が簡単すぎたり難しすぎたりで,素人には手に負えないところがある。
日本の民法にも「権原」という用語が使われてはいるが,こちらは「一定の法律行為または事実行為をすることを正当化する法律上の原因」と解釈されている。これに対し英米法のtitleは不動産法の古い用語で,その背景には歴史的,実証的な意味がありそうだ。英米のサイトや参考書を調べてみるとほぼ次のようなことがわかる。
その昔,英国ではありとあらゆるものが国王(monarch)のものと考えられていた。そして,家臣には役務(service)の見返りとして封土(fee)が与えられた。そのことがあらゆる権利の発生する大本であり,titleと呼ばれるものらしい。日本の封建社会の「知行」と似たところがある。通常,titleは称号や資格を意味する言葉だが,ここでは国王の「お墨付き」といったところか。本来,titleの対象は不動産だが,現在では登録の必要な財産も対象となっている。一部の国や州では自動車の購入の際にcertificate of title(所有権譲渡証書)の登録が求められるという。「タイトル」は我々にとって不可解な言葉ではあっても,英語圏の人たちの間では日常的に使われているようだ。
英米法の土地には大陸法のような絶対的所有権(absolute ownership)といったものは存在しない。かつて国王が家臣に与えたのは領地の「保有権」(hold)であって,「絶対的所有権」ではなかった。英国では今でも土地は国家(State)のものという考え方をしている。相続人がいないか,一定の保有条件が満たされるとその土地は国家に復帰する(reversion)。不動産権(real estate)には保有期間に応じて2つの種類がある。その一つは保有期間に定めのないfreehold(自由保有権)であり,もう一つは保有期間が確定しているか確定可能なleasehold(賃借権)である。
このうち,freeholdはさらに4つに区分されており,その一つが未来永劫に保有,相続,処分の可能なfee simple(単純封土権,土地所有権)である。これが大陸法の「所有権」に一番近い。売買取引の対象となるのも原則としてfee simpleの付いた不動産だ。今日,titleと言えば通常fee simpleを指しているので,実務上は日本法の所有権と同じように考えてよいだろう。
ではownershipとは何か。普段は「所有権」と訳されるためtitleと混同しやすいが,titleと同列に扱うことはできない。接尾語の-shipが名詞に付くと「地位」や「状態」のことで,法的権利としての厳密な定義は見当たらない。例えば,前記の自由保有権や賃借権のことをfreehold ownership,leasehold ownershipと言ったり,譲渡証書を使って譲渡される所有権のことをtitled ownershipと言ったりで,titleとownershipが互換的に使えるわけではない。.
参考までに,米国のあるサイトではtitleを次のように定義している。
a comprehensive term referring to the legal basis of the ownership of property encompassing real and personal property and intangible and tangible interests therein
(一般に財産の所有権を正当化する法的根拠のことで,その範囲は不動産及び動産,そしてそれぞれに存する有形無形の権利に及ぶ)
英米の用語辞典には普通こうした大まかな解説が多い。
titleは理解しにくい言葉ではあるが,はるか昔,国王の「お墨付き」がそもそもの始まりであったことを考えると,何となくこの語のイメージが湧いてくる。「権原」という訳語は適切なのか。いっそカタカナ表記の方が原語のイメージは伝えやすいと思うのだが。