冨田敬士の翻訳ノート

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ハンドブック アメリカ・ビジネス法 (吉川達夫,飯田浩司編著)

2013-11-15 20:31:56 | 書籍
ハンドブック
アメリカ・ビジネス法 (吉川達夫,飯田浩司編著)
LexisNexisジャパン社,2013年8月6日出版,308ページ,3100円+税

 国際ビジネスでは米国企業の活動が著しいことから,翻訳の仕事も米国を中心とした英語圏の取引に関するものが多い。アメリカ法の教科書や参考書は数知れず,それらを利用すればアカデミックな専門性は深められるかもしれないが,翻訳では実務に則したハイレベルな知識が要求されることも少なくない。そうしたときは,最近出版されたこの本もきっと役に立つだろう。米国のビジネス法を19の章に分けて論述し,訴訟から刑法まで大半の分野を納めている。かといって広く浅くではなく,米国ビジネスに必要な範囲を重点的に解説しているようだ。専門用語にはそれぞれ日本語の訳が付けてあるので翻訳の際の参考にもなる。
 この種の米書としてはBARRON'S Business Law (Robert W. Emerson, J.D., 5th Edition)が知られている。本書がその編集方針を参考にしていることは明らかだが,翻訳版というようなものではなく,あくまでも日本人読者向けの内容に編さんされている。法制度や手続きの解説以外に,日本法との違い,米国から訴状を受け取ったときの対応の仕方,米国での弁護士の使い方など,通常の参考書ではあまり見かけないような情報も興味深い。本の形式はあくまでもハンドブックで,いつも手元において辞書的に活用することを念頭に編集されているようだ。専門性が結構高いので,米国法について多少の予備知識は必要かもしれない。
 筆者にとってもこの本は長年の疑問の解消に役立った。米国の不動産売買契約のとき買主はなぜtitle insurance(権原保険)に加入するのか,登記制度ではなぜ間に合わないのか。この点は翻訳の学習者からもよく質問されたが,何を見ても確たる解答が見つからず,いい加減な回答をしてしまった。本書をみてその答えがやっと分かった。米国の不動産登記は日本のように不動産ごとに登記する登記簿管理ではなく,譲渡証書を登記する証書登記が基本になっている。証書登記では,たとえ専門家でも瑕疵のない所有権かどうかは登記簿を見ただけではよくわからない。だから保険に入る必要があるという。
 この種の和書の専門書をみるとき,いつも気になるのは値段の高さ。先に挙げたBARRON'S Business Lawは750ページもあるのに,ネット販売で1860円で買える。外国と比較しても和書の価格は異常に高いような気がする。安くなるのであれば,辞書やハンドブック的な本はCD形式の販売でもよい。特定の箇所だけを参照するにはむしろそのほうが参照の能率がよい。
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