冨田敬士の翻訳ノート

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ネイティブも誤るproviso(ただし書き)

2012-02-13 14:19:41 | 情報
 英文の法律や契約書の条文では「ただし書き」を表現するときに接続詞のprovidedを使用することがよくある。この語は一般英語でも使用されるので,まず,一般英語での用法をみることにする。

Provided (that) the weather is fine, we'll have a picnic on Saturday.
Providing (that) the weather is fine, we'll have a picnic on Saturday.
(土曜日は,天気がよかった場合だけ,ピクニックにします)
I am willing to go provided/providing (that) my expenses are paid.
(費用さえ出してもらえれば,行くことに異存はありません)

 providedもprovidingもifの強意形で,「条件」の設定に使用する。on condition that.....で言い換えることもできる。文章語にはよりフォーマルなprovidedが好まれるとも言われているが,どちらも文語なので口語文で使用されることはめったにない。
 法律文では「ただし書き」(proviso)として使用されることが多いが,「条件」の意味で使用されることもある。「条件」と「ただし書き」のどちらの意味で使用されているかは,英文の形で見分けることができる。

・「条件」の場合
This agreement may be terminated immediately, provided that ABC breaches any of its obligations.............
(本契約は,ABCが......の義務のいずれかに違反した場合に限って,直ちに解除することができる)
以上のように条件文として使用するときは,接続節は現在形になる。

・「ただし書き」の場合
ABC may change its prices set forth on Exhibit A at any time, provided that no price increase shall be effective until thirty (30) days after notice by ABC to Distributor of such change.
(ABCは,添付書類Aに記載された価格をいつでも変更することができる。ただし,その変更を販売店に通知した後30日が経過するまでは,いかなる値上げも効力を生じない)
以上のように「ただし書き」として使用するときは,接続節にshallやwillなどの助動詞が必要になる。「ただし書き」は一定の法的効果を表現するからである。また,; provided, (however), thatのように,主文との区切りを明確にするためにセミコロンを付け,providedを使用するのが普通である。中間にhoweverを置くことも珍しくない。
 ネイティブの法律家がこうした規則をきちんと守ってドラフティングしてくれたら,解釈も訳し方も比較的簡単だが,実際にはそうとも思えないケースが少なくない。この問題をネイティブの法律家はどのように見ているのだろうか。このブログでも紹介した"WORKING with CONTRACTS"の著者,Charles M. Fox氏は次のように述べている。
Provisos are sometimes incorrectly used as a substitute for the terms "to the extent that" or "if".
このあと具体例をいろいろと紹介し,主文と「ただし書き」の関係を「一般法」と「特別法」の関係に例えている。そして,主文に対する「優位性」(override)こそが「ただし書き」かどうかの判断基準になるという。

"Seller may enter into leases with respect to the Subject Assets, provided, however, that Seller's interest under such leases shall be transferable to Buyer."
 以上の文は形の上では確かに「ただし書き」だが,実際には「条件」を設定しているにすぎない。主文に対する優位性はないので,次のような条件文に書き換えるのが正しい。
"Seller may enter into leases with respect to the Subject Assets if Seller's interest under such leases is transferable to Buyer."
(本件財産にかかわるリース契約は,その契約に基づく売主の権益が買主に移転可能な場合に限り,売主は,これを締結することができる)
 英文のスタイルに疑問を感じたときは意味の展開からも判断する必要がありそうだ。

(2016年4月改訂)

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法律英語のshall, will, mayの意味と訳し方

2012-02-03 22:45:29 | 情報
 法律英語の特徴の一つは助動詞の使い方だが,実際の法律文書の中で助動詞の意味を正確に理解するのは必ずしも容易でない。特に面食らうのはshallで,しかも使用頻度は一番高い。本来の意味は「義務」(duty)の一義しかないはずだが,実際の使い方は一貫していない。なぜなのか。参考書として評価の高いBryan A. Garnerの"A Dictionary of Modern Legal Usage" (Oxford University Press)によると,この原因は契約書を作成する法律家の不注意や混乱にあるらしい。mayを使うべきところにshallを使ったりするという。
 前記の参考書によると,shallは実に8通りの意味に使用されている。そのうち代表的なものを取り上げると,例えば「許可」を表すべきところにshallを使ったケースがある(Such time shall not be further extended except for causes shown..)。この例文は「許可」(permission)の否定なのでmayを使うのが正しいという。そのほか,「権利」を表すべきところにshallを使ったケースも少なくない。The secretary shall be reimbursed for all expenses..。費用の償還を受けるのは権利であって「義務」ではないので,確かにshallは不適当である。そういうこともあって,多くの裁判所が,shallはmayを意味することもある,という判断を示しており,それも混乱の一因になっているという。
 以上のように,shallの意味ははっきりしないケースが少なくない。そこで,そういう曖昧なshallをどういうふうに訳すのがよいかであるが,契約書ではすべて「ものとする」と訳せ,というのも一つの見識ではある。そうすれば原文にshallが使われていたことがわかるし,翻訳者の方で勝手に解釈したことにもならない。「ものとする」は「~ということに決める」という意味らしい。ただ,これをひんぱんに使用すると昔の「候文」みたいで,ぎこちない印象を与える。最近,口語表現に書き換えられた日本の法律(民法や会社法)にはさすがに「ものとする」はほとんど見当たらない。
 訳し方は語感や語調の問題でもあるので,一律には決められない。日本の法律では明らかな「義務」には「~しなければならない」を使っているようだが,翻訳では必要に応じて「ものとする」もよいだろうし,「~とする」や「~する」もよいと思う。なお,shallが「許可」の意味で使われているときは,否定形なら「できない」と訳すのがわかりやすい。
 法律文書ではwillとmayもよく使われるが,どちらもほとんど一義的なので翻訳上の問題は少ない。willは「~とする」や「~する」,mayなら「~できる」と訳せばよいのではないだろうか。参考までに,willとmayの使い方を前記の参考書では次のように解説している。willの用法には二つあって,一つは,法律家(弁護士)がクライアントの依頼でadhesion contract(保険契約書やライセンス契約書のように当事者間で交渉の余地のないもの)を作成する際に,クライアント側の「義務」によくこの助動詞を使う。もう一つは合弁事業契約のように当事者の関係が微妙な場合に,双方の「義務」にwillを使用することがある。これに対し,mayは「許可」の一義が基本的な使い方になっている。

その他の参考文献
"Legal Writing in Plain English"(Bryan A. Garner, The University of Chicago Press)


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