山の中腹の木の洞に棲む
お月さまがまるで舟のようなそんな夜
年老いた妖精のおじいさんは
あまりいろんなことを信じようとしない
波打ち際からやってくるのんきな妖精は何でも信じるので
年老いた妖精はそれを見て何とも危なっかしいものだと想っている。
のんきな妖精は何度か酷い目にもあっているのだが
生来ののんきさがそんな経験を忘れさせるのだ
ヘラヘラと笑っているその姿が山の妖精には本当に困ったものだと想うのです。
のんきな妖精は言いました
信じている時の幸せの対価だから大丈夫。
と。
愚かだとため息をつく年老いた妖精。
でも
相手を信じないでいつも疑うのは結構大変なのだよと言いました。
のんきな妖精はアッケラカンとして
相手をすぐに大好きになり信じるのだと言いました。
大好きになって信じたら
例えば相手が利用しようとしていても
そのうち愛情に巻き込まれるんじゃないのと。
そんな事を信じて笑う妖精を見て
情けないなと思いながらも
心の奥ではなんとなく羨ましく感じもします。
だから時々山に遊びに来るこの、のんきな妖精を
拒むことなく受け入れているのでしょうね
お月さまがまるで舟のようなそんな夜
のんきな妖精は歌を歌いに山に来ました。
年老いた妖精はその歌を聞きながらウトウトしておりました。
こんな時間が幸せなのだろうなあと
年老いた妖精は想うのでした。
のんきな妖精はそんなウトウトしている彼の顔を見ているのが好きでした。
何とも幸せな気持ちになるのでした。
別に何にも対価など要らないのでした。
時々会って話して
笑うこと
これが幸せなことでした。
幸せってこんなささやかなことなのだろうなあと
日々想うのでした。
見返りとかそんなものはどうでもいいことなんだろうなあ。