あ、どうも、みなさん、ご無沙汰です。あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。今年は、昨年の筆不精(昨年だけじゃないか?)をちょっとだけ反省して(苦笑)、参加した羽生さんイベント・将棋イベント・その他将棋関連を頑張ってブログにしたためようかなって思っています。
それでは本題…
去る2012年1月7日(土曜日)、新宿・紀伊国屋ホールにて、『運を超えた本当の強さ(桜井章一・著)』の刊行を記念して開催された、桜井章一・羽生善治講演会「これからの時代に大切な『本当の強さ』」に行ってきた。
2012年1月4日の上州将棋まつりは会社の仕事始めと重なり残念ながら行けなかった。将棋クラスタ、いつもの連中はこぞって上州へ旅立っているのをtwitterのTLで眺め羨ましがりながら、いやいや、すぐにでも今年最初の生羽生さんを拝めるからとこの日を迎えたのだった。羽生さんには毎月始めにスケジュールをメールにて伺っているが、実はfacebookで知り合いになったこの本の編集者である川上聡さんからこの講演会が開催されることを先に教えてもらい、管理する「玲瓏」の「イベント情報」に掲載したのだった。
どうせ行くなら羽生ファンと行こうと思い立ち、おさまこさんに連絡、しらかばさんやnanaponさんを誘うとみんな二つ返事、アフターは当然羽生ファン新年会だよね、と徒党を組んで勢い会場に詰めかけた。
おさまこさんに取ってもらったチケットはE列17番。つまり前からA,B順なので5列目、横は20席なので右から4番目のなかなかいい席。気がつくと会場は超満員。かなり前にチケットが完売していたそうだ。
講演会は14時開演で15時20分終了だったが、濃密な時間、そして楽しい時間が経つのはアッと言う間、もっと聞いていたいと思える講演会だった。何より、桜井会長、羽生さんが互いに尊敬し合っている、互いに「会長」「先生」呼び合う間柄、そのお二人が楽しい時間を共有しているのがひしひしと観衆にも伝わってくる心地よさ。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
講演会開始のブザーが何故か2回鳴る。2回目に編集者の川上聡さんがマイクに立つ。簡潔にこの本が出版となった背景を説明される。わかりやすい。そして違和感。司会が必要なの?と100冊の本製作委員会の吉川さんが招き入れられる。講演会というより座談会っぽい形式。…形式のはずだったが、結局吉川さんが話したのは最初に桜井会長からコメントをもらうときだけだった。序盤は羽生”先生”が桜井会長に質問する形式、中盤「ちょっと待って。いつも先生のペースになっちまう。今日は質問を紙に書いてきたんだ。こっちから質問するよ。」と羽生さんペースを遮って、自分のペースに切り替えたのだった。中盤からは桜井会長が羽生さんに質問する形式。吉川さんは空気を察してあえてお二人に進行を任せていた。ありきたりのつまらない質問をする司会者の座談会もあった。吉川さんがずっと見守っている判断は正しくお二人だけでの対談は観衆を惹きつけるのだった。
講演会序盤、桜井会長が吉川さんを見て「だいたいおめえいったいなにものなんだ。」と叫ぶ。きっと場の違和感を桜井会長風にべらんめえ調で訴えたのだろう。すかさず羽生”先生”が「吉川さんです。100冊の本制作委員会の吉川さんです。」とフォローする。場が破れたとき、必要なかったかもしれない司会を救う羽生さんの思いやりの心が浮き彫りにされた瞬間でもあった。それでも自分にも違和感を感じた司会者。場を読むことができる、羽生さんと桜井会長の対談とくれば、これはミスキャストだったろう。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
桜井会長が「オレがこんな紙に質問書いてくるなんて滅多にないんだから」と言う。付け加えて「3枚も書いてきたのに、まだ1枚しか質問してないよ。」と最後に言う。雀鬼会は麻雀技術を競う場ではなく人間力を競う場であると述べ、麻雀を通じた人間形成に重点を置いて若者を導いている。そんな桜井会長でも、稀代の勝負師である羽生さんに聞きたいことはたくさんあるのだ、と思われた。また驚くべき事実を会長は語ったのだった。「先生には負けたと思った。だってこの本の7割は先生が作ったもの。それが著者がオレだっていう。印税は全部オレだっていう。ずるいよ、先生は。」羽生さんも切り返す。「取ってズルいはあるかもしれないけど、取らないでズルいってあるんですか?(笑)」と微笑ましいながら温かいやりとりが交わされたのだった。
羽生さんは昨年もいろいろな本を出版された。しかし羽生さんから前もってお聞きする本は少ない。元全日本サッカー代表の岡田監督との対談本『勝負哲学』は羽生さんご本人に早くからお話を聞いていた。この桜井会長の本は2011年10月20日に棋聖就位式の会場となった明治記念館の主賓控え室でお聞きしたのだった。桜井会長との対談を喜々として語っていたのを覚えている。「『死ぬんだったらサメに食べられたい』とか『ツキ、運、場の流れ』とか非常に興味深いお話でした。」こうも付け加えられた。「あ、本には自分の名前は出ないとは思いますけどね。」そうして編集者の川上さんに羽生さんがこのように言われてましたと問いかけた。「いえいえ、羽生さんの名前は出ていますよ。」確かに本には帯だけでなくまえがきにもインタビュアーとしても名前が出ていた。しかし、羽生さんの心の中ではこの本では黒子に徹しようと思われていたんだろう。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
講演会の途中で羽生さんが話されているとき、桜井会長が突然「キャップあけるの苦手なんです」と言いながら羽生さんの前のペットボトルのキャップを時間がかかりながらもあけてコップに水をつがれたのだった。羽生さんも「ああ、すいません。では自分も。」と桜井会長の前にあるペットボトルのキャップを素早くあけてお返しに注ぐのだった。会場には笑いの渦が沸き起こった。講演会もお開きとなり、桜井会長が「羽生さん、鼻が出ている。そういうのも見逃さないんだ。」とご自分のハンカチで羽生さんの鼻を拭かれるのだった。羽生さんは自然体、拭かれるままに身を委ねるのだった。紀伊国屋ホールの場の空気を読みあったお二人、そこには達人同士の場の主導権を争う達人技のお披露目が眼前で繰り広げられたのだった。鋭く抉る発言をしながらもお茶目なところを持ち合わされる桜井会長とそれに対してまろやかに暖かく応える羽生さんに微笑むのだった。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
我々の青春時代は麻雀に明け暮れた時期もあり、プロ雀士に憧れた時期もある。小島武夫さん、灘麻太郎さん、阿佐田哲也さん…。桜井会長は棋士で言うと小池重明さんだろうか。真剣師。裏稼業を歩かれてきた。大勝負を経験し命を削って戦われていきたに違いない。一瞬一瞬の判断力、察知力で岐路を間違わずに歩まれてきた自負がそこにある。近年、羽生さんは将棋の真理はもちろん、人生の真理をも求められている気がする。真理に近づけば近づくほど答えを持ち合わせている人はいない。桜井会長が講演会の中で語られた。「羽生先生はわかってて質問するんだ。この人はどう答えるのか試されているんだよ。」羽生さんが返す刀で応えられる。「いえいえ、こういう質問を応えていただける人ってなかなかいないんですよ。」この道を行けばどうなるものか…。それを究道者に問いたいのだろう。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
講演会の最後にサプライズが待っていた。古武道の甲野善紀先生が桜井会長に壇上に呼ばれたのだった。下駄を履かれていながら、階段もない壇上へひらりと舞い上がられる姿。甲野先生が講演会の感想を述べられた。「羽生さんには初めてお目にかかりましたが、これまでに会ったことがない…声がですね、空から聞こえてくるようなとても不思議な感覚でした。」桜井会長が得意満面に口を開く。「だから羽生さんっていいんだよって言ったでしょ。」古武道と言えば、流れに逆らわない、相手の力を利用するというイメージ、甲野先生は加えて自然の中であることを説かれている。場の流れを重要とする甲野先生をしても会ったことがない存在。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
「勝負では勝ちすぎてもいけない。あえて勝ちを放棄する場面もある。」と桜井会長は語る。「勉強不足でまだその境地には至っていません。」と羽生さんがこうべを垂れながら答える。烏滸がましいが自分なりに解釈してみる。勝負には勢いがある、勢いに乗せてはいけないとよく言われる。短期決戦では特にだ。一方で調子に乗るという表現もある。しかし調子に乗っていると足許を救われる。羽生さんは「タイトルを目標にはしません。目標は年間を通じてよい成績をあげることです。」とよく語られる。「そんな中で結果が出されば嬉しいです。」と続けられる。羽生さんが挑まれているのは長期決戦なのだ。その中でどのようなスタンスで望んでいくかなのだ。将棋の世界にもその摂理が通じるのかわからないが、もしその摂理が真であるならば羽生さんがその境地に達したとき…。恐ろしすぎてわけがわからない…。
伝説の桜井章一会長にサインをいただいた。「雀鬼 桜井章一」
本の内容はもちろん、宝物がまたひとつ増えたのだった。あの”場”にいれて良かった、そんな楽しい時間だった。
それでは本題…
去る2012年1月7日(土曜日)、新宿・紀伊国屋ホールにて、『運を超えた本当の強さ(桜井章一・著)』の刊行を記念して開催された、桜井章一・羽生善治講演会「これからの時代に大切な『本当の強さ』」に行ってきた。
2012年1月4日の上州将棋まつりは会社の仕事始めと重なり残念ながら行けなかった。将棋クラスタ、いつもの連中はこぞって上州へ旅立っているのをtwitterのTLで眺め羨ましがりながら、いやいや、すぐにでも今年最初の生羽生さんを拝めるからとこの日を迎えたのだった。羽生さんには毎月始めにスケジュールをメールにて伺っているが、実はfacebookで知り合いになったこの本の編集者である川上聡さんからこの講演会が開催されることを先に教えてもらい、管理する「玲瓏」の「イベント情報」に掲載したのだった。
どうせ行くなら羽生ファンと行こうと思い立ち、おさまこさんに連絡、しらかばさんやnanaponさんを誘うとみんな二つ返事、アフターは当然羽生ファン新年会だよね、と徒党を組んで勢い会場に詰めかけた。
おさまこさんに取ってもらったチケットはE列17番。つまり前からA,B順なので5列目、横は20席なので右から4番目のなかなかいい席。気がつくと会場は超満員。かなり前にチケットが完売していたそうだ。
講演会は14時開演で15時20分終了だったが、濃密な時間、そして楽しい時間が経つのはアッと言う間、もっと聞いていたいと思える講演会だった。何より、桜井会長、羽生さんが互いに尊敬し合っている、互いに「会長」「先生」呼び合う間柄、そのお二人が楽しい時間を共有しているのがひしひしと観衆にも伝わってくる心地よさ。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
講演会開始のブザーが何故か2回鳴る。2回目に編集者の川上聡さんがマイクに立つ。簡潔にこの本が出版となった背景を説明される。わかりやすい。そして違和感。司会が必要なの?と100冊の本製作委員会の吉川さんが招き入れられる。講演会というより座談会っぽい形式。…形式のはずだったが、結局吉川さんが話したのは最初に桜井会長からコメントをもらうときだけだった。序盤は羽生”先生”が桜井会長に質問する形式、中盤「ちょっと待って。いつも先生のペースになっちまう。今日は質問を紙に書いてきたんだ。こっちから質問するよ。」と羽生さんペースを遮って、自分のペースに切り替えたのだった。中盤からは桜井会長が羽生さんに質問する形式。吉川さんは空気を察してあえてお二人に進行を任せていた。ありきたりのつまらない質問をする司会者の座談会もあった。吉川さんがずっと見守っている判断は正しくお二人だけでの対談は観衆を惹きつけるのだった。
講演会序盤、桜井会長が吉川さんを見て「だいたいおめえいったいなにものなんだ。」と叫ぶ。きっと場の違和感を桜井会長風にべらんめえ調で訴えたのだろう。すかさず羽生”先生”が「吉川さんです。100冊の本制作委員会の吉川さんです。」とフォローする。場が破れたとき、必要なかったかもしれない司会を救う羽生さんの思いやりの心が浮き彫りにされた瞬間でもあった。それでも自分にも違和感を感じた司会者。場を読むことができる、羽生さんと桜井会長の対談とくれば、これはミスキャストだったろう。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
桜井会長が「オレがこんな紙に質問書いてくるなんて滅多にないんだから」と言う。付け加えて「3枚も書いてきたのに、まだ1枚しか質問してないよ。」と最後に言う。雀鬼会は麻雀技術を競う場ではなく人間力を競う場であると述べ、麻雀を通じた人間形成に重点を置いて若者を導いている。そんな桜井会長でも、稀代の勝負師である羽生さんに聞きたいことはたくさんあるのだ、と思われた。また驚くべき事実を会長は語ったのだった。「先生には負けたと思った。だってこの本の7割は先生が作ったもの。それが著者がオレだっていう。印税は全部オレだっていう。ずるいよ、先生は。」羽生さんも切り返す。「取ってズルいはあるかもしれないけど、取らないでズルいってあるんですか?(笑)」と微笑ましいながら温かいやりとりが交わされたのだった。
羽生さんは昨年もいろいろな本を出版された。しかし羽生さんから前もってお聞きする本は少ない。元全日本サッカー代表の岡田監督との対談本『勝負哲学』は羽生さんご本人に早くからお話を聞いていた。この桜井会長の本は2011年10月20日に棋聖就位式の会場となった明治記念館の主賓控え室でお聞きしたのだった。桜井会長との対談を喜々として語っていたのを覚えている。「『死ぬんだったらサメに食べられたい』とか『ツキ、運、場の流れ』とか非常に興味深いお話でした。」こうも付け加えられた。「あ、本には自分の名前は出ないとは思いますけどね。」そうして編集者の川上さんに羽生さんがこのように言われてましたと問いかけた。「いえいえ、羽生さんの名前は出ていますよ。」確かに本には帯だけでなくまえがきにもインタビュアーとしても名前が出ていた。しかし、羽生さんの心の中ではこの本では黒子に徹しようと思われていたんだろう。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
講演会の途中で羽生さんが話されているとき、桜井会長が突然「キャップあけるの苦手なんです」と言いながら羽生さんの前のペットボトルのキャップを時間がかかりながらもあけてコップに水をつがれたのだった。羽生さんも「ああ、すいません。では自分も。」と桜井会長の前にあるペットボトルのキャップを素早くあけてお返しに注ぐのだった。会場には笑いの渦が沸き起こった。講演会もお開きとなり、桜井会長が「羽生さん、鼻が出ている。そういうのも見逃さないんだ。」とご自分のハンカチで羽生さんの鼻を拭かれるのだった。羽生さんは自然体、拭かれるままに身を委ねるのだった。紀伊国屋ホールの場の空気を読みあったお二人、そこには達人同士の場の主導権を争う達人技のお披露目が眼前で繰り広げられたのだった。鋭く抉る発言をしながらもお茶目なところを持ち合わされる桜井会長とそれに対してまろやかに暖かく応える羽生さんに微笑むのだった。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
我々の青春時代は麻雀に明け暮れた時期もあり、プロ雀士に憧れた時期もある。小島武夫さん、灘麻太郎さん、阿佐田哲也さん…。桜井会長は棋士で言うと小池重明さんだろうか。真剣師。裏稼業を歩かれてきた。大勝負を経験し命を削って戦われていきたに違いない。一瞬一瞬の判断力、察知力で岐路を間違わずに歩まれてきた自負がそこにある。近年、羽生さんは将棋の真理はもちろん、人生の真理をも求められている気がする。真理に近づけば近づくほど答えを持ち合わせている人はいない。桜井会長が講演会の中で語られた。「羽生先生はわかってて質問するんだ。この人はどう答えるのか試されているんだよ。」羽生さんが返す刀で応えられる。「いえいえ、こういう質問を応えていただける人ってなかなかいないんですよ。」この道を行けばどうなるものか…。それを究道者に問いたいのだろう。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
講演会の最後にサプライズが待っていた。古武道の甲野善紀先生が桜井会長に壇上に呼ばれたのだった。下駄を履かれていながら、階段もない壇上へひらりと舞い上がられる姿。甲野先生が講演会の感想を述べられた。「羽生さんには初めてお目にかかりましたが、これまでに会ったことがない…声がですね、空から聞こえてくるようなとても不思議な感覚でした。」桜井会長が得意満面に口を開く。「だから羽生さんっていいんだよって言ったでしょ。」古武道と言えば、流れに逆らわない、相手の力を利用するというイメージ、甲野先生は加えて自然の中であることを説かれている。場の流れを重要とする甲野先生をしても会ったことがない存在。
写真:北村泰弘氏、協力:日本実業出版社 川上聡氏
「勝負では勝ちすぎてもいけない。あえて勝ちを放棄する場面もある。」と桜井会長は語る。「勉強不足でまだその境地には至っていません。」と羽生さんがこうべを垂れながら答える。烏滸がましいが自分なりに解釈してみる。勝負には勢いがある、勢いに乗せてはいけないとよく言われる。短期決戦では特にだ。一方で調子に乗るという表現もある。しかし調子に乗っていると足許を救われる。羽生さんは「タイトルを目標にはしません。目標は年間を通じてよい成績をあげることです。」とよく語られる。「そんな中で結果が出されば嬉しいです。」と続けられる。羽生さんが挑まれているのは長期決戦なのだ。その中でどのようなスタンスで望んでいくかなのだ。将棋の世界にもその摂理が通じるのかわからないが、もしその摂理が真であるならば羽生さんがその境地に達したとき…。恐ろしすぎてわけがわからない…。
伝説の桜井章一会長にサインをいただいた。「雀鬼 桜井章一」
本の内容はもちろん、宝物がまたひとつ増えたのだった。あの”場”にいれて良かった、そんな楽しい時間だった。