羽生さんが負けた。5年守り通した王将位。それは羽生さんと玲瓏管理人との歴史でもある。王将というタイトルは自分にとって愛着がある。5年前羽生さんが王座一冠になったときに「玲瓏」というサイトを立ち上げようと決心した。しかし羽生さんは鬼神のごとく勝ち進んで森内さんから王将を奪還。気がつけばあっという間に四冠に返り咲いていた。その王将の就位式で初めて羽生さんにお会いした。それから毎年この王将就位式でお会いするのが恒例となっていた。6年目の今年はその場で会えないのはちょっぴり寂しくもある。
新王将の久保さん。昨年11月の将棋の日前日のレセプションでドクター尼子さんの紹介でお話する機会があった。清々しい記憶として残っている。自分は味が悪いと思い黙っていようと思っていたがドクター尼子さんは迷いなく「こちら羽生さんのデータベースサイト管理人のたいがーさんです。」と紹介していただいた(苦笑)嫌な顔ひとつせず談笑していただいたのは嬉しかった。もっとも日ごろからお付き合いのあるドクター尼子さんを交えていたのは大きかったかもしれない。今年2月の朝日杯。久保さんは羽生さんに破れ準優勝。関係者打上げ後の呑み会に観戦記者の小暮さんがしっかり久保さんを拉致監禁(失礼:笑)久保さんは呑みの付き合いのいいナイスガイなのである。
その久保さんにとって羽生さんは高き壁であり続けた。風の噂によれば、この両者が激突した第64期A級順位戦は羽生さんが飛車を切り飛ばして快勝したが、振り飛車党である久保さんにはこの敗戦が悔しくて眠れず友人と朝まで飲み明かしたと聞く。タイトルを取るまで関西には帰らないと宣言したこの若者はしかし、いつしか知らず知らず自分自身を追い込んでいた自分の中の心のシャッターに気付いたのか、そのシャッターを空けて関西に戻っていった。昨年念願の初タイトル棋王位を奪取。そして今回その高き山であった羽生さんにタイトル戦4度目にして撃破。またひとつ突き抜けていくこと請け合いである。
今回の王将戦は名局揃いという評判である。願わくばこの好シリーズ、もう1局見たかったが致し方ない。羽生さんは第4局のミスを大いに悔やまれていたようである。が、その局も含めてギリギリの勝負でありお互いが全力を出し切った激闘譜であったと感じる。第6局もミスらしいミスがないと言われている。日中現地解説では羽生さんの勝勢、手厚い、指せるという見方であった。残り時間を見ても羽生さんに分があった。あの一手までは間違いなく…。そう66手目△7三銀合。そしてこのあとさらに銀合い、角合いという持ち駒のうち高い駒をつかった3つの合駒手順で奇跡的に詰みを逃れているのであった。羽生コンピュータがホールドした。形勢が思わしくなくなったときに見せる髪をかきあげる仕草が画面に映し出される。いつしか残り時間が逆転。羽生さんが逆の立場であれば間違いなく”羽生マジック”と呼ばれていただろう。まるで二人の羽生さんが戦っているような錯覚に陥った。
久保さんは充実している。そして強かった。この3つの合駒手順を共同会見時に58手目△5九金のときに発見していたと言う。この△5九金もあまり筋がいいとは言えないらしい。が、常識に囚われずそのときの最善手を指す。「△5九金を指すしかないと思った」まるで羽生さんかのようだ。その羽生さんが感想戦で頭を抱え込んだ。52手目△5七歩に本譜は同銀だったが▲6八王と早逃げする方が勝っていたことが判明したときだ。しかし△4九角成が見えているのに5七に拠点を残すのはなんとも気持ち悪いので第一感取り除きたい。それが違ったのだ。そして57手目本譜▲5八桂。今棋界絶好調の対戦相手も桂の方が自玉に迫ってこられると読んでいた。検討したところ▲5八香が勝っていたという。将棋はなんと奥が深いのだろう。
感想戦中、羽生さんが頭を抱え込むのも珍しい。珍しいと言えば、現地解説会に赴いた掛川対局、羽生さんが天井を見上げて考え込むシーンも珍しかった。写真は静岡県掛川市で行われた王将戦第4局現地大盤解説会のシーンである。羽生さんはファンサービスを一義に考えるプロ棋士である。目の前のファンのことも忘れてコンピュータをフル稼働している。今年2月の朝日杯関係者打上げの席にての会話を紹介する。
たいがー:「おとといは静岡県掛川市の現地大盤解説会までクルマを飛ばして行きました。」
羽生さん:「そうでしたか?それはすいません、気付きませんで。」
たいがー:「羽生さん、天井見上げてずっと考えられていたご様子でしたから・・・」
羽生さん:「はい、どこが悪かったかなあとずっと考えていました。」
まるで大好きなパズルを与えられた子供が一心不乱に考える、そんな形相にも感じられる。将棋の真理を追究する孤高の棋士が、その高みにありながらスイングする棋士が表出した、そして一緒になってまだ見ぬ難問を解ける喜びを分かち合う、スパークする瞬間を共有できるのはファン冥利につきる。形相と言えば、形而上学のエイドス、その対置してヒュレー、元来はイデア。イデオロギーの闘争も昇華すれば最高の輝きを放つ対局となる。
ナンダカ小難しいことを言ってしまった(苦笑)
閑話休題。玲瓏管理人が現地に赴くと羽生さんの対局結果が芳しくないという実しやかな風評がある。データサイト管理人としてこれは調査しざるを得ない。玲瓏管理人現地全成績(ネット中継1局含む)が以下とうとう明るみとなった(笑)。
● 第59期 王将戦第6局 神奈川県秦野市
○ 第3回 朝日杯将棋オープン 決勝 東京都有楽町
○ 第3回 朝日杯将棋オープン 準決勝 東京都有楽町
● 第59期 王将戦第3局 静岡県掛川市
△ 第1回 とちぎ将棋まつり 栃木県宇都宮市
○ 第35回 将棋の日 次の一手名人戦 兵庫県加古川市
● 第30回 JT将棋日本シリーズ 2回戦 静岡県静岡市
○ 第11回 京急将棋まつり 横浜市
● 第43回 東急東横将棋まつり 東京都渋谷
● 第80期 棋聖戦第3局 愛知県豊田市
○ 第67期 名人戦第1局 東京都文京区
○ 第58期 王将戦第6局 静岡県
● 第58期 王将戦第3局 栃木県大田原市
○ 第58期 王将戦第1局 徳島県鳴門市※ネット中継:毎日新聞
○ 第56期 王座戦第1局 東京都千代田区
● 第36回 ながの将棋まつり 長野市
△ 第10回 京急将棋まつり 横浜市
○ 第49期 王位戦第6局 神奈川県秦野市
● 第79期 棋聖戦第2局 愛知県豊田市
● 第66期 名人戦第1局 東京都千代田区
● 第33期 棋王戦第5局 東京都渋谷区
● 第33期 棋王戦第4局 東京都渋谷区
○ 第33回 将棋の日 東京都世田谷区
○ 第9回 京急将棋まつり 横浜市
○ 第54期 王座戦第2局 東京都千代田区
○ 第54期 王座戦第1局 神奈川県横浜市
● 第40回 東急東横将棋まつり 東京都
13勝11敗2千日手 勝率 .542
玲瓏管理人の目の前の羽生さんは勝率7割2分の天才棋士ではない。5割4分の勝利を渇望する泥臭い棋士なのである。しかしその対局にはいつも将棋の可能性、奥深さを思い知らされる。これからもスケジュールが許せば現地にも赴き精一杯応援していきたい。
新王将の久保さん。昨年11月の将棋の日前日のレセプションでドクター尼子さんの紹介でお話する機会があった。清々しい記憶として残っている。自分は味が悪いと思い黙っていようと思っていたがドクター尼子さんは迷いなく「こちら羽生さんのデータベースサイト管理人のたいがーさんです。」と紹介していただいた(苦笑)嫌な顔ひとつせず談笑していただいたのは嬉しかった。もっとも日ごろからお付き合いのあるドクター尼子さんを交えていたのは大きかったかもしれない。今年2月の朝日杯。久保さんは羽生さんに破れ準優勝。関係者打上げ後の呑み会に観戦記者の小暮さんがしっかり久保さんを拉致監禁(失礼:笑)久保さんは呑みの付き合いのいいナイスガイなのである。
その久保さんにとって羽生さんは高き壁であり続けた。風の噂によれば、この両者が激突した第64期A級順位戦は羽生さんが飛車を切り飛ばして快勝したが、振り飛車党である久保さんにはこの敗戦が悔しくて眠れず友人と朝まで飲み明かしたと聞く。タイトルを取るまで関西には帰らないと宣言したこの若者はしかし、いつしか知らず知らず自分自身を追い込んでいた自分の中の心のシャッターに気付いたのか、そのシャッターを空けて関西に戻っていった。昨年念願の初タイトル棋王位を奪取。そして今回その高き山であった羽生さんにタイトル戦4度目にして撃破。またひとつ突き抜けていくこと請け合いである。
今回の王将戦は名局揃いという評判である。願わくばこの好シリーズ、もう1局見たかったが致し方ない。羽生さんは第4局のミスを大いに悔やまれていたようである。が、その局も含めてギリギリの勝負でありお互いが全力を出し切った激闘譜であったと感じる。第6局もミスらしいミスがないと言われている。日中現地解説では羽生さんの勝勢、手厚い、指せるという見方であった。残り時間を見ても羽生さんに分があった。あの一手までは間違いなく…。そう66手目△7三銀合。そしてこのあとさらに銀合い、角合いという持ち駒のうち高い駒をつかった3つの合駒手順で奇跡的に詰みを逃れているのであった。羽生コンピュータがホールドした。形勢が思わしくなくなったときに見せる髪をかきあげる仕草が画面に映し出される。いつしか残り時間が逆転。羽生さんが逆の立場であれば間違いなく”羽生マジック”と呼ばれていただろう。まるで二人の羽生さんが戦っているような錯覚に陥った。
久保さんは充実している。そして強かった。この3つの合駒手順を共同会見時に58手目△5九金のときに発見していたと言う。この△5九金もあまり筋がいいとは言えないらしい。が、常識に囚われずそのときの最善手を指す。「△5九金を指すしかないと思った」まるで羽生さんかのようだ。その羽生さんが感想戦で頭を抱え込んだ。52手目△5七歩に本譜は同銀だったが▲6八王と早逃げする方が勝っていたことが判明したときだ。しかし△4九角成が見えているのに5七に拠点を残すのはなんとも気持ち悪いので第一感取り除きたい。それが違ったのだ。そして57手目本譜▲5八桂。今棋界絶好調の対戦相手も桂の方が自玉に迫ってこられると読んでいた。検討したところ▲5八香が勝っていたという。将棋はなんと奥が深いのだろう。
感想戦中、羽生さんが頭を抱え込むのも珍しい。珍しいと言えば、現地解説会に赴いた掛川対局、羽生さんが天井を見上げて考え込むシーンも珍しかった。写真は静岡県掛川市で行われた王将戦第4局現地大盤解説会のシーンである。羽生さんはファンサービスを一義に考えるプロ棋士である。目の前のファンのことも忘れてコンピュータをフル稼働している。今年2月の朝日杯関係者打上げの席にての会話を紹介する。
たいがー:「おとといは静岡県掛川市の現地大盤解説会までクルマを飛ばして行きました。」
羽生さん:「そうでしたか?それはすいません、気付きませんで。」
たいがー:「羽生さん、天井見上げてずっと考えられていたご様子でしたから・・・」
羽生さん:「はい、どこが悪かったかなあとずっと考えていました。」
まるで大好きなパズルを与えられた子供が一心不乱に考える、そんな形相にも感じられる。将棋の真理を追究する孤高の棋士が、その高みにありながらスイングする棋士が表出した、そして一緒になってまだ見ぬ難問を解ける喜びを分かち合う、スパークする瞬間を共有できるのはファン冥利につきる。形相と言えば、形而上学のエイドス、その対置してヒュレー、元来はイデア。イデオロギーの闘争も昇華すれば最高の輝きを放つ対局となる。
ナンダカ小難しいことを言ってしまった(苦笑)
閑話休題。玲瓏管理人が現地に赴くと羽生さんの対局結果が芳しくないという実しやかな風評がある。データサイト管理人としてこれは調査しざるを得ない。玲瓏管理人現地全成績(ネット中継1局含む)が以下とうとう明るみとなった(笑)。
● 第59期 王将戦第6局 神奈川県秦野市
○ 第3回 朝日杯将棋オープン 決勝 東京都有楽町
○ 第3回 朝日杯将棋オープン 準決勝 東京都有楽町
● 第59期 王将戦第3局 静岡県掛川市
△ 第1回 とちぎ将棋まつり 栃木県宇都宮市
○ 第35回 将棋の日 次の一手名人戦 兵庫県加古川市
● 第30回 JT将棋日本シリーズ 2回戦 静岡県静岡市
○ 第11回 京急将棋まつり 横浜市
● 第43回 東急東横将棋まつり 東京都渋谷
● 第80期 棋聖戦第3局 愛知県豊田市
○ 第67期 名人戦第1局 東京都文京区
○ 第58期 王将戦第6局 静岡県
● 第58期 王将戦第3局 栃木県大田原市
○ 第58期 王将戦第1局 徳島県鳴門市※ネット中継:毎日新聞
○ 第56期 王座戦第1局 東京都千代田区
● 第36回 ながの将棋まつり 長野市
△ 第10回 京急将棋まつり 横浜市
○ 第49期 王位戦第6局 神奈川県秦野市
● 第79期 棋聖戦第2局 愛知県豊田市
● 第66期 名人戦第1局 東京都千代田区
● 第33期 棋王戦第5局 東京都渋谷区
● 第33期 棋王戦第4局 東京都渋谷区
○ 第33回 将棋の日 東京都世田谷区
○ 第9回 京急将棋まつり 横浜市
○ 第54期 王座戦第2局 東京都千代田区
○ 第54期 王座戦第1局 神奈川県横浜市
● 第40回 東急東横将棋まつり 東京都
13勝11敗2千日手 勝率 .542
玲瓏管理人の目の前の羽生さんは勝率7割2分の天才棋士ではない。5割4分の勝利を渇望する泥臭い棋士なのである。しかしその対局にはいつも将棋の可能性、奥深さを思い知らされる。これからもスケジュールが許せば現地にも赴き精一杯応援していきたい。