峠を越えてもまだ先がある

谷 和也 シニアの挑戦 ゆっくりマイペースで

プラムディヤの『すべての民族の子』

2009年12月06日 | インドネシア語
 インドネシアの作家プラムディヤ・アナンタ・トゥールの渾身の大作。“ブル島4部作”の第2部のタイトルが『すべての民族の子』である。第1部と同様、主な舞台はスラバヤ。表紙のほか当時の地名の地図が参考に添付され、巻末の注釈も丁寧だ。

******************************************************

 ◆『すべての民族の子 上・下』Anak Semua Bangsa
(Pramoedya Ananta Toer著、押川典昭訳。発行めこん株式会社。初版印刷㊤1988年5月・336頁、㊦1988年6月・311頁 )

 [あらすじ] 主人公ミンケにとって、過酷な試練が続く。植民地法によって引き離され、オランダに移送された新妻アンネリースは病が癒えぬまま、遠い地ではかない生涯を閉じてしまったのを知った。ミンケの文筆活動は徐々に本格化。オランダ語で書いていたのを、周囲からマライ語やジャワ語で書くよう勧められる。マライ語紙の記者コンメルやアチェ戦争に植民地政府軍で従軍し片足を失ったフランス人画家ジャン・マレらである。
 
 矛盾に満ちた植民地支配を、ミンケはさまざまな形で体験する。砂糖企業と闘って傷ついた農民、中国から密入国した革新派の許亜歳(ホウ・アス)らと会い共感。アンネリースの死を告げに、本妻の息子マウリッツ・メレマがやってきて、みんなが怒りを爆発するシーンで、この第2部が幕になる。

 [壮絶な挿話] オランダ人の砂糖工場で“悪魔のような”支配人が、部下のプリブミ出納係の美貌の娘を策略で妾にしようとする。覚悟した娘は、その直前に天然痘の蔓延していた村へ出かける。10㌔ほど離れ、隔離されていた場所だ。そこで自ら罹患する。“悪魔”に感染させる計画だった。狙い通りになり、男は死ぬ。女性は救出されるが、もう以前の美貌の姿ではなくなっていた。

 [諸言語] 植民地時代の東インドにはいろいろな言葉が飛び交った。この作品の中でもジャワ語をはじめマライ語、オランダ語、フランス語、英語、中国語など、かなり頻繁に「語られた言語の説明」が加わっている。実際にはもっとたくさんの“地方語”があった(今でもある)から、地域を移動すれば意思疎通も容易ではなかっただろう。

 東インドを取り巻く周辺の動きが繰り返し出てくる。「日本は白色人種に後れをとらないよう舞台に躍り出た」「近辺(フィリピン)ではアメリカとスペイン戦争が火を吹いた」…。

 主人公は“日本贔屓”であり、革新派の中国人にも好意的なのは、著者がそうだったと思われる。それでも、日本を描写するのに厳しい批判の目も向ける。“覚醒”には、行きつ戻りつする自問自答や疑問解明の考察が不可欠なようで、ミンケ自身が将来を見据えてたえず考えるタイプ。多言語をこなせ、発展していく大物として描かれている。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ダート王 | トップ | 壁アルバム »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

インドネシア語」カテゴリの最新記事