出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

地方出版社と地元本

2008年06月14日 | 出版の雑談
なんとひと月ぶりになってしまった。なんとなくバタバタして放ってあるなという気はしてたんだが、まさか1ヶ月とは思わなかった。

理由を考えるに、本を作るのに夢中になっていたんだと思う。もちろん、今までの本もすべて作るときには入れ込んだし、大阪屋が増えてすることや考えることが増えたせいもある。

今回の本は、どうしたらより売れるかってことは考えないで作ったという意味で、すごく楽しかった。どうしたらより売れるかってのは、企画のときにすごく考えて、編集のときに頭の片隅に置いておいて、カバーのデザインのときにまた考えて、あとは売ってるときに考える。それでいいかは別として、私の頭の中で占める割合は、だいたいそんな感じ。

今回の本は、地元をテーマにしている。

小さい出版社の話になるともれなく付いてくるのが、地方の小さい出版社の話じゃなかろうか。でもって、その地域の文化を伝えるとか歴史がどうとかの本を作っていて、全国にも届けられるんだが(地方小とか)主に地元できっちりと売っていて、かつ重版もしている・・・なんて感じである。

そういう地方の出版社の話を読んで、いつもうらやましく思っていた。ちょっとは勉強したので、流通的不利とか、小さいところならどこでもたいがい抱えている問題は理解している。けど、地元のネタで本が何冊も出せちゃうということと、それが地元では売れるということに、地に足がついているイメージを受ける。博打的要素が少ないとまでは言わないが、「読みたいでしょ、読みたまえ!」と売るのではなくて、「読みたいんだけど作ってくれる?」「あいよ。ほら、できたよ」という感じだ。需要を生み出すのではなく、需要に応えてるとでも言おうか。

地方の出版社の人からそこの本について詳しく聞いたことはあるんだが、出版ポリシー的な話を聞いたことはあまりない。だから、需要を生み出す云々もただの私のイメージで間違ってるかもしれない。

それに、芸能関係なんかも需要に応えてるんだろうと考えると、ちょっとわからなくなる。ただ、あのいっぱい出ているビジネス書(どの会社を作ったすごい人とか何をどれだけ売ってすごい人とかの本)との比較として、「生み出す」感は低いと思う。

で、そのうらやむ気持ちのことはすっかり忘れていた。が、ちょうどタイミングが訪れたというか、うまい具合に話が進んで、今回の地元の本になった。

企画段階で「より売れる」ことを考えなかったのは、「主に地元できっちり売っていく」本だと思ったからである。読者層をどこに設定するかとか悩まない。年齢も性別も関係なくて、地元に住んでるという理由で買うだろう。うちの地元の本が出てしばらく経ってるし、地元ネタなら何でもよかったのである。何でもいいってのは極端な言い方だが、基本的な内容を著者と確認した後は、本当に好きに書いてもらって構わなかった。ネタをどう世に出すとか、こういう人たち向けだからこうしようとか、ほとんど悩まなかったのである。

とはいえ、さすがにカバー段階では、全国の書店での効果もちょっとは考えた。けどやっぱり、「地元の本なんだから、地元の私の好きなように作らせてくれ」という、ある意味自費出版に近いような感覚があって、だから、今回はめちゃくちゃ楽しかったのだ。

出版を始めた頃、「ジャンルを絞れ」とよく言われた。地方の小さい出版社のように(少なくとも私が持っているイメージのように)地元本だけに絞ることはできないだろうが、増やしてはいきたい。こんなに楽しいんだということがわかったし、今回の本がきっかけで企画を立てられるようになるかもしれない。

ジャンルを絞るとまではいかなくても、「絞られたジャンルをひとつ持つ」という感じにはできるかもしれない。・・・そこまで考えて、もしかすると地方の小さい出版社は、これまでにそういう道を歩んできたのかも、と思い至った。

出版を始めて7年。小さい規模なりの経営ってのはわかってきたような気がする。潰さない目処も立ったと思う。もしかして今回の本が、地方の出版社の地元本のように、堅実な経営のために力を発揮してくれるかもしれない。

まだ発売もしてないのでわからないけど、すごく前向きな気分になるくらい、作っていて楽しかったのである。

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記事には関係ないこと

 体育会さま、昇進おめでとうございます。
 こないだ見本納品に行って知りました。

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体育会が何なのか知りたい方は、『日本でいちばん小さな出版社』(晶文社)をお読みください。