遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(476) 小説 いつか来た道 また行く道(完) 他 愚かな生き物

2023-12-03 11:59:25 | 小説
            愚かな生き物(2023.11.13日作)



 人が人として
 命の尊さを尊重し合えば
 この世に 醜い 人の殺し合いは起きない
 だが 人間は自我と欲望を持つ生き物
 その自我と欲望が 人を動かし この世に
 二つと無い 尊い人の命を いとも簡単 無雑作に
 奪い取る
 人類 人の歴史始まって以降
 変わる事のない愚行 蛮行 人間
 人としての性根は今も変わらない
 愚かな生き物 人間




            
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             いつか来た道 また行く道(完)          



 
 
 まず二枚の厚手の冬用セーターを戸棚から出してガウンも用意した。
 この時、ふと、閃くものがあった。
 そうだ、わざわざ、夜中を待つ必要はない。機会さえあればいつ遣ってしまってもいいのだ。そうすれば後の仕事も早く済む。要は、好機はいつなのかという事だ !
 わたしの胸は途端に緊張感に包まれた。
 その緊張感を抱いたままわたしは、早速、支度に取り掛かった。
 この前と同じように鉄亜鈴を取り出した。それをタオルで包んでガウンの中に隠した。
 行為に対する不安は当然、消えなかった。
 でも、 別の機会を待っても結果は同じだ、と自分に言い聞かせた。
 最初、わたしは男を酒に酔わせ、熟睡した真夜中に突然、大きな声で叫んで、男が何事かと酔いの醒めない寝ぼけ眼(まなこ)で寝室を出て来た瞬間を狙って、背後から鉄亜鈴を振り下ろす計画を立てていた。一メートル六十五センチのわたしより幾分、背の低い、小太りな男に対して決して無謀な計画だとは思っていなかった。
 だが、男は酒は飲まないと言う。計画は練り直しを迫られた。
 たとえ、練り直しはしないまでも、成功の確率は数段低下するように思えて不安は増した。
 それでも遣らないわ訳にはゆかなかった。いずれにしても、いつ遣っても何処で遣っても、不安の消える事はないのだ、と自分に言い聞かせて、二枚のセーターとタオルで包んだ鉄亜鈴を隠したガウンを持って広間へ戻った。
 男はパンも食べ終えたらしく、ソファーの背もたれに頭を寄せ掛けたまま、上を向いて眼をつぶっていた。
「はい、これを持って来たから寝るまで着ていなさい。それで寒かったらガウンもあるわ」
 わたしは二枚のセーターを男の前のテーブルに置いて言った。
 男は体を起こすとその一枚を手に取った。
 スキーに行く時などに着用する頭から被るタートルネックの、厚手のゆったりした黒のセーターだった。
「ああ、これなら好いや。暖ったかそうだ。なんにしろ、寒くてかなわねえよ」
 男はセーターを広げて満足そうに言った。
「とにかくそれを着ていなさい。それで寒かったら、ガウンもあるから。寝る時には毛布も持って来て上げるわよ」
 わたしは腕に抱えたガウンの中でタオルに包んだ鉄亜鈴を握り締めながら穏やかな口調で言った。
  男には警戒する様子が全く見られなかった。今まで人気のなかった大広間の寒さに耐え切れなくなったように早速、手にしたセーターに腕を通し始めた。
「どう、着られるでしょう」
 わたしは言いながら男の横に立った位置から少しずつ体を男の後方へと移動させて、その時のチャンスを待った。
  心臓の鼓動が自ずと速くなるのが自分でも分かった。
 それでも決意は揺るがなかった。
「うん、大丈夫だ」
 男は言いながら腕を通した後、頭を入れた。
 男には何も見えなくなった。
 今だ !
 わたしは急いで男の背後に廻わり、タオルに包んだままの鉄亜鈴をガウンから取り出してその瞬間に備えた。
 男の頭がセーターの中から現れた。
 わたしに迷いはなかった。一気に男の後頭部めがけて鉄亜鈴を振り下ろしていた。
 男は中沢の時と同じように小さなうめき声を上げて身体を硬直させると、次の瞬間には前のめりになってテーブルに伏せるようにして倒れ込んだ。
 男がパンを食べた後に飲んだコーヒーの缶が転がり、僅かな残りがテーブルの上に流れ出た。
 男は即死だった。頭部から血が流れ出ていた。
 わたしは慌てて残されたセーターを頭の下に敷いて、傷口にタオルを押し当てた。
 出血は幸い少なくて済んだ。 
 頭蓋骨が大きく陥没していた。
 水を含んだような感触が指先に伝わって来た。
 男もまた白目を露出させていた。
 口を開け、半分、舌を突き出していた。
 そんな男の形相にわたしは始めて恐怖と寒気を覚えて身体が震えた。
 震えは抑えようとしても抑えられなかった。
 身体中から力が抜けていた。
 足が床に着いていない感触だった。
 そんな自分に気付くとわたしは、  " 何を怯えているんだ、しっかりしなくちゃ駄目だ 。これからはもっと大事な仕事が待っているんだぞ ! " と自身を叱咤した。
  改めて気を取り直すとわたしは小走りに運動室へ走った。
 手早く運動着に着替えて玄関へ向かった。
 靴入れから長靴を取り出して履いた。
 さあ、男を埋めるのだ。それも中沢の時と同じく、今夜のうちに遣ってしまわなければならない。
 外へ出ると一面雪で覆われた景色が新たな感覚で眼に飛び込んで来て思わぬ不安に捉われた。
 この雪で、中沢の時と同じ様に旨く地面が掘れるだろうか ?
 もし、凍っていたらどうしよう ?
 不安は大きくなった。
 でも、何れにしても遣ってしまわなければならない。わたしが、わたしとして生きる為には、何としても、どんな事があっても、遣ってしまわなければならないのだ !
 自分に言い聞かせるとそのまま、この前と同じ様にスコップが置いてある物置へ走った。
 いずれにしても、いつか来た道だ、手順は分かっている。たとえ、この道が、また行く道であったにしても、遣らなければならないのだ。
 わたしは胸の中で呟いていた。





            完




           
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            桂蓮様
 
           
             久し振りに新作 拝見しました
            一年の速さ 驚異的です 文字通り アッという間です
            年齢を重ねるに連れ速くなる 以前 ブログ内にも書きましたが
            人生幼い頃 若い頃は一日も早く大人になって自由になりたい
            そんな気持ちの為 日々がなかなか過ぎて行かない
            言わば上りの坂を歩いているのと同じ事 それに比して大人になった自分には
            総てが自分の意志一つで決定される 峠の頂上に達したという事
            後は下りの道があるだけ 上りの道はきつい道 早く終わればいいと思いながら
            その道がなかなか終わらない
            一方 下りの道は体を自然に任せるだけで無意識裡に下って行く 
            楽な時間で楽な時間は時の長さを意識しない 故に気が付いた時には
            何時の間にか時が過ぎていた
            それと同じ事だと思います 何れにしても 保ちたい時間は無情に過ぎて
            人を老いの道へと運んで行きます 結局人は今という時間を 自分という存在の今を 
            自分が望んでいる事 考えている事 その実現に向けて精一杯生きる という事より他には
            出来ないのだと思います
             新作 改めて人が生きるという事を考えさせられました
              冒頭の写真 日本の鮨かと思いました
             韓国と日本 文化は近いのだと改めて認識させられました
              有難う御座いました




               takeziisan様

                秋満喫 楽しませて戴きました
               有難う御座います
                クンシラン 今咲く ?
               既に実が赤くなる季節 わが家のラン まだ実が青い
               季節感が全くなくなってしまいました ちょっと寂しい気がします
                懐かしのメロディー マッチ箱集め 思い出します
               小松菜そろそろ終わり・・・わが家の屋上栽培では
               ホウレンソウの収穫がありました
               歯ざわりが違います 収穫の喜びですね
               干し柿作りと共に羨ましい気持ちで拝見しています
                サザンカの季節 見事な花ですね 知らず知らずに名曲
               さざんかの宿 が意識の中を駆け抜けていました
               銀杏並木の美しい事・・・・画面から秋が匂って来ます               
               と言いながらも もう冬 一年の終わり 年々衰える体力の自覚の寂しさ
               正に人生 秋から冬へかけての道を歩んでいます
                親睦会 わたくし共も同窓会がコロナの前に年齢を考慮して
               これが最後という事で終わりました やはり寂しいものです
                菊香る 墓石に映る 鰯雲
               一番 心に響きました 勿論 他の作品もその通り
               ほくそ笑みながら楽しく拝見させて戴きました
                何時もながら 楽しい時が過ごせました 有難う御座います