遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉 19 人生の時ーー二人の歌手 そしてわたし

2014-11-09 13:47:46 | 日記
          人生の時ーー二人の歌手 そしてわたし(2011.2.17日作)

              (この文章は 島倉千代子さんの生前に書いたものです)


   この国が 第二次世界大戦に敗北し

   廃墟同然の国土を抱えて始まった戦後

   まだ 貧しかった頃 それでも人々は

   未来を見つめ 活力だけは失わなかった時代

   1950年代

   ようやく取り戻した自由な社会状況の下

   多くの芸能関係者が生まれる中に その

   女性流行歌歌手二人も生まれた

   島倉千代子と西田佐知子

   共に 1938年四月生まれのわたしと同年代の

   1938年三月生まれと1939年一月生まれ

   片や 戦前のこの国の風俗 その匂いを残す

   古風な情緒を代表するように歌う

   島倉千代子

   片や 戦後の荒廃したこの国に生きる人々の

   やるせなさ 未来への そこはかとない不安

   そんな心情を代表するように歌う

   西田佐知子

   それぞれが それぞれに多くの大衆

   人々の心を魅了して

   一つの時代を築いた

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   あれから幾十年かの時が過ぎ

   わたしたち世代も年老いた2011年

   すでに残された人生の時は短く

   うず高く積み上げられた過去の時間が

   幾重もの光と影を交錯させながら

   おまえは その中でなにをして来たのか と

   自身の人生 歩んで来た道筋を問いただす

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   人 それぞれが歩んだ人生

   それぞれが それぞれに持つ時間の中で

   追い求めた夢

   ある人は その夢にたどり着き

   ある人は 夢破れて 本意を外れた道をゆく

   叶えられた夢 叶えられなかった夢

   もはや たどり直す事の出来ない人生の時 過ぎた日々が

   幸福の甘い香りの中に浮かび上がる人もいれば

   苦い悔悟に塗り潰され 苦汁に染められて

   甦る人もいるだろう

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   島倉千代子と西田佐知子

   時は二人の上にも同じように流れ

   しかし 歩んだ道は それぞれに異なって

   一度は結婚生活に身を投じながら ふたたび

   歌一筋の世界に舞い戻った島倉千代子

   片や 歌の世界にさらりと見切りを付けて ふたたび

   人々の前に立つ事のなかった西田佐知子

   それぞれが それぞれに歩んだ道

   そして今 人生の時も最終章を迎えて

   それぞれが それぞれの道を全うした 二人の心には

   どんな思いがあるのだろう

   これが わたしの人生 これで良かった

   あるいは心静かに 過ぎ去った日々

   あの時 この時を思い浮かべながら

   もう一つの別の人生 もう一つの自分の姿を

   それぞれに 心に描く事があるのだろうか

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   今 二人とはまったく同じ時代 同じ世の中を

   二人とはまったく異なった道とはいえ

   一つの人生 日々 日常を生きた事には変わりのない

   そんなわたしの 心にあるのは 過ぎ去った日々

   あの時 この時の 喜び哀しみ 怒りと嘆き 

   悔悟と満足 得意と失意 幸不幸 すべてが入り交じった

   そして 再び帰り来ぬ日々への

   愛おしさ 懐かしさであり

   再びたどり直すことの出来ない人の生への 静かなー諦念

   すべて良し これがわたしの人生・・・今

   わたしの心は極めて静かだ

   やがて来る人生の終わり 死がすべてを包んで

   わたしを無の世界と運んでゆくだろう

   その時を前にして わたしは 

   わたしの心に言う

   すべて良し これがわたしの人生