間諜X27
1931年/アメリカ
愛憎の証しとしてのピアノ曲
総合 90点
ストーリー 0点
キャスト 0点
演出 0点
ビジュアル 0点
音楽 0点
主人公のX27ことマリー・コログランを演じるマレーネ・ディートリッヒの、作品冒頭のガス自殺を図ってアパートから運び出される白い布がかけられた娼婦の死体を見つめる視線から、ロシアのクラノウ大佐を逃走させた罪で目隠しを拒絶して銃殺される際の視線に至るまでクールに装うのであるが、決して冷徹ではないことを彼女はピアノを弾くことで証明する。
ヒンダウ大佐を自殺に追いやり、クラノウ大佐と接触を試みるあたりまではイヴァノヴィチの「ドナウ川のさざなみ」やベートーヴェンの「月光」を弾いているのであるが、クラノウ大佐を追うようにして、キャサリンという偽名を使って、家政婦として将校宿舎に乗り込んだ時には収集した情報を暗号に変えて楽譜に書き込む。その曲に「ロシアの大佐を躍らせて」とタイトルを付けた大佐は、ピアノが弾けないという大佐の言葉を信じて既成の曲を弾いて誤魔化そうとするX27の代わりに自ら弾き始め「1つの音符が1000人の兵の死を意味するのだろう」とつぶやき、やがてその楽譜を燃やしてしまう。黒猫を抱きながら、そのような大佐の言動を見つめ、あくまでも冷静を装うマレーネ・ディートリッヒ。後に暗譜していた曲を情熱を込めて弾きながら楽譜に書き起こす彼女の記憶力は1000人の敵兵に対する憎悪と同時に、一人の男性に対する愛情によって強化されていたはずであり、燃やされた楽譜の炎は怨念と情念が入り混じった比喩であったことを私たちは遅ればせながら知ることになる。
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