[2009年04月21日 18:15]
メールで記事を紹介する印刷する. 「雇用調整助成金に救われた。社員を解雇せずに済んだ」。先日、知り合いの企業経営者と街で立ち話をした際、こんなことを耳にした。世界同時不況で取引先に派遣している技術者の多くを引き揚げざるを得なくなった。想定を超える大幅な受注減となり、技術者を再配置するだけの仕事は確保できない。困り果てていたところ、同業者から助成金制度のことを聞き、早速申請したという。
雇用調整助成金は景気悪化などで事業縮小を余儀なくされた企業が従業員を解雇せず、休業や出向させる場合、手当や賃金の一部を助成するもの。昨年度の政府の緊急対策で中小企業が利用しやすいように要件を緩和、助成率も拡充された。「同じ境遇の会社は県内にも多いはず」。担当記者が調べた結果が十六日付朝刊一面に載った。昨年十月までゼロだった申請件数は年末から急増、今年二月だけで二百三十六件に達した。
未曾有の不況の中、企業が「わらにもすがる」思いで雇用を維持する姿勢がうかがえる。社業発展に貢献してきた社員をそうそう解雇できるものではない。残った社員の士気や企業イメージにも影響が及ぶ。雇用不安が社会全体で広がれば消費は一段と冷え込むだろう。行政も企業も今は心を合わせて雇用確保を最優先に取り組む時である。
あの手この手を打つも景気は快方に向かわない。政府は本年度の追加対策の実施を決めた。財政支出は十五兆円、事業規模は五十六兆円超。過去最大規模の大型対策となる。雇用支援や資金繰り、環境などの成長分野に重点配分する。ただ、国もさすがに金がなくなった。十兆円の国債を追加発行し、財源に充てる。
バブル崩壊後の財政出動で国・地方を合わせた借金は五百兆円増え、八百兆円を超えた。「不況を一刻も早く脱出したい」のは国民共通の願いだが、将来の世代にさらに重い付けが残らないか気掛かりだ。経済対策が選挙前の“お手盛り”とならないよう、政策効果について国会で論議を尽くし、後始末もきっちりしてもらいたい。
(政治部長・田中 竜