時事コラム「風」
70%を超える支持率を得て鳩山内閣が船出した。川辺川ダム(熊本県)など140件以上のダムや導水路(国土交通省所管)の見直し、国の出先機関の原則廃止、全公益法人の精査―。「無駄の排除」に向け、次々と“のろし”を上げている。
本年度補正予算の一部凍結を含む「見直し」の方針も示された。これはマニフェスト(政権公約)の実現に向けた財源確保策の一環ともされる。政権交代を国民に強く印象づけていることは間違いないだろう。
大きくうねる時代の中で、不安と緊張感に包まれている地域が県内にある。ダム湖の地盤から水が漏れ、計画通りに給水できていない大蘇ダム(熊本県産山村)の問題に直面している受益地の竹田市荻町だ。
大蘇ダムは農林水産省所管の農業用ダム。1979年に事業着手した。8年後に完成予定だったが、計画変更が繰り返され、総事業費は当初の約130億円から約593億円にまで膨らんでいる。しかし、30年を経てもいまだに計画した給水能力を備えていない。
今年4月、農林水産副大臣(当時)は、漏水防止工事をするかしないかを含め「秋には方向性を出す」との考えを示した。7月には、熊本県を訪れた民主党の鳩山由紀夫代表(現首相)が「なぜこんなダムに、さらにお金を投入するのか」と述べ、政権獲得時の事業凍結を示唆した。
大きな節目となりそうな「秋」の入り口、鳩山内閣が発足した。水を期待しながら結果が得られず、農林水産省への不信感も募る地元は、当初計画から程遠い状態での事業の凍結や終了を心配している。
果たして新政権はどのように対応するのだろうか。事業効率を優先させて荒療治を選択するのか、それとも地元とじっくり考えて解決策を導き出すのか…。県民が新政権の地域住民に対する「姿勢」を身近に感じる機会にもなるだろう。
政権交代を選択し、変化の扉を開いたのは国民自身だ。選択した者の責任として、新政権の動きをしっかりチェックすることを忘れてはいけない。
(社会部長・甲斐豊純)