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「キリスト教でたどるアメリカ史」森本あんり

2020年03月22日 11時25分33秒 | 読書(宗教)
「キリスト教でたどるアメリカ史」森本あんり
 
宗教からアメリカを切り込む、って作品は少ない。
日常に宗教が大きく絡んでいるにもかかわらず。
一般向けに書かれた貴重な作品と思う。
ちなみに著者は、牧師で、国際基督教大学教授。
 
P15
しばしば、コロンブスは地球が丸いことを教会当局に証明しようとして航海に出たとされるが、これは誤解である。地球が平らでなく丸いことはギリシア時代から知られており、当時の船乗りたちや地図製作者たちの常識となっていた。
 
P20
16世紀の覇者スペインは、キリスト教世界の威信をかけてオスマン帝国と戦い、カトリックの大義を掲げてオランダの反乱勢力と戦い、ヨーロッパの覇権を求めてフランスと戦ううちに、国力を使い果たしていった。
 
17世紀ピューリタン
P41
クリスマスやイースターはカトリック的な行事なので、特別なことは何もしない。そればかりか、クリスマスに贈り物を交換したり着飾って外出したり宴会を催したりすると、罰金を科されることになる。
P43
イングランドで迫害された彼らは、ニューイングランドではむしろ迫害する側に立って、異なる信仰を排除することもあった。(差別された者は、立場が変われば同じことをする・・・残念なことに、これはよくあることで、パレスチナ問題にも言える)
 
P67
そのような(「三角貿易」)奴隷船の船長の1人が、賛美歌「アメイジング・グレイス」を作詞したニュートンである。(熱心なクリスチャンがレイシストだった?音楽の美しさと人間性は関係ない、ってこと?・・・現在のモラルで過去を断罪できないけど)
 
P97
19世紀に入ると、ヨーロッパでの産業革命の進行とジャガイモの不作で貧窮した移民が大量にアメリカに流入し、彼らの持ち込むカトリック信仰が次第に批判の標的とされるようになる。「ネイティヴィズム」(Nativism)と呼ばれる排斥運動は、この頃始まったものである。(反カトリックは根強いのか、カトリックの大統領はケネディだけだ)(追記:2021年1月20日、ジョー・バイデン氏が、米史上2人目のカトリックの大統領となった)
 
P144
奴隷制度は黒人だけの問題でなく、女性の問題でもあった。夫たちが結婚関係をないがしろにして黒人女性に子どもを産ませるからである。
 
P153
「分離すれども平等」(separate but equal)というこの差別的な待遇は、1896年の連邦裁判所判決によって支持され、1954年に覆されるまで、アメリカの人種差別を正当化するドクトリンであり続けた。
 
P182
「ファンダメンタリズム」は、その後隆盛した「イスラム原理主義」との連想から、忌避される言葉となった。代わりに人々が自称として用いるようになったのが、広義に「プロテスタント」を意味する「福音派」(Evangelicalという呼称である。現代アメリカで使われる際の語感としては、聖書的な権威の尊重、贖罪と回心の重視、伝道への熱心などが共通して含意される。堕胎や同性婚などをめぐる見解は保守的で、特にこれらを議題とする人々を「宗教右派」と呼ぶこともある。
 
【資料】
 
【検討課題】・・・セイラム村の魔女事件
P52:この経過には指導的牧師のマザー父子もそれぞれ賛否を表明しているが、概して牧師たちの関与は間接的で、裁判当事者に慎重さを求めるものであった。
著者は牧師に対しても事件に対しても好意的に書いているが、中野京子さんが異なる意見を書かれているので、次に紹介しておく。
【アメリカの魔女狩り】
 
【おまけ】
P99:シャムロック=アイルランドの象徴、とある。
松田志乃ぶさんの短編「これはかぼちゃ王国の鍵」に、次のような箇所がある。
P274(エリザベスは順序で言えば十一番目の子どもか。ジュリエットと一番仲のよかった姉――シャムロックの修道院に入ったというのはこの子だな。賢そうな顔立ちのきれいな娘だ)
つまり何が言いたいかと言うと、ハーツランド=アイルランドということだ。ジュリエットはアイルランドから来たのだ。ちなみに、エリザベスは後ほど「たんぽぽと卵」のヒロインとして登場し、シャムロック修道院から1週間の長旅をへて王都へやってくる。
 
【さらに脱線】
EU離脱ではアイルランド北部が英国なので、国境をどうするかでもめている。また、Brexitに絡んで、Megxitなる造語もできた。メーガン妃が王室から「離脱」するのに付けたニックネームだ。洒落た言葉のように感じていたが、そうではないと言う考えもある。次に紹介しておく。
この言葉は新しいわけではなく、メーガンが受けてきた差別を象徴する暗い背景をもつという。
メグジットは2018年5月2人の結婚式ごろからSNS上に現れ、母親が黒人のメーガンへのヘイトキャンペーンに由来するらしい。これはメーガンを英国と英王室から追い出すことを目的とし、人種差別的、性差別的な画像や言葉を伴うことが多い。このハッシュタグを用いた投稿の多くは、彼女がscheming(狡猾な)social climber(成り上がり)で、世界的セレブを目指すためにハリーと王室を利用していると主張。メーガンが妊娠を発表すると、そうした攻撃はさらに増えたという。こうしたdisturbing(不穏な)背景を考えると、メグジットはloaded term(含みの多い言葉)だと言え、使わないほうがいいという声も上がっている。(by ロッシェル・カップ Globe, March 2020 No.227)
脱線ついでに書いておくと、メーガン妃は「SUITS/スーツ」でレイチェル役に出演して有名になった。日本にもファンは多いと思う。「SUITS」は衣服のスーツ以外にも、法廷という意味もある。つまりタイトルはdouble meaningで、「高級スーツ」に象徴される弁護士が活躍する「法廷ドラマ」ですよ、と。
さらに脱線すると、法廷というとcourtの単語を思い出すが、フランス革命の際「テニスコートの誓い」(憲法制定まで解散しないことを誓い合った事件)を授業で習う。これもdouble meaningで、テニスコートと「法廷・裁判所」の両義となっている、と思う。(まったく関係ないけど、「SUITS/スーツ」はBLが潜在テーマになってヒットしたように思う)
 
【余計な一言】
キリストというと「愛」だが、もし、イエス・キリストが誕生しなければ、多くの戦争とトラブルを回避出来たかもしれない。これってパラドックス?
 
【関連図書】
「キリスト教と戦争」石川明人
https://blog.goo.ne.jp/takimoto_2010/e/2ac917e48b5a25d43e24a80ff43cd236
「私たち、戦争人間について」石川明人
https://blog.goo.ne.jp/takimoto_2010/e/d9733d35e083014d4c76809e0f15c770
「プロテスタンティズム 宗教改革から現代政治まで」深井智朗
「アメリカと宗教」堀内一史
 
【ネット上の紹介】
アメリカがアメリカと「なってゆく」過程を知らずして、今日の実像を理解することはできない―。苦難の連続の建国前夜から陰謀論・反知性主義が渦巻く現代の混沌まで、彼の国を一貫して突き動かし、その寄る辺となってきた理念とは、まさしくキリスト教そのものであった。自由・寛容・狂信・傲慢…相反する両面を携えて、驀進する宗教国家の軌跡を一冊で通覧する。神学・宗教学の泰斗が記す、全く新しいアメリカ史。
「アメリカ」の始まり
ニューイングランドの建設
ピューリタンの信仰と生活
大覚醒
独立革命期
諸教会の伸展と変容
アンテベラム時代
新しい信仰の諸形態
南北戦争期
アメリカの膨張
二つの世界大戦
戦後から現代へ
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