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「とめられなかった戦争」加藤陽子

2020年08月27日 10時48分59秒 | 読書(昭和史/平成史)
「とめられなかった戦争」加藤陽子

どうして止められなかったのか?
止めるとすれば、分岐点はどこか?
次の4章に分けて考察されている。

第1章 敗戦への道―1944年(昭和19年)・・・サイパン陥落
第2章 日米開戦決断と記憶―1941年(昭和16年)
第3章 日中戦争長期化の誤算―1937年(昭和12年)
第4章 満州事変暴走の原点―1933年(昭和8年)

P18
第一次世界大戦後のドイツにおいて、アメリカのウィルソン大統領が戦争終結前に示した休戦協定案への不満が高まったことへの反省から、第二次世界大戦勃発後のアメリカにおいては、戦争の終結は、無条件降伏を相手に強いる形でおこなうしかないとの考え方が生まれました。

P41
太平洋戦争は、機動部隊こそが海上における決定的な戦力であることが明らかになった戦争です。ところが、その決定的な戦力である機動部隊を、日本はマリアナ沖海戦で失ってしまった。(航空機の時代になっているのに、艦隊決戦思想が抜けなかった。当時の軍部エリートは、日露戦争勝利を引きずって、情報をアップデート出来ず、柔軟に対応できなかった・・・今の官僚は大丈夫?)

P54
「日中戦争・太平洋戦争での戦死者三百十万人の大半は、サイパン以後の1年余りの期間に戦死している」(ここで降伏していたら、東京大空襲も原爆もなかった)

P108
では事変とは何か。国際法上の戦争、すなわち当時国が戦争状態に入ることを宣言しておこなわれる戦争、ではない紛争・衝突の状態です。つまり、いま日中戦争と呼んでいるものは、当時は戦争ではなかった。日本・中国とも、戦争であることを望まなかったのです。それはなぜか。最大の要因はアメリカの存在、正確にはアメリカの「中立法」の存在です。

P120-121
日中戦争前の時期、中国では国民政府の指導のもとに日本製品のボイコットがおこなわれました。当時の常識では、ある国が他のある国のものをボイコットするのは国際法違反になるとされていました。(中略)
経済的にこうむった不利益に対して武力で仕返しをするのは穏当ではない、と当然思われるでしょう。でもこれを「相手が悪いことをしたのだから、武力攻撃をしてもいいのだ」と言い換えれば、この発想は現代にもしっかりいきのこっています。9・11の後にアメリカがアフガニスタンやイラクでおこなったことが、まさにこれだといえば、おわかりいただけるでしょう。1938年の日本と2001年のアメリカは、ほぼ同じ感覚で目前の戦争を認識していた。奇妙な、そしてある意味で恐ろしい一致であるというべきでしょう。

P122
 帝国政府は爾後国民政府を対手とせず。
この文言について、二日後には、さらに駄目押しの補足的説明を発表しています。
 爾後国民政府を対手をせずと云うは同政府の否認よりも強いものである。
・・・・・・国民政府を否認すると共に之を抹殺せんとするのである
国民政府などもはや相手にしない、否認どころか抹殺するのだ――一国の政府が出す声明としては、あまりの口調というほかはありません。
(中略)
ともあれ、38年1月の政府声明で日本は、現に戦ってる相手を否定し、外交による講話の可能性を自ら閉ざしました

【参考リンク】(以下、本作同様、重要点を書き出しているので、気になる作品をチェックしてみて)
①「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」加藤陽子 
②「戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗」加藤陽子
③「昭和史裁判」半藤一利/加藤陽子 
④「戦争と日本人 テロリズムの子どもたちへ」  加藤陽子/佐高信
⑤「歴史からの伝言」加藤陽子/佐藤優/福田和也

【ネット上の紹介】
なぜ戦争の拡大をとめることができなかったのか、なぜ敗戦の一年前に戦争をやめることができなかったのか。歴史の流れを決定づけた満州事変、日中戦争、日米開戦、サイパン陥落。この4つのターニングポイントから、歴史をさかのぼり、戦争へと突き進んだ激動の昭和を、人々の思いが今なお染みついた土地と史料から考えていく。
第1章 敗戦への道―1944年(昭和19年)(西太平洋の小さな島々
緒戦の大勝、そして暗転 ほか)
第2章 日米開戦決断と記憶―1941年(昭和16年)(国力と精神力
「泥沼」からの脱出めざして南進へ ほか)
第3章 日中戦争長期化の誤算―1937年(昭和12年)(長江をさかのぼって
自衛と膺懲 ほか)
第4章 満州事変暴走の原点―1933年(昭和8年)(「起こった」と「起こされた」
「満蒙」の誕生 ほか)
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