Takの山行記録とバイオリンとかAIとか

山行記録に加えて必死に練習中のバイオリン、必死に勉強中のAIについて

滑落

2015-05-06 00:40:39 | 日記

ラク!その声で上を向くと、人が2人、滑落だ。あっ、と思って身を避けた20m右を、ブン、と猛スピードで転がっていった。5月5日、朝7時頃、涸沢から奥穂高岳に向かう、あの大カールの、穂高岳山荘のあるコルから200mほど下の急斜面に取りついていた。右上、急斜面の取りつき部分に2人、いることは何となく記憶している。何があったのか分からない。昨夜降った雨が、相当固く閉まっていたため、滑落のスピードが凄かったのだと思う。ザックとピッケルがばらばらに落ち、サックの中身も散乱していたので、恐らく、何かの準備をしていたときに、何か、不測の事態が起こったのかもしれない。1人が落ち、もう1人が巻き込まれたようだ。ザイテングラートの横、あずき沢を600m滑落、二人とも亡くなった。50代の男女だそうだ。

5日は、5時に涸沢ヒュッテを出発、奥穂高岳を目指した。昨日来の雨は予報通りあがり、天気は上々、これからどんどん良くなると思われる。涸沢カールはまだ一面雪に覆われ、直登が可能だ。早朝、2,300mの涸沢ヒュッテ近辺は、雪も適度に締り、アイゼンがよく効く。ザイテングラートを右手に高度を上げると、斜度もきつく、雪も固く締り、相当ビビる。コルまでもう少し、という、こんなときに事故は起きた。

昨夜は、ヒュッテで相当長い時間を過ごした。「岳」を3巻も読んだ。目の前で起こった出来事は、あのコミックの世界そのままだ。滑落し、外傷性ショック死。目の前を落ちていった人も、人形のように、手と足をばらばらに振りながら、いった。すでに意識はなかったのだろう。この時間、カール全体が、固く締まっていた。3時間後、同じ斜面は、春のザラメ雪に戻っていた。この状態では、あんな事故はありえない。ほんの限られた時間帯、一瞬のミスが、大事故になるのだ。

事故を目撃した直後、正直、ショックで、ただでさえビビっていたわけだから、もう、このまま下山したかった。でも、下るのもまた怖いので、とりあえずコル目指して登ることにした。何しろ安全な場所に行きたかった。コルには、穂高岳山荘がある。

ラク!今度はストックが降ってきた!やはり2人が滑落したあたりに3人見える。後でわかった話だが、この3人も相当危ない状況だったようだ。アイゼン、ピッケル無しでこの状況を降りようとしていた、韓国人グループ。何事もなく、本当に良かった。岐阜県警のレスキューの皆さんのおかげと思う。

コルまで登ると一気に快晴となった。下り斜面は陽が当たれば緩む。その間、当初目的の奥穂高岳に向かう。梯子と鎖で最初の直登を登ると固い雪の急斜面が現れる。今日のショッキングな状況ではもう、無理!あえなく撤退。雪の全く付いていない反対側の涸沢岳に登って心を癒すことに。そこからは360度の大パノラマが!天気最高、眺望最高の山行だった。下山も雪は緩み、危険を感じることもなく、むしろあんなことが起こったということ自体信じられない状態で、今、こうしてブログを書いている。しかし、今日を境に、何かが変わった。山は怖い。これからは、もっとビビって山に向かうことになるのだろう。でも、それでよいのだ!

朝の穂高連峰。左の白いコルが、今回の舞台。この左手が穂高連峰の主峰、奥穂高岳(3,190m)、コルをはさんで右が涸沢岳(3,110m)さらに右のキレットをはさんで北穂高岳(3,106m)。コルの右下の細長い岩稜がザイテングラート。この右横を滑落していった。

涸沢から見た北穂高岳。下には色とりどりのテント村が開業中。この右には涸沢山荘もあり、朝7時と言えば、多くの人が、テントやテラスから、雄大な穂高連峰を眺めていたことだろう。その、多くの人たちが見ている場所で、まさに事故は起こった。

コルから見下ろすとこうなる。すぐに急斜面となり、事故現場は見えない。おそらく、下山しようと急斜面まで行ったところで、固い斜面と強い風に、何らかの対応をしようとしたのではないか。

登頂を断念した(ビビった)奥穂高岳山頂部。反対の涸沢岳より。表情もビビっている。

今回もCobb氏に同行をお願いした。槍ヶ岳、圧巻の雄姿。

奥穂高と背後のジャンダルム(3,163m)。

北穂高。ここへの縦走は困難を極める。

標高2,983mの穂高岳山荘。4月末からの営業再開、岐阜県警の皆さんが常駐している。穂高連峰は難易度が高く、遭難も頻発する。

この斜面、斜度感は伝わらないが、ここを流れた。

放心状態の図。

最後は、上高地の明神池ほとりの、穂高神社奥宮に参拝。北アルプス一帯をつかさどる神宮で、奥穂高山頂にも御宮がある。ここでこれからの安全登山を祈願して、今回の活動は終了。気を取り直してまた行くぞ!!次回をお楽しみに。


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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
リアル (Toshi)
2015-05-06 15:34:49
滑落の現場など一生に一度も見たくはないですが、
観たのですね。
雪崩れも一生に一度も遭遇はしたくないはないです。

先日、札幌の登山愛好家の女性がエヴェレストで野営中、例のネパール大地震
に見舞われ雪崩に飲み込まれたのに、九死に一生を得て帰国、道新に記事が
出ておりました。
一緒の男性は死亡したようです。

生死の境、幸不幸の境、
その一瞬の境を目の当たりにした貴重な一日でしたね。

次回の山も楽しみにしています。

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Unknown (Unknown)
2015-05-06 15:36:30
すみません。

二重否定は肯定を表す・・になっていました。

雪崩れも一生に一度も遭遇はしたくないはないです。

雪崩れも一生に一度も遭遇はしたくはないです。

です。
キッパリ
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新聞にも (Tak)
2015-05-06 15:58:53
Toshiさん、今日は出勤ですか?日経にもデカく掲載されていて驚きました。多くの登山者が、一列に連なって、クライムダウンするのを見るにつけ、誰かが落ちたらどうなるのか、考えたくも無いですね。
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まさかなぁ・・・ (Amigo)
2015-05-06 21:30:44
GWの山旅を続ける中、その滑落事故をラジオのニュースで耳にしたとき、正直「Takじゃないだろうな?」と、Hiromiにつぶやいたのよ。
よかったが、紙一重だよな。
同行者が経験豊富なようなので、ホッ・・・
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紙一重 (Tak)
2015-05-06 21:48:37
Amigoさん、紙一重でこんな事、起こるんですね。楽観と油断が大敵と今日程噛み締めた事はありませんでした。
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怖い・・・ (hiromi)
2015-05-07 21:32:26
昨日も今日も読みましたが、本当に恐ろしい・・・ちょっと慣れてきたかもと甘く考えていると大変なことになりますね。常に謙虚に冷静に山を楽しみたいと思いました。つい先日もAmigoさんに「ここは雪が固い、落ちたらどこまでも落ちていくから向こうを回れ!」と注意喚起してくれました。そのまま、かかとを雪にさしてぽんぽん下っていたら転がり落ちていたところでした。改めて感謝です。TAKさんのブログを読んで気が引き締まりました。
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実は高所恐怖症 (Tak)
2015-05-07 23:20:58
Hiromiちゃん、僕は実は高所恐怖症で、相当なびびりです。何と無く、自覚はありましたが、今回、確信に変わりました。早く気がついてよかったと思います。これからは、ブログ名を、Takのビビり山行記録、に変えようと思っています。
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