北欧スウェーデン の生き方情報 スウェーデン報

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ニルスの不思議な旅

2020-08-17 16:45:32 | イギリス

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スコーネ中南部にある西ヴェンヘンメイというところに
14歳ぐらいの少年が住んでいた。

 



少年の名前は、ニルス・ホルゲルソン。

もしかすると日本で最もよく知られているスウェーデン人かもしれない。

(余談だが、以前、名前について書いた内容をご記憶の方には
もうお分かりだろうが、父親の名前は、ホルゲル・ニルソン。
つまり、ニルスのおじいちゃんもニルスという名前だったらしい)


農家に住むトムテ(小人)にいたずらをしたため、
自分も小人にされてしまう少年だ。

ニルスは、雁の群れと一緒にラップランド(スウェーデンの最北)
行きたがる自分の家のガチョウのモルテンを引き留めようとして、
結局自分もその旅に出ることになる。


そして、長い旅の結果、いたずらで怠け者の少年から、
賢く思いやり深い少年へと変身していくのである。


実は、私も子供の頃、この話を読んだことがある。

しかし、それが、スウェーデン の話だったという記憶もないし、
内容にもさして深い感銘を受けなかった。


ところが、スウェーデン関係のホームページを見るようになって、
日本ではこの話がアニメになったこともあってか、
かなり根強いファンがいることを知った。



その一人のおすすめの完訳に近い偕成社文庫の全4巻を読んでみた

 




おもしろかった。


作者のセルマ・ラーゲレフはスウェーデンの中西部モールバッカの
旧家にうまれた。

実は、彼女は、女性で初めてノーベル文学賞をとった人だ。

しかも、それは、スウェーデンで初めてのノーベル賞でもあった。

そのせいか、旧20クローネ札は、表がセルマ、裏はニルスの図柄
(ちなみに新20クローネ札は、アストリッド・リンドグレーン)



日本語にもいくつか訳されているが、ニルス以外は、
廃刊になっているようで、手に入りにくい。

多くが、スウェーデンの伝承や、
キリスト教精神に基づいて書かれたものである。

もちろん「ニルス」もその二つの基本満載。

そもそも、この話は、スウェーデンの教育委員会の依頼で、
小学生用のスウェーデンの地理や歴史を興味深く学ぶための
副教材として書かれた。


セルマは、その企画に共感し、この仕事を是非したいと思ったのだ
同時にその難しさにも苦慮した。

そして、三年の月日をかけて書き上げるのだ。

その顛末は、本文の中にも載っている。

セルマとおぼしき女性作家が、今は人手に渡ってしまった
自分の生家をこっそり訪ねるくだりがある。

子供のための地理の本を書く仕事に行き詰まっていたその女性作家は、
生家の庭で、小人のニルスに会う。

そして、ニルスの不思議な旅について聞き、
それを書けばいいと思いつくのである。


ニルスという狂言回しを得て、スウェーデンの地理が次々と紹介される。

確かに、一級のスウェーデン案内になっている。

そして、そこには、セルマの哲学も、めいっぱい盛り込まれることになる。

完訳本でない「ニルス」は、全体のストーリーを
簡単に追うだけになってしまって、
このセルマの哲学を十分に堪能することができない。

無理はない。

全部で55章もある力作なのだ。

子供向けにまとめようとするとほとんど割愛されてしまう。

さらに、多くの訳が、英語版からの再訳なので、
スウェーデン語のニュアンスとは違ってきてしまうという弊害もある。


セルマの哲学とは。

内容について書くのも野暮だが、ひとつだけ。


ニルスは、ある日、華やかな都で、市場の商人から物を勧められる

ニルスにはお金がない。

さっき、砂浜で古いコインを見つけたが、古すぎるので、
そのまま捨ててきてしまったのだ。

なぜか、市場の人たちは、商人とニルスのやりとりを息を潜めて注目している。

商人はどんどん値引いてくれる。

でも、ニルスにはお金がない。

買いたくても買えない。

売れない商人は泣きそうになる。

とうとうたまらなくなって、その都から駆け出る。


すると、あったはずの都が消えてしまう。


事情を聞くと、栄華を誇って奢ったために、幻にされてしまった都だという。

一年に一度だけ地上に姿を現し、
誰かに物を売ることができれば、
再び現実の都に戻ることができる。

それで、都の人々は、ニルスと商人の駆け引きに息を呑んでいたのだ。


それを聞いたニルスは、あの時、あの古いコインを拾ってさえいれば、
あの人たちを助けることができたのに、と大泣きする。

そうすれば、あの美しい都が今も現実のものであったのに、
と深い後悔の念にさいなまれる。


面白いでしょ。しかし、話はここでは終わらない。


その後、ニルスは、今は廃墟となったゴットランド島の外れの街を訪れる。

 

そして、それを見ながら、こう思うのだ。

「あの栄華の街も時がたてば、いずれこうなるのだ。
やはり、なるようになるのが、いちばんいいのだ」


セルマは子供時代を過ごしたモールバッカの家を親の倒産によって手放した。

そこは、足に障害があって歩けなかったセルマを、両親が慈しんで育て
なんとか歩けるようにしてくれた家でもあった。

父親がピアノを弾いてダンスを踊った、
温かい思い出のいっぱい詰まった家だった。

ニルスの話の中で、こっそりと生家を訪れた女性作家は、
さびれたその屋敷を前に、今は亡き父親に
「この家にもう一度帰りたい」と祈る。


「ニルス」の発表された2年後1909年、セルマはノーベル賞を受賞する。

そして、その賞金で、この家を買い戻した。

そこで生涯を全うするのである。


今では、バームランドのモールバッカのこの屋敷は、
セルマの博物館として公開され、世界中から多くの人々が訪れてくる。


 


セルマのファールンの書斎

スウェーデン中のいろいろな町にニルスホルゲルソン通りがある。

この物語がいかにスウェーデン国民に愛されているかがわかる。



まだ、環境公害が声高に騒がれていない100年以上前に
セルマはニルスを連れ歩いた雁のリーダーにこう言わせて
この物語を終わっている。


「人間はこの世の中で自分たちだけで暮らしているのだと思ってはいけない。

あんたがたは大きな土地をもっているのだから、
少しばかりの自然を私たちのような貧しい鳥や獣が安心していられるように
分けてくれることができるのだということを、考えてもらいたい」

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