唐牛伝(かろうじでん) 敗者の戦後漂流
発行所 株式会社小学館 2016年8月1日 初版第1刷発行
著者 佐野眞一
1947年 東京生まれ、
97年『旅する巨人宮本常一と渋沢敬三』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
09年『甘粕正彦 乱心の曠野』で講談社ノンフィクション賞を受賞。
この本は、昨年末に読んだものである。
昨年、西部邁氏の評伝を読んでいて、西部氏とともに60年安保時に全学連委員長をしていた唐牛健太郎氏
のことが知りたくなったからである。
私は戦後生まれであるし、60年安保闘争時代は幼児でもあったので、その当時のことはよくわからなかった。
大学生になった時もすでに70年代の全共闘運動も終わっていて、いくらか学内にその名残が残っていたころ
であった。
私はノンポリであったから学生運動に参加したことも無かったので、その詳しい経緯も知らなかった。
ただ新聞やテレビにデモとか、成田闘争や、中核派、革マル派などがでてくるので、気になっていたのである。
その後、東大紛争や連合赤軍事件、あさま山荘事件などに発展して、社会をさわがせたので、今でも記憶に
残っていた次第である。
この作品は、ノンフェクション作家、佐野眞一が橋下徹の人物論で物議を醸して休筆してから、3年ぶりの
本格評伝である。
著者自身も65年大学入学の安保と全共闘の中間世代ということである。
そして、2014年は唐牛の没後30年であったということである。
この本は、60年安保闘争を闘った全学連の闘士たちのその後である。
この本を読んで初めて知ったのだが、彼らの全学連ブント派は、当時の日本共産党と対立し、敵対していた
ということである。
そして、ブント全学連からは政治家は出ていないということである。
私はまず、唐牛がなぜ全学連運動に関わるようになったかが知りたかった。
それは彼の生い立ちにあったのではないかと思う。それと、彼を引き上げた人々がいたことである。
そしていっしょに闘った同志たちがいた。島成郎、青木昌彦、篠原浩一郎、東原吉伸らである。
彼らも政治や経済の世界に入ることなく、ドラマチックな人生を歩んだ。
また驚いたのは、安保闘争の後、山口組組長田岡一雄や最後の黒幕、田中清玄との交流があり、吉本隆明
と共闘し、徳田虎雄とも交流があったということである。
その間、与論島や北海道・紋別でも生活し、千葉、東京に戻って、1984年に47歳でガンで亡くなった
ということであった。
彼らの求めていたものが何であったかはよくわからないが、革命とか主義のためにということとは違うようであった。
何かその時の世の中や、その後の世界のなかに違和感があって、行動に変わっていったのではないかと思った。
現代の世の中の動きの中でも、政治や経済の様々なニュースに日々驚かされているが、それらの表面には
現れない中でまた別の動きと言うか、うごめいているものがあるんではないか、われわれはそのようなものにも
眼を向けていったほうが いいのではないかと感じさせられた。