Interlude:誕生日祝いにて

2012-11-07 18:29:38 | 日記

奥千葉での彷徨を終え、東京の近くまで戻ってウエッキー(小学一年からの友人)宅へ。そこで誕生祝いの商品券を渡す。10万ペリカという額に驚かれたが、まあ結婚祝いも合わせればこんなもんだろう。その後近くの居酒屋へ。裏道にある穴場という感じで、地元民しか知らなそうだが、リピーターも結構いるよおうで繁盛している様子だった(実際焼き鳥はうまかった)。しばらく話し込んでカラオケへGO(詳細は過去ログ参照)。

 

二時間後ウエッキー宅へ戻り、寝るまでの間ヤツの部屋の本をあれこれ物色。法人契約系や英語の契約書に絡む仕事をしているためそっち系の本が多いが、それに混じってホイジンガ吉田松陰マイケル=サンデルなどがあって、一体こいつの頭の中はどうなっているのかと苦笑い(まあ俺も人のことは言えませんがwちなみに玄関口の本棚の三段目は岡崎京子の『東京ガールズブラボー』、もやしもん同人誌の『菌に恋して』、『思想地図β』、高野文子の『おともだち』、丸尾末広の『少女椿』、適菜収『いたこニーチェ』、うるし原智志の『』とかが並んでおりますですハイw)。まあでもウエッキーって小学校時代から早熟で成績優秀というよりは頭脳明晰と評すべき人間だったよな。まあそれでいて結構アホというかネタに走るというか、どっか抜けてるところが憎めないのだがw

 


・・・
・・・・・
そんな本棚ウォッチングの中で、フランクルの『夜と霧』を見つけた。『夜と霧』はユダヤ人収容所に入れられた心理学者の体験記録であるが、人によっては、私が「ヒトラー最期の12日間」のような映画をくり返し取り上げていることを思い起こすかもしれない。もちろん私も読んだことはあるのだが、これまで敢えて触れてこなかった。それは、人に気付きを与えるという点において、私はこの作品を評価していないからだ。それだけ言うと誤解する向きもあると思うので補足しておく。私は作中の抑えた筆致を含め、著者の誠実さや謙虚さに最大限の敬意を払う。これだけの実体験があるのだから、多少誇張したり大げさな推論を展開したとしても、おそらくそこまで面と向かって批判する人は少ないはずだ。しかし著者は、そのような行為とは無縁である。温かみや憤りも持ちながらも、ただ静かに見たものを描いていくのだ。そこには、極限状況を体験した者の「戒め」にも似たものが働いているように思える(たとえば、戦争の前線における地獄を体験した者たちがその記憶を嬉々として語ったりはしないように→「ディア・ハンター」、「父親たちの星条旗」、「大統領の理髪師」)。

 

ではなぜ、私はそのような敬意を払うべき著作を「評価はしない」のか?この本の読者たちは、なるほど主人公たちの有様に感動・感嘆したり、あるいは看守たちの蛮行に憤ったりするかもしれない。しかし「状況が変われば、抑圧者たちと同じ行為を自分もするかもしれない」とは決して思わないのではないか?それでは、これらの凶行はいつまで経ってもただの「風景」である。真に戒めの材料とするのなら、私たちは本編前の解説に出てくるラムドールのような事例(P49~51)の方がよほど有効である。というのは、彼はユダヤ人たち収容所の人間に対して冷酷・残虐な行いをしたのだが、戦後の戦争犯罪裁判で絞首刑を宣告されると、親類や友人からこぞって「そんなことはとてもできる男ではない」という趣旨の助命嘆願がなされたという。もちろん立場による見え方の違いはあるにしても、「良き友人」・「良き夫」が同時にユダヤ人に対しては冷酷な拷問者でもあった、という事実こそいくら強調してもしすぎることはないのである(狂っている集団が狂った行為をした=自分には無関係だと考えることほど楽なものはない)。つまり私たちはここである問いに行き当たらざるをえない。すなわち、「どうしてそのような相反するように思える特徴を兼ね備えることが起こり得るのか」、あるいは「彼らを凶行へと導いた構造は一体どのようなものであろうか?」と。

 

ここで始めて、歴史的な出来事は単なる知識のアーカイブではなく、我々にも深く関わる思考の材料となる。逆に言えば、それなしに単なる悲劇や感動モノを何百回見たとしても、喜怒哀楽を引き起こすサプリメント的な効果しかもたらさないのである(もちろん、AV然りで気持ちよくなりたいのでそういうものを見る、ということ自体を批判するつもりはないが)。私はしつこいぐらいに「ヒトラー最期の12日間」や「es」、「THE WAVE」を取り上げてきたし、また「嘲笑の淵源」や「いい人」問題、あるいは「沙耶の唄」に関するレビューで同様の話をしてきたが、それは以上のような認識に基づいている(ちなみにこれは前後関係を無視した話になるが、その半年後くらいに見た「善き人のためのソナタ」はまさにそのような環境依存や可変性の問題を的確に表現している)。

 

そんなことを思いながら本を戻した。近くにうまいうなぎ屋があるらしく、明日の昼に行かないかと誘われる。実は明日また千葉の奥へ行くかもしれんので、さてどうしようか・・・と曖昧にしたまま寝る。もし起きるのが10時より早ければ千葉へ行くし、それがお昼近くだったらうなぎ屋の方で満足することにしよう。そんなことを思いながら眠りに落ちた。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« オナン博士のFAQ Vol.11 | トップ | デスノート~茫洋とした社会... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事